街に増えた中国語

週末にクアラルンプールセントラルやブキビンタンを歩いていると、耳に届く言葉の種類がここ1、2年でずいぶん変わったなと感じます。以前から多言語が飛び交う街ではありましたが、最近はとりわけ中国語が増えました。自撮り棒を手にした若い旅行者が、ペトロナスツインタワーを見上げて歓声を上げている。そんな光景がすっかり日常になっています。
この記事では、私が肌身で感じているマレーシアの変化についてお伝えしようと思います。
(引用元:Malaysia has never had so many Chinese tourists. It wants more | South China Morning Post
https://www.scmp.com/week-asia/lifestyle-culture/article/3358515/malaysia-has-never-had-so-many-chinese-tourists-it-wants-more)

街に増えた中国語
著者:マレーシアgramフェロー Malay Dragon
公開日:2026年 11月06日
Visit Malaysia 2026

その実感を、数字がはっきりと裏づけています。マレーシアは今年のVisit Malaysia 2026、通称VM2026キャンペーンで、中国からの観光客700万人を呼び込もうとしているのです。国全体では3,560万人の来訪と、1,471億リンギ(約5兆8,700億円)の観光収入を掲げており、そのなかでも中国市場は要の位置づけです。決して小さくない目標です。
ビザがなくなり観光客が急増
なぜ、いま中国人観光客なのか。背景には、数字が示す明確な追い風があります。昨年、中国からの訪問者は前年比25%増の470万人に達しました。マレーシア全体の観光の伸びを大きく上回るペースです。今年の第1四半期も、さらに25%増えて141万人。勢いは衰えていません。この流れを700万人まで押し上げようというわけです。
最大の後押しは、やはりビザの相互免除でしょう。両国の首脳が進めてきたこの政策のおかげで、中国の旅行者は思い立ったらすぐに来られるようになりました。加えて、中国の地方都市とを結ぶ航空便が増えたことも見逃せません。北京や上海だけでなく、これまで直行便のなかった内陸の街からも、旅行者がマレーシアを目指すようになりました。
ガイドブックより、誰かの投稿
もうひとつ私が興味深く見ているのが、宣伝のやり方です。マレーシア観光局は、RedNote(小紅書)やDouyin(抖音)、Weiboといった中国の巨大アプリを舞台に、動画やインフルエンサーを使った発信に力を入れています。
中国のSNSでは、プトラジャヤのピンク色のモスクや屋台街の食べ歩き、写真映えする街角が、そのまま旅程の候補として拡散されているそうです。ガイドブックではなく、誰かの投稿が旅の入り口になる。時代の変化を強く感じ、マレーシアの戦略の確かさを実感します。
「何人来たか」より「また来たいか」
ただ、私が長くこの地に暮らしてきて思うのは、数を追うだけでは続かない、ということです。観光当局もそこはよく分かっているようで、単なる人数ではなく高付加価値の旅行者に軸足を置くと明言しています。クアラルンプールの上質なホテル滞在、ランカウイの島リゾート、ペナンの歴史散策などなど。一過性の立ち寄りではなく、また来たいと思ってもらえる滞在をどう作るかが問われています。
実際、この夏の休暇シーズンには中国人観光客の増加が改めて確認され、キャンペーンは2027年まで延長される見通しだと報じられています。一度きりの打ち上げ花火で終わらせない構えです。
マレーシア独特の多様性
マレーシアの強みは、ただ景色が美しいことだけではありません。マレー系、中華系、インド系が混じり合い、モスクと寺院と教会が同じ街に立ち並んでいます。この多様さこそが、中国や他の国にはない魅力だと私は思います。慣れ親しんだ漢字の看板に安心しながら、一歩路地に入れば見たことのない世界が広がる。肉骨茶とナシルマ、点心とロティチャナイが同じ通りに並ぶ食の豊かさも、旅の記憶に残るはずです。中国の旅行者にとって、マレーシアは「近いのに新しい」と感じる場所なのでしょう。
数字の先にあるもの
数字の大きさに目を奪われがちですが、大切なのはその先です。訪れた人が何を持ち帰り、周りにどう語るか。700万という目標が、単なる通過点ではなく、この国の懐の深さを世界に伝える機会になればいいと思います。30年近くをこの地域で過ごしてきたひとりとして、私はそんな期待を込めて、街ゆく旅行者の楽しそうなで満足げな足取りを眺めています。


















