「日本車王国」フィリピンに異変!?急成長する中国BYDと王者トヨタの最新勢力図 (前編)

フィリピン

筆者が暮らすフィリピンでも、ここ1年ほどで明らかに見かける車の顔ぶれが変わってきました。少し前まで、道路を走る乗用車といえばトヨタのヴィオスや三菱のミラージュ、そして無数のトヨタ・ハイエースばかり。ところが最近は、「BYD」のエンブレムを付けたコンパクトカーやSUVが、マニラ首都圏だけでなく地方の幹線道路でも珍しくなくなってきたのです。

フィリピンは長年、「日本車王国」と呼ばれてきた市場です。その牙城に、中国のEVメーカーBYDが猛烈な勢いで食い込みつつあります。今回は、フィリピン自動車市場の最新データをもとに、日本車とBYDのシェア・成長率を比較しながら、今後の勢力図がどう変わっていくのかを読み解いていきます。

「日本車王国」フィリピンに異変!?急成長する中国BYDと王者トヨタの最新勢力図(前編)

   著者:フィリピンgramフェロー たこ坊
公開日:2026年 10月09日

「日本車王国」フィリピンの現在地

まずは市場全体の姿から確認しましょう。フィリピンの新車販売は好調が続いており、2025年の総販売台数は491,395台と、前年(473,842台)比3.7%増で過去最高を更新しました。業界団体CAMPI(フィリピン自動車工業会)は2年連続で「50万台」の目標にはわずかに届かなかったものの、市場としては右肩上がりが続いています。

(引用元:Philippine Daily Inquirer │ Philippine car sales hit new record in 2025
https://business.inquirer.net/570580/ph-car-sales-hit-new-record-in-2025)

そして、この市場の主役は依然として日本車です。2025年のブランド別販売台数を見ると、以下のような構図になっています。

  • • 1位:トヨタ — 227,595台(レクサス除く。前年比+5.5%)、市場シェア46.2%
  • • 2位:三菱 — 86,808台(同▲2.6%)、シェア17.6%
  • • 4位:スズキ — 21,984台(同+7.9%)
  • • 5位:フォード — 21,784台(同▲22.2%)
  • • 6位:日産 — 20,571台(同▲23.2%)

トヨタと三菱の2社だけで市場の6割以上。これにスズキ、日産、ホンダ、いすゞなど主要日系ブランドの販売台数を合算すると、筆者の集計で市場のおよそ8割に達します。フィリピンで長く暮らしていると、「車=日本車」という感覚が現地の人々に深く根付いていることを実感します。中古で売るときの値落ちが少なく、どんな田舎町にも修理できる整備工場がある。この信頼感こそが、日本車が数十年かけて築いてきた資産です。

(引用元:AutoIndustriya │ Philippine Auto Sales 2025: 492,558 vehicles sold, up 3.77%
https://www.autoindustriya.com/features/philippines-auto-sales-2025-492-438-vehicles-sold-up-3-74-percent.html)

前年比446%増!BYDの成長スピードを数字で見る

では、注目のBYDはどうか。数字を見て、筆者も思わず二度見しました。

BYDのフィリピンにおける2025年の小売販売台数は26,122台。2024年の4,780台から、実に前年比446%増という爆発的な伸びです。市場シェアは2024年のわずか1.0%から5.3%へと一気に拡大し、ブランド別順位は11位から3位へジャンプアップ。トヨタ、三菱に次ぐポジションに、たった1年で躍り出たのです。なお、BYDはCAMPIに加盟していないため、この26,122台はBYD自社発表の小売台数であり、順位はCAMPI加盟社の統計と突き合わせた比較です(現地の複数メディアが同様の順位を報じています)。

(引用元:Philstar.com │ BYD sales zoom over 400 percent in 2025
https://www.philstar.com/business/2026/01/24/2503031/byd-sales-zoom-over-400-percent-2025)

販売網の拡大ペースも驚異的です。BYDのディーラー数は2024年末時点の25店舗から、2025年末には79店舗へと1年で3倍以上に増加しました。筆者の住む地方エリアにまで出店が及んでいるのは、この急拡大の表れというわけです。売れ筋は、小型EV「シーガル」(ブランドのBEV販売4,608台をけん引)と、プラグインハイブリッドのSUV「シーライオン6 DM-i」とのことです。

長年、フィリピン市場の3位争いは日産・フォード・スズキの「定位置争い」でした。トヨタと三菱の2強があまりに強固なため、他社にとっては3位が事実上の最高到達点だったのです。その椅子を、現地財閥との提携開始からわずか2年余りの中国ブランドが奪ったという事実は、業界にとって相当なインパクトだと考えられます。

(引用元:Top Gear Philippines │ BYD Cars Philippines shakes up industry with 26,122 units sold in 2025
https://www.topgear.com.ph/news/industry-news/byd-cars-philippines-26-122-units-sold-2025-a960-20260122)

なぜBYDはここまで売れるのか——価格・政策・財閥の三拍子

BYD急成長の背景には、大きく3つの要因があると考えられます。

1つ目は、価格競争力です。 例えば売れ筋の小型EV「シーガル」の価格は898,000ペソ(約230万円)。ガソリン車の王者であるトヨタ・ヴィオス(738,000〜908,000ペソ=約190万〜240万円)とほぼ同じ価格帯で、「ガソリン代のかからないEV」が買えてしまうのです。ガソリン価格の高騰が続くフィリピンでは、燃料費ゼロのインパクトは日本以上に大きく響きます。

(引用元:Zigwheels Philippines │ BYD Seagull Price in Philippines
https://www.zigwheels.ph/new-cars/byd/seagull/price)

2つ目は、政府のEV優遇政策です。 フィリピン政府は2023年1月の大統領令12号(EO 12)により、従来5〜30%だったEVの輸入関税を2028年までゼロにしました。2024年5月にはハイブリッド車やプラグインハイブリッド車にも対象が拡大されています。中国から完成車を輸入するBYDにとって、これはまさに追い風です。

(引用元:ASEAN Briefing │ Electric Vehicle Imports in the Philippines Benefit from Expanded Zero-Tariff Rates
https://www.aseanbriefing.com/news/electric-vehicle-imports-in-the-philippines-benefit-from-expanded-zero-tariff-rates/)

3つ目は、現地パートナーの存在です。 BYDの乗用車販売を担うのは、フィリピン最大級の財閥アヤラ・グループ傘下のACMobility。単なる輸入代理店ではなく、充電インフラの整備からアフターサービスまでを一体で展開しており、2023年8月の提携開始からわずか2年強で前述の79店舗網を築き上げました。「中国車は売りっぱなしで不安」という消費者の心理的ハードルを、地場の名門財閥のブランド力で乗り越えている構図です。

後半へ続く

(引用元:BYD Cars Philippines │ BYD Cars Philippines Achieves Record Sales in 2025; Renews Distributorship with ACMobility
https://bydcarsphilippines.com/blog/byd-record-sales-2025-renews-distributor)

たこ坊

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フィリピン在住のgramフェロー 経済上から時事ネタ、現地のマナーまで幅広く執筆。

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