就労査証基準引き上げというリアル

2027年1月から外国人労働者向け就労査証(ビザ)の発給基準が引き上げられることが発表されました。特に専門職や中堅技術者向けの査証である Employment Pass(以下、EP) や、S Passの最低基本月給要件 が引き上げられるという内容は、単なる制度改定に留まらないメッセージを含んでいます。
内容を詳しく見ていきましょう。
(引用元:Budget 2026: Salary threshold for new Employment Pass applicants to be raised to $6,000 from 2027 | The Straits Times
https://www.straitstimes.com/singapore/budget-2026-salary-threshold-for-new-employment-pass-applicants-to-be-raised-to-6000-from-2027)
(引用元:Singapore’s international travellers rethink global travel amid rising costs and shifting destination perceptions
https://yougov.com/articles/53717-singapores-international-travellers-rethink-global-travel-amid-rising-costs-and-shifting-destination-perceptions)
就労査証基準引き上げというリアル
著者:シンガポールgramフェロー Malay Dragon
公開日:2026年 04月09日
要件の引き上げ

私はシンガポールで12年ほど働いていました。英語が飛び交い、ランチにはさまざまな言語が混じり合う環境は、海外で働くことの醍醐味そのものでした。しかしその一方で、現地人材の待遇の課題が常に存在しているのも肌で感じていました。今回の改定は、まさにそうした現場のリアルを制度設計に反映させるものでしょう。
発表によれば、現行の最低給与基準はEPで月5,600シンガポールドル(約69万円)、S Passで月3,300シンガポール・ドル(約40万円) ですが、これをそれぞれ EP: 6,000ドル(約74万円)、S Pass: 3,600ドルに引き上げるというものです。これは物価上昇や事業環境の変化に対応した調整策であると同時に、労働市場の質に対してより厳格化する意図でもあります。
なぜ基準が上がるのか?
政府側の説明は比較的シンプルです。国民の給与水準が上昇している現状を踏まえ、同時に外国人労働者が地域経済に貢献できる基準を確保したいというものです。
しかしここにはもうひとつ重要な意図があります。つまり、単純に人数を確保するのではなく、企業が本当に必要とする人材を採用するような仕組みを後押しするという視点です。つまり、一定以上の価値を持つ人材を採用するように企業に促す効果を期待しているのです。
これは私が海外で企業と人材紹介会社の双方と話したときにも共通していた感覚で、
「給与は高くても、期待どおりのパフォーマンスを示せる人材が欲しい」。これが企業の本音でしょう。
引き上げがもたらすもの、失うもの
この引き上げは誰にとってプラスなのでしょう。
まず明確なのは、質の高い専門職にとっては評価されやすい環境になるでしょう。企業にとっても、高い給与を支払ってでも即戦力となる人材を確保できるようになる可能性があります。これは価値に基づく採用という観点では両者から歓迎されるでしょう。
一方で、若手や経験の浅い労働者にとっては門戸が狭くなります。現地経験が浅い人材や給与がそれほど高くない人材は、チャンスを失いやすいでしょう。
企業はどう対応するのか
では企業はどう向き合うべきなのでしょうか。
基準が引き上げられるからといって、すぐに採用を止めるわけにはいきません。むしろ、採用基準を見直し、給与構造や職務内容を整理する機会と捉えるべきです。現地人材の育成を強化したり、給与体系を見直すなど、戦略的な対応が求められるでしょう。
制度変更は準備期間を企業に与えています。今回の引き上げは2027年1月から適用と決まっているため、企業は時間をかけて採用戦略を練り直すことができます。制度変更は突然ではなく、準備期間が設けられたのだから、この時間を有効活用すべきでしょう。
制度変更が当たり前のシンガポール
今回のビザの発給基準の改定は、シンガポールの労働政策や経済戦略と密接に結びついています。単に外国人労働者の数を増やすだけではなく、質を担保し、同時に国内労働者の待遇を守るというバランス感覚が求められており、これはどの国にも共通する悩みでしょう。
制度設計は常に「持続可能な共存」を目指しており、この基準引き上げもその流れの一部で、シンガポールはそれをいつも通り率先して厳格化していきます。このスタンスがシンガポールらしさでしょう。





















