市場急成長:高級路線を走る中国のアイスクリームブーム
今年7月、上海市では観測史上最高気温となる40.9度を記録するなど、中国各地で異常な猛暑が続いている。近所のスーパーにはアイスの特設コーナーが設けられ、街ではアイスを片手に歩く人をよく見かけるようになった。実はアイスの消費量が世界トップレベルというアイス大国の中国。体を冷やすことを嫌う中国人だがアイスはまた別腹で、アイスクリームの産業の市場規模は急成長している。当記事では中国のアイス事情と市場について紹介する。
高級路線を走る中国のアイスクリームブーム
著者:上海gramフェロー 米久 熊代
公開日:2022年8月8日
中国で買えるユニークなアイス
中国のスーパーやコンビニではアイスが1本10元前後で購入できる。最近では1本1元ほどで食べられるアイスを見付けるのは難しい(筆者の感覚)。緑の舌のように見えるアイスや国潮風の目を楽しませてくれるユニークなデザイン、1本20元(約400円)を超える高級アイスまで様々だ。
中国で最も人気のあるティードリンクチェーン「喜茶」のアイスを、お店に行かずともコンビニやスーパーで購入することができる。筆者は中国人の友人にすすめられてヤマモモのアイスを購入した。日本ではあまりなじみのない果物だが中国ではどこでも売られている。このアイスは甘酸っぱいヤマモモのジャムが入ったバニラアイスが、お茶アイスでコーティングされている。下の白い部分はとても濃厚なチーズアイスとなっている。夏にぴったりな爽やかで本格的な味のアイスだ。価格は15元(約300円)と他のアイスと比べ高価格だが期待を裏切らない美味しさであった。
拡大続ける中国のアイス市場
2015年の「爆買い」の頃を境目にライフスタイルが変化し、次第に伝統的な食習慣から欧米的な食生活へと移行するようになった。その流れの中で、若者から中年世代、幅広い層で日常的にアイスを食べるという習慣が生まれた。
(引用:ダイヤモンド・オンラインhttps://diamond.jp/articles/-/278724)
シンクタンクの前瞻産業研究院(Qianzhan Industry Research Institute)によると、中国のアイスクリーム産業の市場規模は、2015年の900億元(約1兆8179億円)から2021年には1600億元(約3兆2319億円)と急成長している。メーカーが高級路線のアイスを販売したり、コールドチェーン輸送が発達してインターネット販売が伸びていることが売り上げ増加につながっている。
(引用:AFP通信 https://www.afpbb.com/articles/-/3416658)
冒頭でも伝えたように、今年は連日異常な猛暑が続いているため、なかなか外出してまでアイスを食べに行こうとは思えない。しかし近頃はフードデリバリーを使ってアイスを簡単に手にすることができる。注文してから30分ほどで、カチカチに凍った本格的なお店のアイスを自宅で食べられるのだ。
今現在、中国でアイスは高級路線を走っており、観光スポットや業界の垣根を超えたコラボアイスが次々に誕生して話題になっている。最近では白酒を使ったアイスクリームが大ヒットしている。
注目!中国で流行中のアイス
中国の高級白酒ブランド貴州茅台酒は中国蒙牛乳業とコラボし、「茅台(マオタイ)酒」を使ったアイスを販売した。近年、中国では若者の酒離れが進んでおり、低アルコール飲料が人気だ。白酒は生産量・消費ともに減少傾向にあるため、アイスクリームで業界に新しい風を吹かせ、危機を乗り越えようとする狙いがある。マオタイアイスクリーム販売時は長蛇の列ができるほどの人気を集めていた。価格は1つ59元~66元(約1200円~1300円)とハーゲンダッツ43元(約850円/筆者調べ)を超える高級品だが、3種類の味を並べて写真を撮影しSNSに投稿する人が目立った。
このマオタイアイスの配達費用もかなり高い。同社のデジタルマーケティングプラットフォーム「iマオタイ」アプリでオンライン販売もされていて、3時間以内配達を選ぶと費用が1件あたり45元(約864円)かかる。このように高額ながら、マオタイアイスは同プラットフォームで売り出されると51分で完売し、4万個以上を売り上げ、売上高は250万元以上に達した。
(引用:人民網 http://j.people.com.cn/n3/2022/0531/c94476-10103948.html)
炎上した中国の高級アイスと浮き彫りになった安全性
つい最近では「鐘薛高」というブランドの高級アイスが炎上した。室内に1時間放置しても、火で炙っても溶けないアイスの動画が中国のSNSで急速に拡散。人体に影響を及ぼす有害物質が入っているのではと物議を醸した。企業側は国の安全基準に従っていると説明しているが、これを見たほとんどの人たちは納得していない。日本の明治やハーゲンダッツのアイスも検証されたが、もちろんすぐに溶けたので、更に鐘薛高のアイスの安全性を懸念する声が上がった。しかしこの大炎上後もスーパーやコンビニで変わらず販売され続けている。
まとめ
中国のアイスクリーム消費量は世界トップにランクされているが、1人当たりの年間消費量は約3.5リットルで、西欧諸国の6~8リットルに比べると市場にはまだのびしろがある。
(引用:AFP通信 https://www.afpbb.com/articles/-/3416658)
まだまだ成長の余地がある中国のアイス市場だが、高級アイスは消費者の期待値も高いため、一度不祥事が発生するとすぐに大きな問題となってしまう。最近では、安く簡単に自分で作ることができる自家製アイスや健康志向の高い消費者が好む低脂肪なヘルシーアイス、安くて美味しいコンビニアイスまとめなどのネットへの投稿が、話題性が高く反響もある。高級路線が続く中国のアイス市場だが、安心安全に食べられて消費者の多岐に渡るニーズにどこまで応えられるだろうか。今後も動向を注視していきたい。