なぜ日本ブランドはアイルランドで定着しにくいのか

欧州

2025年、ダブリン中心部に20年以上存在したMUJIが閉店した。一方、日本を代表するUNIQLOは、今なおアイルランド未進出のままである。アイルランドでの日本への人気や関心は高いのに、日本の大手ブランドが定着しない。そこには、アイルランド市場ならではの事情がある。

なぜ日本ブランドはアイルランドで定着しにくいのか

    著者:イギリスgram fellow リリーゆりか
公開日:2026年07月29日

MUJI撤退とUNIQLO未進出から見るアイルランド市場の現実

2025年夏、アイルランド在住の日本人の間で驚きのニュースが流れた。

ダブリン中心部にあった無印良品が、20年を経て閉店したのだ。

2002年にダブリン中心部にオープンしたMUJIは、長く現地で親しまれてきたが、昨年ついに姿を消した。一方、日本を代表するアパレルブランドUNIQLOは、今やヨーロッパの至る所に店舗を構えているにも関わらず、アイルランドにはいまだ進出していない。

興味深いのは、どちらのブランドもアイルランドで“知られていない”わけではないという点だ。実際、ダブリンではMUJI閉店を惜しむ声が多く、UNIQLOについても「アイルランドに来るのか」というニュースが話題になるほど関心が高い。

MUJI 欧州法人の事業再生

2024年、MUJIの欧州法人は財産管理人の選定を発表するとともに、計画的な戦略的再編に踏み切った。メディアの中には「破産」と表現する記事もあるが、ヨーロッパのビジネスの文脈では日本の破産とは異なり、経営危機に伴う再建・整理・縮小を含む再生プロセスを指す。

近年のMUJI Europeは、小規模な雑貨店ではなく、大型旗艦店、ライフスタイル提案、Japanese minimalism体験を重視する方向へシフトしている。たとえば、2018年にオープンしたバルセロナ(スペイン)は大型旗艦店、2019年にオープンしたヘルシンキ(フィンランド)では、ショッピングセンターのフロア全体を使った欧州最大の売場面積(3,600m2)を展開し、レストランやコミュニティ空間も併設している。2020年にオープンしたコペンハーゲン(デンマーク)も老舗デパートの中に旗艦店として存在し、ヨーロッパ初となる喫茶室TeaHouseも導入された。

つまり欧州におけるMUJIは、日本の「日用品店」というより、日本的ライフスタイルブランドとして再定義されつつある。

思えば、2002年にオープンしたダブリン店は、アイルランドのホスピタリティ会社が経営するフランチャイズ型で、ショッピング街の中心にありながらも非常に狭い店舗だった。1階に文房具、地下に衣料品といった限られた商品展開で、現地では”日本ブランドの雑貨屋さん”という位置づけにとどまっていた。そう考えると、MUJIを日本を体験できるブランドとしてではなく、小規模な雑貨店のひとつとして受け止められていたことが、今回縮小の対象になった理由のひとつなのかもしれない。

MUJI ダブリン店(写真提供: https://thecurrency.news/articles/196281/paddy-mckillen-owned-muji-franchise-to-close-chatham-street-location-after-over-20-years/)

一方のUNIQLOは未進出

UNIQLOがダブリンに進出する──かもしれない、というニュースは、アイルランドで何度も話題になっては消えることを繰り返している。

MUJI閉店のニュースが広がる中、アイルランドの大手メディアは、UNIQLOが欧州で新たに8店舗をオープンするという発表に合わせ、「ダブリンも含まれるのでは」という、あくまで希望ベースの記事を掲載した。現地のUNIQLOファンや日本人が一時的に盛り上がったものの、その期待は長くは続かなかった。

アイルランド市場との不一致

なぜUNIQLOやMUJIといった世界的に人気のある日本ブランドであるにもかかわらず、アイルランドは理想的な市場になりにくいのだろうか。

その理由は、単純な「人気の有無」ではなく、日本ブランドが持つ世界観と、アイルランド市場の構造や消費感覚との間にズレがあるからかもしれない。

日本でのMUJIやUNIQLOは、私たちにとって手頃で日常的、実用的な存在である。しかし海外に出ると、高品質、ミニマリズム、機能性といった付加価値とともに“ラグジュアリー寄りのブランド”として認識されやすい。実際、価格も決して手頃とは言えず、クオリティは別として現地ブランドの方が圧倒的に安い。

近年のアイルランドの消費者は、ブランドの世界観以上に価格やコスパを重視する傾向が強い。そのため、アイルランド発のPenny’s(他の欧州ではPrimark)といった格安衣料店や、小さな古着屋・リサイクルショップで購入する人が多い。また、国民性としてファッションや物へのこだわりが強くなく、実際に街を見渡しても高級ブランドで着飾る人はほとんどいない。アイルランド人自身も「ヨーロッパで一番センスが悪い」と冗談交じりに言うほどだ。

さらに、アイルランド市場は人口規模が小さく、消費の中心もダブリンに集中している。そのため店舗数を広げにくく、物流や運営コストの効率化も難しい。家賃も高く、大型店を出店できるだけの面積や物件を確保するのも容易ではない。こうした条件を踏まえると、ブランド体験を重視するUNIQLOやMUJIのようなブランドとは、戦略的に相性が良いとは言い難い。

まとめ

MUJI撤退とUNIQLO未進出は、日本ブランドの“人気不足”ではなく、アイルランド市場との構造的なズレを映し出しているのかもしれない。それでも、日本ブランドへの関心そのものは高い。だからこそ、いつかアイルランドで再び「日本らしい空間」に出会える日を期待したい。

【参考】
◇Japanese retailer Muji’s European arm set to call in administrators:
https://www.breakingnews.ie/business/japanese-retailer-mujis-european-arm-set-to-call-in-administrators-1607198.html

◇A Uniqlo store in Dublin may be ‘on the agenda’:
https://www.thejournal.ie/is-uniqlo-opening-a-store-in-dublin-6763448-Jul2025/

◇Press Up Entertainment Venues | LinkedIn:
https://www.linkedin.com/showcase/press-up-entertainment-venues/about/

◇東洋経済オンライン:
https://toyokeizai.net/articles/-/745282?display=b

◇MUJI Kamppi Helsinki:
https://www.muji.com/flagship/kamppi-helsinki/en/?utm_source=chatgpt.com

◇MUJI Illum Copenhagen:
https://www.muji.com/flagship/illum-copenhagen/ja/

◇MUJI Barcelona:
https://www.muji.com/flagship/barcelona/ja/

◇無印良品(MUJI)がポルトガルに初進出:
https://www.fashionsnap.com/article/2010-04-21/muji-portugal/

◇What matters now: price, trust, and the rise of the selective Irish consumer:
https://www.ey.com/en_ie/insights/consumer-products/what-matters-now-price-trust-and-the-rise-of-the-selective-irish-consumer

リリーゆりか

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アイルランド在住のgramフェロー 経済上から時事ネタ、現地のマナーまで幅広く執筆。

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