シンガポール出生率 過去最低を記録
シンガポールの出生率は過去最低水準に低迷しています。2017年以降、合計特殊出生率は1.2未満で推移し、2022年には年間死亡者数が過去最多となりました。初産年齢の上昇や高齢出産率の増加など、少子高齢化が急速に進行しています。
シンガポールはベビーボーナス制度や住宅支援などの対策を講じていますが、出生率低下の背後にはコスト上昇やライフスタイルの変化も影響しています。この課題は先進国共通のもので、家族とキャリアの両立への期待と競争の中で解決を模索しています。
今回の記事では、日本でも問題になっている出生率の減少について、シンガポールのケースの説明、出生率減少が与える影響についても解説します。
シンガポール出生率 過去最低を記録
著者:シンガポールgramフェロー Malay Dragon
公開日:2023年 9月15日
歴史的低水準
シンガポールは他の先進国と同様に、合計特殊出生率が長年にわたり低下しており、出生率は2017年以来1.2を下回っています。
また、2022年の死亡者数は2万6,891人で、2万4,292人であった2021年のと比べて10.7%増加しており、これは1960年以来、年間総死亡者数で最多となっています。
女性が子供を産み始める年代も高齢化していて、初産の年齢の中央値は、2018年の30.6歳から2022年には31.9歳に上昇しています。また、大卒で初産を経験する人は、2017年の58%から63.6%に増加しており、初産の年齢が年々上昇しています。
急速な高齢化
以前この記事でも紹介したように、シンガポールでも急速に高齢化が進んでいます。
急速な高齢化にともない死亡者数も増加しており、2022年の主な死因は、がん・腫瘍、心臓病、高血圧性疾患となっており、この3つの死因で死亡者数の49.5%を占めています。
また、肺および呼吸器系疾患も主な死因で、死亡者の22.1%を占めており、2021年と比較すると、肺・呼吸器系疾患による死亡の割合は1.8%増加しています。
事故や自殺による死亡者は全体の3.3%で、中でも自殺者数は2022年は476人で、2000年以来最多を記録しており、コロナ禍の不安が影響していると考えられています。
シンガポールの少子高齢化対策
深刻な少子化対策として、シンガポールでは様々な対策を講じています。
少子化対策のひとつに「ベビーボーナス制度」があり、子どもが出生した際には現金が給付され、第1子、第2子は3,000シンガポールドル(約32万円)、第3子以降の場合には6,000シンガポールドル(約64万円)が給付されます。
また、初産の家庭や若い夫婦が住宅の購入申請をする際は優先的に申請でき、現金給付や助成金、政府が支給する有給出産休暇が4週間に延長される対策もあります。
出生率低下の要因
シンガポール国立大学のタン氏によると、出生率が低下している要因としては、子どもが老後の生活を設計する上での要素として見なされなくなってきたことや、コロナ禍やウクライナ戦争、その大きな影響などの不確実性がますます高まる世の中で、子どもを育てていくことのコストが上昇していることなどがあげられると述べています。
また、子どもを育てるには多くの費用が必要となり、コロナ禍で雇用と収入に不安定さの影響が加えられ、それが子どもの数を制約することにもなっていると考えられます。
さらに中間層が現在のライフスタイルを維持するため、共働き世帯が増えたことや、女性がキャリアを優先して晩婚化していることにも要因があると述べています。
先進国に共通の課題
少子化は、国境や民族、文化を超えて先進国に共通する深刻な問題となっています。
世界中のどの国も、かつての貧しい時代には大きな世帯を持っていましたが、豊かになるにつれてその世帯は急速に縮小しています。
多くの希望や期待
シンガポール国民の80%が結婚を望んでおり、77%が子どもをできれば2人以上持ちたいと考えているという調査結果が出ていることに疑問に思うかもしれません。
先進国の人々は、家族を持つことだけではなく、キャリアを追求し、そこでの成功やぜいたくな休暇など、同時にすべてを手に入れることができるという期待をもっています。
今日の生活は以前よりも楽になり、先人たちよりも裕福になっています。しかし、私たちの期待を満たすものには多くのものが競合しています。ショッピング、旅行、高級レストランでの食事、エンタメントなど全てのジャンルで競争の上に勝ち抜いたものが私たちの目の前に並んでいます。
シンガポールを含む多くの先進国では、さまざまな少子化対策を行っているものの、それを解決できていないのは、私たちの期待や願望、野心の強さが根底にあるからではないのでしょうか。
非常に困難な課題に、私たちは向き合っているのです。