フィリピンのリテール市場に革命!ハードディスカウントストア「DALI」について

フィリピンのスーパーで買い物をすると、商品の値段の高さに驚くことがある。インフレの影響もあり、一般的なフィリピン人にとって日々の食料品の購入は決して安くはない。そんな状況の中、筆者が住む地域でもここ数年で急速に店舗数を増やしているのがDALI Everyday Grocery(以下、DALI)だ。シンプルな店構えながらも、圧倒的な価格の安さで庶民の心をつかむこのスーパー。今回は、フィリピンのリテール市場を揺るがすDALIの特徴や人気の秘密、またビジネス的な観点から見た今後の可能性について紹介する。
フィリピンのリテール市場に革命!ハードディスカウントストア「DALI」について
著者:フィリピンgramフェロー たこ坊
公開日:2026年 05月18日
DALIとは?
DALIは、スイスに本拠を置くDALI Discount AG(ダリ・ディスカウントAG)が運営するハードディスカウント型のスーパーマーケットチェーンである。シンガポール子会社を通じてフィリピン現地法人Hard Discount Philippines Inc.(HDPI)を設立し、2020年2月にラグナ州サンタロサに第1号店をオープンした。
「DALI」という名前は、ドイツの有名ディスカウントスーパーALDI(アルディ)のアナグラム(文字の並べ替え)に由来する。フィリピン語で速い・早いを意味するdaliという単語とも重なることから、地元に親しみやすいブランドとして命名された。スピーディなレジ対応を売りにするという意味合いも込められている。
2025年現在、DALIはルソン島全域に900〜1,000店舗以上を展開するまでに急成長した。アジア開発銀行(ADB)、世界銀行グループのIFC、マレーシアの大手プライベートエクイティCreadorなど、国際的な投資機関からの資金調達を積み重ね、フィリピンのリテール市場に新たな風を吹き込んでいる。
(引用元:Manila Bulletin │ IFC eyes $10-million investment in Dali to expand hard-discount retailer’s Philippine network
https://mb.com.ph/2025/09/29/ifc-eyes-10-million-investment-in-dali-to-expand-hard-discount-retailers-philippine-network)
「ハードディスカウント」とはどういう業態か
ハードディスカウントという言葉は、日本ではあまり耳慣れないかもしれない。これは、品揃えを徹底的に絞り込み、余計なコストを一切省くことで、通常のスーパーより大幅に安い価格を実現する小売業態だ。ドイツのALDIやLIDLが世界的な先駆けとして知られている。
DALIの店内を見ると、まず目に入るのが簡素さだ。商品はパレットや段ボール箱のままで棚に並べられており、華やかな陳列や装飾は一切ない。レジ袋詰めのスタッフもおらず、買い物客が自分でカゴやバッグに商品を入れる形となっている。1店舗あたりの売り場面積は約290平方メートルほどとコンパクトで、スタッフもレジ担当が2名程度という最小限の体制だ。こうして徹底的に人件費・運営コストを削減することで、低価格を実現している。
また、DALIの商品ラインナップの多くはプライベートブランド(自社ブランド)商品である。製造はフィリピン国内外の工場に委託し、DALIオリジナルのパッケージで販売することでコストを抑えている。食品・飲料・洗剤・日用品など、生活に必要な基本的な品目に絞って展開しており、一般的なスーパーのような豊富な品揃えこそないが、必要なものが安く買えるという点で多くの消費者から支持を集めている。
(引用元:DitoSaPilipinas.com │ How DALI Captures Thrift’s Hearts
https://ditosapilipinas.com/national/lifestyle-features/article/03/13/2024/dali-captures-thrifts-hearts/446)
なぜフィリピン人に受け入れられたのか
DALIが急速に支持を集めた背景には、フィリピン人の節約意識の高さがある。フィリピン一般会社員の平均月収は3万〜5万円程度と低く、一家の収入を家族全員で分かち合う文化が根付いている。そのため毎月の食費・日用品費をいかに抑えるかは、多くの家庭にとって切実な問題だ。
現地メディアの調査によると、一般的なスーパーやサリサリストア(路面の小型雑貨店)と比較した場合、DALIで買い物をすると1週間あたり500〜1,000ペソ(約1,300〜2,600円)程度の節約が可能とされている。5人家族の基本的な食料17品目を比較した調査でも、DALIで購入した場合は484.85ペソ(約1,260円)であったのに対し、一般的なスーパーでは553.57ペソ、サリサリストアでは571ペソかかったというデータがある。物価の高騰が続くフィリピンにおいて、この差は家計に大きな影響を与える。
(引用元:Philstar.com │ DALI, O!Save reshaping Philippines retail landscape
https://www.philstar.com/business/2025/06/07/2448671/dali-osave-reshaping-philippines-retail-landscape)
DALIがターゲットにしているのは都市部の富裕層ではなく、農村・準都市部に暮らす低〜中所得層の消費者だ。大型ショッピングモールが少ない地域に出店することで、近隣に住む住民が徒歩圏内で安く買い物できる場所を提供している。『高品質なものが安く、近くで買える』というメッセージが、まさにフィリピン人の心を掴んでいる。
(引用元:Asian Development Bank │ ADB Invests in Hard Discount Food Retail in the Philippines
https://www.adb.org/news/adb-invests-hard-discount-food-retail-philippines)
サリサリストアへの「脅威」という見方も
一方で、DALIの急速な台頭はフィリピンのマイクロアントレプレナーシップの象徴とも言われるサリサリストアへの影響を懸念する声も上がっている。フィリピン国内に数十万店舗存在するサリサリストアは、少量単位で商品を販売する地域密着型の零細小売店だ。低所得層の家計にとってツケが利く・必要な量だけ買えるという利便性から長年愛されてきた存在である。
あるフィリピンの実業家はフィリピンスター紙の寄稿の中で、DALIのフィリピン市場参入をサリサリストアへの”ディスラプション”(創造的破壊)と表現した。価格競争力において圧倒的に優位なDALIが近隣に出店すると、地域のサリサリストアが価格面で太刀打ちできなくなる懸念がある。ただし、サリサリストアには小口購入が可能、顔なじみのコミュニティとのつながりという独自の強みもあり、両者が共存する形の地域も多く見られる。
(引用元:Philstar.com │ The sari-sari store disruption
https://www.philstar.com/opinion/2024/02/19/2334391/sari-sari-store-disruption)
課題と今後の展望
急成長を続けるDALIだが、課題がないわけではない。2024年7月に公開された財務諸表によると、2021〜2023年の3年間の累積損失は32.6億ペソに上った。その後も先行投資は続き、2024年末時点の累積赤字はさらに拡大して52.3億ペソに達している。収益性の確立は今後の最大の課題と言える。
(引用元:Wikipedia │ Dali Everyday Grocery
https://en.wikipedia.org/wiki/Dali_Everyday_Grocery)
また、消費者団体からは価格表示の誤りや鶏肉の量目に関する苦情が申し立てられ、2024年にフィリピン貿易産業省(DTI)が調査を行ったほか、フィリピンの大手食品メーカーNutriAsiaから商標権・著作権侵害および不公正競争を指摘されるなど、法的な問題も浮上している。急速な成長の裏側で、品質管理や法令遵守の体制整備がいかに重要かを改めて示す事例だ。
一方で、ADBやIFC(世界銀行グループ)など国際的な開発金融機関が相次ぎ投資を行っていることは、DALIのビジネスモデルが持つ社会的意義の高さを示している。フィリピン国内では食料不安を抱える世帯が全体の約半数に上るとも言われており、低所得層へ手頃な価格で食品・日用品を届けるDALIの役割は、単なる小売ビジネスを超えた社会的インパクトをもたらしている。2025年現在、DALIはルソン島全域での1,000店舗超の展開に続き、今後ビサヤやミンダナオなど他の地域への進出も期待されている。
(引用元:Asian Development Bank │ ADB Invests in Hard Discount Food Retail in the Philippines
https://www.adb.org/news/adb-invests-hard-discount-food-retail-philippines)
まとめ
フィリピンの節約意識の高い消費者と、低コストを徹底追求するハードディスカウントという業態が見事にマッチしたDALI。品揃えを絞り、飾り気をなくし、徹底的にコストを削ることで実現した圧倒的な低価格が、インフレに悩む一般家庭の味方となっている。
フィリピン市場でビジネスを展開する際には、豊かさや高品質を見せるよりも、いかに安く、いかに身近に提供できるかが鍵を握るケースが多いことを、DALIの成功は改めて示している。また、農村・準都市部というまだ大手が開拓しきれていない市場に目を向けることも、フィリピンでのビジネスチャンスを広げる重要な視点だ。今後もDALIの動向から目が離せない。





















