ラトビアのスープ文化

エストニア

ラトビアの食事は質素でありながら工夫に富む。その代表がスープである。パンに温かいスープを添えるだけで手軽に満足感のある食事が完成するのが特徴で、スーパーでは多種多様な瓶詰スープが購入できる。特に「日替わりスープ」は街のレストランで大人気で、具だくさんでボリューム満点の一品として親しまれている。鮮やかな冷製ピンクスープや酸味が際立つソリャンカなど、歴史や文化がミックスした多様なスープがラトビアの食文化を彩っている。

ラトビアのスープ文化

著者:ラトビアgram fellow さえきあき
公開日:2025年2月24日

ヨーロッパの夕食文化とスープの魅力

欧州在住邦人の間で定期的に欧州人の食事の質素さが話題になる。中央ヨーロッパでは、夕食にパンとソーセージ、ハム、そしてチーズが出てきてそれで終わり、という形式が伝統的である。便利な調理機器の普及やスーパーでお惣菜を簡単に買えるようになってから、この形式は少しずつ減ってきていると言われている。しかし、それでも簡単な食事で満足する人が多いのも事実だ。

筆者がエストニアとラトビアで現地人の食事を何回も観察したところ、バルト地方においても同じようにこの簡素な夕食形式で満足している人が多かった。特徴的な要素をひとつ付け加えるとすれば、スープの存在である。これがバルト地方以外の国でも一般的かどうかは不明だが、少なくともスーパーには瓶詰スープのセクションがあり、手軽に利用されている。この瓶詰スープには野菜や肉が入っており、そのまま温めるだけで食べられるという便利な代物だ。

もちろん、カップスープや粉末スープも売られている。しかし、特に「温かい一品が欲しい」と思うときに、粉末スープよりも少しだけ健康的に感じられるこの瓶詰スープは非常に重宝される。ヨーロッパ式夕食を簡単に準備する際、スープが重要な役割を果たしていることは間違いない。

瓶詰スープ。既に味付けがされており野菜も入っているため、これを温めている間にパンを焼くと10分もたたずにヨーロッパ式夕食が完成する。

日替わりランチならぬ日替わりスープ

日本で日替わりランチや定食があるように、ラトビアも街のレストランが日替わりでランチを提供している。メニューは店前のウェルカムボードに書かれていたり、店のインスタグラムで告知されていたりする。メニューの大抵一番上に鎮座しているのが「Dienas zupa」。日本語にすると「本日のスープ」である。

スープが日替わりランチと同格に扱われているのだ。お値段は5€前後で日本円にするとスープにしてはまあまあな値段がするのだが、ランチオファーとしては安い部類である。しかも、スープのみの質素な食事と侮ってはいけない。ラトビアで「スープ」と言うと基本的に具だくさんで、パンを付ければ簡単に満足できる。手早く食事を済ませられるというメリットも相まって、日替わりスープは人気のランチオファーなのだ。

近くのカフェが毎日ストーリーで告知している日替わりメニュー。Zupaがスープに当たり、この日はミネストローネとクリームスープの2種類が提供された。

多種多様なスープ

様々な国の出入りの歴史があるラトビア。スープにもその影響は見られる。
ラトビアの観光ガイドにもよく掲載されているのが「ピンクスープ」。ラトビア語では「aukstā zupa」で、その英訳は「冷たいスープ」となる。

ロシア料理のボルシチにも使われるビートという赤いかぶのような根菜を使うのが特徴だ。ビートにケフィアという飲むヨーグルトのような飲料を加え、各家庭の好みに応じて味を調整すると、鮮やかなピンク色のスープが完成する。このスープはラトビア、リトアニア、ポーランド、ベラルーシといった隣接する国々で共通して親しまれており、どの国が発祥かを明確にするのは難しい。

実際、ラトビア人に「リトアニア発祥だと思っていた」と率直な感想を伝えたところ、少し残念そうな表情をされた。現地の人々を前にして発祥地について語ることは、少し控えた方が良いかもしれない。

ラトビアが発祥ではないが、どこでも見かけるスープが「ソリャンカ」。ロシア、ウクライナあたりが発祥と言われており、その周辺の国で食べられている。トマトベースのスープにたくさんの野菜や肉が入っているが、一番の特徴はピクルスが出す酸味である。”飲むオードブル”と言われるほどで二日酔いに効くとされている。

テイクアウトで日替わりスープとして出ていたソリャンカ。バルトの国々やロシア近隣の国ではなんにでもサワークリームを乗せ、それはスープにも適用される。

何の変哲もないカフェのメニューにもソリャンカが。

まとめ

ラトビアの夕食はシンプルながら満足感を重視した構成が特徴である。スープは食事の要として欠かせない存在だ。「日替わりスープ」はランチの定番としても親しまれ、具だくさんで栄養満点なスープは、手軽に満腹感を得られる一品として愛されている。ラトビアではスープがただの一品ではなく、食事全体を支える重要な役割を担っているのだ。

【参考】
◇LSM.lv:We hereby declare ‘cold soup’ season open!
https://eng.lsm.lv/article/culture/food-drink/we-hereby-declare-cold-soup-season-open.a458409/

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さえきあき

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エストニア在住のgramフェロー 経済上から時事ネタ、現地のマナーまで幅広く執筆。

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