メトロで加速する首都集中 エストニアの地方と都市の課題
エストニア首都タリンに、都市圏をカバーする新たなメトロ(高速公共交通システム)導入の構想が浮上した。これは単に市内交通の利便性向上にとどまらず、国際鉄道「Rail Baltic」プロジェクトなどと連動し、タリンの国際交通の要衝化を狙う大がかりな計画だ。すでに新規トラム路線の整備工事も進行中で、EU基金からも支援を受けるなど大規模投資が行われている。
一方で地方都市への交通インフラ投資は乏しく、首都への人口・機能の一極集中が加速する懸念もある。バランスの取れた国土形成が課題となりそうだ。タリンのグローバル化戦略と、それに伴う国内格差の問題を、交通インフラ整備の視点から検証する。
エストニアの首都タリンにメトロ構想
著者：エストニアgram fellow さえきあき
公開日：2024年5月9日
タリンのメトロ構想
まず、現状エストニアには地下鉄がない。電車といえば離れた都市間をつなぐもので、市内の移動は自家用車、自転車、公共交通機関（バス、トラムなど）のどれかになる。この状況で首都のタリンにメトロを投入しようというアイデアが提案された。
（引用元：ERR https://news.err.ee/1609304142/expert-a-light-metro-could-be-constructed-in-tallinn）
構想を示す図から見られるように、メトロはタリンを東西方向に広くカバーする。このアイデアを提案したグループの試算によると、メトロを使えば従来の移動手段による時間が半減するとのことだ。ちなみにメトロと聞くと地下鉄をイメージするが、提案者によれば決して地下鉄でなければいけないわけではなく、他の交通機関から切り離された公共交通機関でありさえすればいい、とのことだ。地下だろうが地上だろうが高架だろうが、重要なのは車も歩行者も信号も交差点もないことだという。
タリンで続く交通インフラ整備
実は首都タリンでは別の大規模な道路工事が2023年から始まっている。新しいトラム（路面電車）の路線を開通させる工事だ。タリンの海側のフェリー乗り場とタリン空港を旧市街を通りながらひとつなぎにする路線で、これが完成すると訪問者にとってさらに便利になるという算段だ。
空港だけでなく国際鉄道の駅もこの路線に接続する予定である。以前の記事で「バルト三国と他欧州諸国をつなぐ国際鉄道「Rail Baltic」のプロジェクトが進行中」と述べたが、これが新路線と接続する予定だ。
（キャプション：空港とフェリー乗り場の移動は今まで大回りのバスルートしかなかったため、新路線はその課題を解決してくれる）
つまり、相次ぐタリンの交通インフラ整備は国内に留まる話ではなく、将来国際移動がより便利になった時を見据えての大きな投資だ。そのため、このトラム工事資金の一部はEUの復興・回復基金から出ている。
交通への投資は首都タリンだけ？
このような交通手段の刷新が行われているのは、エストニア内では首都のタリンのみである。首都に続いて2番目に人口の多いタルトゥで市内の公共交通機関はバスのみ。街の中心地に長距離バス（他都市を往来するため）のターミナル、街の端に電車の駅、そして街から10kmほど離れたところに小さな空港があるが、これらは市内の移動には使われない。街自体が小さいのでバス以外の手段を導入する必要がないというのが大きな理由だが、人口も関係しているだろう。
首都タリンの人口は46万人（2024年）。エストニア全人口の3分の1が住む。日本の東京でさえ全人口の10分の1であるから、それと比べるとエストニアは首都への人口集中がいかほどかがわかる。2番目に大きな都市タルトゥの人口は10万人に少し届かないくらい。学生都市なので、仕事などは必然的に首都タリンに集まる。
こうなると、交通網を充実させたまちづくりに投資する価値は必然的にタリンの方が大きくなる。人口が増える見込みがあり、そしてそれに伴って公共交通の需要が高くなるからだ。
まとめ
タリンにおけるメトロ構想は、都市の発展と国際的な結びつきを強化する重要な一歩だ。交通インフラの整備は都市の魅力を高め、経済的な活性化をもたらす。ただし、他都市の整備にも目を向ける必要がある。都市間の均衡を図ることは、過度な都市集中の問題の軽減にもつながる。首都に集中するインフラ投資だけでなく、地域全体のバランスを考慮した施策が求められる。そうでなければ今後首都への人口集中がより加速してしまうだろう。
◇ERR：
https://news.err.ee/1609304142/expert-a-light-metro-could-be-constructed-in-tallinn
