「近いようで遠い」をどう縮めるのか

シンガポールで暮らしていたころ、私の朝はいつも社宅からの通勤で始まっていました。職場から車で数分のところに住んでいて、あの快適さに慣れきっていた私が、郊外に住む知人を訪ねて驚いたことがあります。同じ島の中なのに、彼の団地から職場まではバスを乗り継いで一時間近く。「近いようで遠いんだよ」と苦笑いした彼の言葉が、いまも耳に残っています。
その「近いようで遠い」を、国全体で埋めようという構想が本格的に動き出しています。
今回の記事では、個々のスポットに焦点を当ててみたいと思います。
(引用元:Automated & autonomous vehicles | Ministry of Transport
https://www.mot.gov.sg/what-we-do/automated-autonomous-vehicles/)
「近いようで遠い」をどう縮めるのか
著者:シンガポールgramフェロー Malay Dragon
公開日:2026年 11月02日
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「20分の街、45分の都市」

シンガポールが掲げているのは、「20分の街、45分の都市」という目標です。自宅から近所の用事は20分以内で、通勤も含めた市内のどこへでも45分以内で行けるようにするというものです。もともとは2019年に示された長期の交通計画の柱で、都市計画としてはなかなか野心的な数字だと思います。
行政が「弱点」を認めるところから
運輸相のジェフリー・シオウ氏は、2026年の議会答弁で率直な現状を口にしました。都心から遠いHDB団地では、公共交通が自家用車の2倍から3倍も時間がかかる場所があると。とりわけ、MRTの駅がなくバス頼みの地域でそれが顕著だと認めたのです。当局はこの差を「1倍から2倍にまで縮めたい」と語っています。行政が自ら弱点を認め、住民との対話を重ねる。実際、当局は3か月で200人以上と面談し、3,500件を超える意見を集めたそうです。その姿勢に、私はむしろ本気度を感じました。
団地を巡る「運転手のいないバス」
では、どうやってその距離を縮めるのか。鍵のひとつが、団地内を巡る小型の自動運転シャトルです。人手不足でバスの便を増やしにくいなか、AIが運転を肩代わりして、駅や市場、診療所といった暮らしの拠点を細かくつなぐ、そんな構想が描かれています。実現すれば、朝夕の混雑した時間帯だけでなく、運転手のなり手が少ない深夜の便を担う可能性もあるといいます。
北東部のプンゴルでは、2026年4月から自動運転シャトルの一般向け運行が始まりました。GrabやComfortDelGroといった事業者が3つの経路を走らせ、公募には1,000人を超える住民が応じたそうです。既存の公共交通に比べて、最大で10分ほど時間を短縮できる設計です。この試みがうまくいけば、西部のテンガなど、ほかの新しい団地にも広げる方針だと説明されています。運賃はまだ確定していませんが、公共交通と配車サービスの中間あたりに落ち着く見込みだそうです。
自動運転車も拡充
シンガポールは、2026年末までに100台から150台の自動運転車を走らせる計画を立てています。安全確認のため、いまはどの車両にも訓練を受けた保安要員が同乗してます。技術への信頼を、一足飛びにではなく一段ずつ積み上げていく。この慎重さは、いかにもこの国らしいやり方だと感じます。
効率と温もりと
ただ、便利さの裏で私が思うのは、団地という場所が持つ意味です。バス停での何気ない立ち話、顔なじみの運転手との挨拶。効率の物差しでは測れない結びつきが、そこには確かにありました。速く着くことと、心地よく暮らすこと。その両方をどう両立させるのか。技術が進むほど、問われるのはむしろ人の側なのかもしれません。これはシンガポールに限った話ではありません。
それでも、遠いがゆえに選択肢を持てなかった人たちに、便利さが届こうとしています。この変化自体は素直に喜ばしいことだと思います。シンガポールで12年、その後マレーシアで15年以上を過ごしてきた私にとって、こうした暮らしの工夫の一つひとつが、その土地の懐の深さを示しているように見えるのです。効率と温もりのあいだで、この小さな街がどんな答えを出すのか。これからもその変化を見守っていきたいと思います。






















