シンガポールのフードデリバリー、成長鈍化 

シンガポール

東南アジアのフードデリバリー市場が再び沸いています。

コンサルティング会社Momentum Worksが2026年1月に発表したレポートによると、ASEAN6ヶ国のフードデリバリー市場は、2025年に前年比で18%増となる総額227億米ドル(約3兆6,000億円)に達し、コロナ禍以来最大の伸びを記録しました。

今回はシンガポールのフードデリバリー市場の現状を解説します。

(引用元:Singapore among slowest-growing food delivery markets in ASEAN despite regional surge – Asia News Network
https://asianews.network/singapore-among-slowest-growing-food-delivery-markets-in-asean-despite-regional-surge/

シンガポールのフードデリバリー、成長鈍化 

   著者:シンガポールgramフェロー Malay Dragon 
公開日:2026年 05月20日

低成長率

ASEAN内ではタイが22%増でトップを走り、インドネシア・マレーシア・ベトナムがいずれも18〜19%増と続いています。その中でシンガポールのフードデリバリーは2025年に13%増の29億米ドル(約4,600億円)となり、6ヶ国中フィリピン(12%増)に次ぐ最低水準の成長率にとどまりました。 フィリピンは台風による物流障害という特殊事情があるだけに、シンガポールの鈍化は構造的な要因によるものと見られています。

ホーカーセンターという「最強の競合」

シンガポールに12年暮らした経験から言えば、この数字は決して驚きではありません。あの街には、ホーカーセンターというデリバリー各社が太刀打ちしにくい強力な競合があるからです。

チキンライスが4〜5シンガポールドル(約500~620円)、ラクサも似たような値段。冷房こそないですが、清潔でメニューが豊富で近所を歩けばどこにでもあります。アプリを開き配達料を上乗せして注文して待つより、徒歩5分で温かくておいしい食事にありつけるのがシンガポールです。

デリバリーをわざわざ使う理由が、シンガポールではもともと薄いのです。こうした構造的な課題が、シンガポールの成長を地域平均と比べて限定的なものにしていると考えられます。

プラットフォーム競争の行方

プラットフォームの勢力図にも変化があります。

最大手のGrabは、地域全体でのシェアを2024年の53.8%から2025年には約55%へと伸ばし、ASEAN最大のデリバリーとしての地位をさらに固めました。 シンガポールでもGrabFoodが市場を牽引していますが、その成長は地域平均に届いていません。

一方、ShopeeFoodがFoodpandaを抜いて地域2位に浮上したことも注目されます。 ただしアナリストは、ShopeeがシンガポールでGrabに正面から挑む可能性は低いと見ています。シンガポール市場はドライバーのコストが高く、オフラインの外食インフラも充実しており、新規参入が収益を上げるには時間と企業体力が必須だからです。

成熟市場ゆえに

この鈍化をそのまま衰退と読むのは早計でしょう。業界専門家も、成長鈍化は必ずしも市場の縮小を意味するのではないととらえています。成熟市場としての安定性を示す側面もあると指摘しています。今後は高付加価値サービスやサブスクリプションモデル、企業向けデリバリーといった、さらに付加価値の高い領域での拡大の余地があるとの見方が大方です。

「成熟」の先にあるもの

クアラルンプールではGrabFoodが市民の日常に深く入り込んでおり、夕方になると至る所でライダーたちが走り回っています。シンガポールとは明らかに熱量が違います。インフラが整っていない分、デリバリーが外食の代替として必要とされる場面が多いのだと思います。

シンガポールの鈍化は地域の遅れではなく、成熟した市場が次のステージを探している姿のように思われます。高所得者層向けのプレミアムサービスやクラウドキッチンの台頭など、新たな方向性も生まれつつあります。 数字の伸びに一喜一憂するより、誰がどんな場面でデリバリーを使うかという問いに向き合うことが、次の成長を切り拓くカギになるのかもしれません。

Malay Dragon

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マレーシア・シンガポール在住のgramフェロー 経済上から時事ネタ、現地のマナーまで幅広く執筆。

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