「友人なし」が1割 シンガポールの静かな孤独感

シンガポール国立大学リー・クアンユー公共政策大学院の研究機関、政策研究所(IPS)の調査が今年初め、あるデータを示しました。シンガポール人の約10人に1人が親しい友人をひとりも持っていない、というものです。文化コミュニティ青年省の担当ネオ大臣はこの数字に言及しながら、これは変えなければならない、友人をつくれと施策を打ち出すと国会で発現しました。
今回は、この記事を深掘りしていこうと思います。
「友人なし」が1割 シンガポールの静かな孤独感
著者:シンガポールgramフェロー Malay Dragon
公開日:2026年 05月07日
数字の裏側にある変化

同調査によれば、シンガポール人の『親しい友人の数』は、2018年の平均10.67人から2024年にはわずか6.49人に減っています。
シンガポールに12年住んでいた私の実感とこの数字は奇妙なほど重なります。かつてのシンガポール人の友人関係はホーカーセンターのテーブルを囲む賑やかなものでしたが、ここ数年は各自がスマートフォンに目を落として静かになった気がしていました。
競争社会が生む「疲れ」
シンガポールは豊かさと引き換えに競争を受け入れてきた国です。幼少期からの学力選抜、職場での実力主義、外国人人材との雇用競争。人々は常に次のステージを意識して走り続けてきました。
その一方で、友人をつくる、あるいは維持するにはそれなりの時間と余裕が必要で、深夜まで働き、週末は家族や自己啓発に充てる生活の中では、それはつい後回しになります。シンガポールの場合転居や転職・海外赴任の頻度が高く、物理的にも人間関係がリセットされやすいという事情もあるでしょう。
「家族」があれば十分という価値観
もうひとつ見落とせないのは、シンガポール社会における家族の濃密さです。多くのシンガポール人は、イベントごとに親族が集まる生活の中で生きています。中華系の旧正月、マレー系のハリラヤ、インド系のディパバリ——いずれの民族も、年中行事を家族単位で過ごす文化を持ち、大切にしています。
友人が少なくとも、家族がいれば孤独ではない——そういう感覚が根強くある社会では、「友人がいない」という事実がなかなか問題として浮上しにくいのでしょう。
「繋がっているようで繋がっていない」若者たち
IPSの別調査(2024年)では、21歳から34歳の若い層が最も孤独感を感じやすいという結果も出ています。SNSでつながり、グループチャットで毎日やり取りしながらも、本当に打ち明けられる相手がいないという状態です。
マレーシアでも、「友達は多いが、深い友人はいない」という話をよく聞きますが、にぎやかな表面と、内側の孤独、その落差が、数字になって現れたのがシンガポールだったということかもしれません。
国家が「友人を作れ」と言う国
対策として政府は、スポーツ施設への大規模投資、学校間の合同課外活動への助成金、そして移民との共生促進プログラムを次々に打ち出しています。国家が人と交わる場をつくるために動く——これはシンガポールらしいアプローチです。問題を認識したら、政策でそれを解決する。その凄まじい実行力は今も健在です。
ただ、友人とはそもそも政策で生まれるものではないはずです。シンガポールの社会実験はここでもまた、静かに試されることになります。
繁栄の次に問われること
一人当たりGDPがトップクラスとなり、清潔で安全で、インフラも整った国。建国から60年で成し遂げたものは圧倒的です。だがその過程で、何かがゆっくりと薄まっていったとすれば——それは「友人」という、数値化しにくいものだったのかもしれません。
このニュースは単なる孤独問題ではなく、高密度の都市国家が成長の次に直面する、関係性の問い直しを象徴していると思います。豊かさが成熟したとき、人は何を求めるのか。その答えを、シンガポールはこれから探していくことになるでしょう。





















