マクドナルドのアイスクリームマシーンに見る、アメリカ利権ビジネス

アメリカ

アメリカのアイコンであるマクドナルドが直面する、ソフトクリームマシンの不調問題。何故常に壊れているのか、その背後に隠された利権ビジネスと企業姿勢に迫ります。
テイラー社との独占契約、修理費の高騰、そして機械の複雑な洗浄プロセスによる営業停止など、マクドナルドの対応に疑問符がつく中、第3者機関が動き出し、アメリカ政府へ働き掛ける「Freedom to Repair Act」の提案も浮上。
アメリカ利権ビジネスの一端となっているこの問題は、一見修理の問題に見えますが、背後には複雑な利害関係が絡んでいます。

マクドナルドのアイスクリームマシーンに見る、アメリカ利権ビジネス

    著者:アメリカgram fellow 末永 恵
公開日:2023年10月12日

マクドナルドのソフトクリームマシーンはなぜいつも壊れているのか?

アメリカには「マクドナルドのマクフルーリー(McFlurry、ソフトクリームのようなもの)マシンはいつも壊れている」という定番のインターネットジョークがあります。これはただの都市伝説ではなくて、本当に高確率で故障中の店が多いのです。ソフトクリームマシーンが故障中の店をリアルタイムで追跡してマッピングするウェブサイトまであります。

マシンが壊れている店舗をマッピング表示 https://mcbroken.com/

この「McBroken.com」は、マクドナルドの注文システムをボットを使って監視。20分から30分おきに、全米のどの店舗でアイスクリームの注文が入り機械が稼働しているかを判断しています。

そんなに壊れているのになぜ直さないのか?と思うかもしれませんが、背景にはアメリカの利権ビジネスや企業姿勢など、複合的な問題が潜んでいます。

機械の修理における独占契約の存在

マクドナルドのソフトクリームマシーンはテイラー社(Taylor Company)というメーカーが製造しています。テイラー社はマクドナルドと独占契約を結んでおり、修理に関してもテイラー社以外に委託することは知的財産権の侵害に当たるとされ、またテイラー社の技術者以外が修理をした場合は保証が完全に取り消されることになっています。

ということで機械が故障した場合、店のオーナーはテイラー社に依頼するしかないという構造になっているのですが、技術者を呼ぶと15分あたりなんと350ドル(約5万円)がチャージされるとのことです。このような高額な修理費を捻出するのは、フランチャイズオーナーにとって簡単ではないでしょう。ちなみにテイラー社は近年、3億ドルを超えるその収益の25%をメンテナンスサービスから得ていると言われています。

第3者機関によるアメリカ政府への働き掛け

オンライン修理コミュニティiFixitは先月8月、テイラー社のアイスクリームマシンを分解し、簡単な部品交換で済むような不具合が、ソフトウエアによってわざわざ難解なエラーメッセージを表示するようになっていることを突き止めました。その様子はYouTubeでも公開されています。

「技術者に依頼しなければならない」と思わせるため、テイラー社があえてそのような仕様にしていることは想像に難くありません。しかし知的財産法に守られている以上、フランチャイズ側は泣き寝入りするしかないのが現状です。このような状況を変えるため、iFixitはワシントンDCを拠点とする非営利団体Public Knowledgeと協業し、このアイスクリームマシンを保護の対象から外すよう当局に求めると同時に、アメリカ議会に対しすべての修理に関する活動は知的財産法の適用を除外する“Freedom to Repair Act”の可決を求めています。

このように少しずつ第3者機関による動きが出始めていますが、このテイラー社のマシン問題に対して解決を試みたのはiFixitが初めてではありません。

サードパーティー製装置が訴訟に発展

アメリカのキッチ社(Kytch)は、アイスクリームマシンに表示される難解なエラーコードを一般人でも分かる簡単な解説に変換できる装置を開発しました。これを取り付ければ、技術者を呼ぶ必要のない簡単なメンテナンスはオーナーが自身で出来るようになるはずでした。

しかしこの取り付け装置が広まると困るテイラー社は、マクドナルド社からフランチャイズパートナーたちに対し「キッチ社の装置は“重大な人身事故”を引き起こす可能性がある」と根拠のない警告を出し、装置の導入を阻止しようとします。キッチ社は2021年7月、同社製品を不当に宣伝し、不正競争を行ったとしてテイラー社を提訴。と同時にテイラー社がキッチ社のデバイスの1つを盗みリバースエンジニアリングしたと主張、テイラー社に対し接近禁止命令を申し立てました。実際にテイラー社はキッチ社と類似したデバイスの販売を開始しており、裁判所は接近禁止命令を認めました。テイラー社はキッチ社の申し立てを不服として反発しており、2年以上経つ現在でも法廷闘争が続いています。

(引用元:Vice https://www.vice.com/en/article/dy7dbj/judge-allows-mcflurry-machine-repair-lawsuit-to-proceed

修理問題だけではないマクドナルドの戦略ミス

実はこのアイスクリームマシンの問題は修理にまつわる利権だけではありません。イリノイ州の元マクドナルド従業員のサラ・ヴォートさんは、マシンがいつも壊れている理由について「洗浄に時間が掛かりすぎることが主な理由だ。」とウォール・ストリート・ジャーナル紙に回答しました。

(引用元:Daily Mail https://www.dailymail.co.uk/femail/article-12237487/McDonalds-worker-confesses-real-reason-ice-cream-machine-broken.html

テイラー社のこのC602というアイスクリームマシンは、乳製品を含んだ多数のパイプで構成されていることからバクテリアに汚染されやすく、機械内部のバクテリアを取り除くためには毎日4時間の自動熱洗浄が必要で、マクドナルドのスタッフは7つの部品を取り外し、除菌ミックスで洗わなければなりません。これら手間の掛かる作業を営業時間中に行い、さらに24時間営業の店であれば24時間のうち毎日4時間はソフトクリームが出せないということになります。であれば、“故障中”としてしまったほうが従業員としては客にいちいち説明する必要もなく、手っ取り早いわけです。

毎日4時間もの洗浄を必要とし、加えてフランチャイズオーナーが自前で故障を直すのが難しい機械、さらには修理に関しても独占的な立場を認めるなど、テイラー社との契約においてマクドナルドの戦略ミスがあったことは明らかです。

おわりに

マクドナルドのソフトクリームマシンを取り巻く種々の問題を見てきました。しかし本当に、マクドナルドに打つ手はなかったのでしょうか?世界最大のファストフードチェーン、47億ドルもの収益を生む同社であれば、既述の悪手を差し引いたとしてもできることはあるはずだとInc.は指摘しています。

(引用元:Inc. https://www.inc.com/kelly-main/why-47-billion-in-profits-wont-fix-mcdonalds-ice-cream-machines.html

新たな機械を導入したり、もしくは自社で独自の機械を開発し、修理スタッフもプログラムを組んで育成することもできたはずです。また洗浄に時間が掛かり使用できない時間が発生することが分かっていたのであれば、テイラー社からバックアップとして各店もう1台ずつ配置するという判断もあったでしょう。

しかしマクドナルドは現時点でこれらの努力をする姿勢を見せておらず、カスタマーの「ソフトクリームを食べたい」という要望を無視し続けています。これは突き詰めると顧客満足への怠慢であると言わざるをえず、マクドナルドの現在の企業姿勢を象徴しているのかもしれません。

著者: COOQIE INC.  CEO 末永 恵

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