フィリピンの国民食「MEGA Sardines」

フィリピン

フィリピンのスーパーやサリサリストア(街角の小さな個人商店)に足を運ぶと、必ず目に入る「赤い缶」があります。トマトソースで煮込まれたイワシの缶詰、いわゆる「サーディン(Sardines)」です。棚にずらりと並ぶその光景は、日本でいえばカップ麺やレトルトカレーのコーナーに近い存在感と言えるでしょう。

筆者が移住したばかりの頃、現地の友人宅で出された昼食が、炊きたてのご飯にトマトソースのサーディンをそのままかけただけの一皿でした。正直なところ最初は少し戸惑いましたが、酸味のあるトマトと青魚の旨みがご飯に驚くほど合う。今では筆者自身も、忙しい平日のお昼にこの「サーディン丼」を頼ることが少なくありません。筆者が暮らす地方都市でも、近所のお宅にお邪魔すると台所に必ずと言っていいほどサーディンの缶がストックされています。

このフィリピンの食卓に深く根付いたサーディン市場を長年にわたって制してきた国民的ブランドがあります。「MEGA Sardines」です。今回は、この身近な缶詰と王者MEGAの強さの秘密、そして「缶詰」という地味な商品の裏に潜む、ビジネスヒントについてご紹介いたします。

フィリピンの国民食「MEGA Sardines」

   著者:フィリピンgramフェロー たこ坊
公開日:2026年 09月14日

フィリピンの国民食「サーディン」

フィリピンで暮らしていてまず驚くのが、サーディン缶詰の存在感の大きさです。安価で日持ちし、ご飯(フィリピン人のお米愛は相当なものです)との相性も抜群。朝食に、おかずに、災害時の備蓄にと、あらゆる場面で活躍します。トマトソース味が定番ですが、チリ入り、スペイン風(オイル漬け)、グリーン(マイルド)など味のバリエーションも豊富です。

では、フィリピン人は一体どれだけサーディンを食べているのでしょうか。業界トップ企業の幹部は、フィリピンでは平均して1か月あたり20フィートコンテナ約1,000本分ものサーディンが消費されており、「フィリピンは世界一のサーディン消費国ではないか」と語っています。これはあくまで現地企業による自負であり、公的統計で世界一が裏付けられているわけではありません。とはいえ、市場を最もよく知る当事者がそう胸を張るほど、サーディンが現地の食生活に深く根付いていることは間違いないでしょう。

その供給を支えているのが、ミンダナオ島のサンボアンガ市です。同市は「フィリピンのサーディンの首都(sardine capital)」と呼ばれ、サンボアンガ半島を囲むスールー・セレベス海の豊かな漁場が安価で大量のサーディン供給を可能にしています。

缶詰という庶民の保存食が、これほど一国の食文化の中心に座っている例は、日本人の感覚からすると少し意外ではないでしょうか。

(引用元:Daily Tribune │ Mega Prime seeks more vessels for growing market
https://tribune.net.ph/2025/05/14/mega-prime-seeks-more-vessels-for-growing-market

(引用元:PCAARRD(フィリピン科学技術省 農業・水産・天然資源研究開発委員会)Mega Fishing Corporation success story: Sardines innovation for the benefit of all
https://www.pcaarrd.dost.gov.ph/index.php/quick-information-dispatch-qid-articles/mega-fishing-corporation-success-story-sardines-innovation-for-the-benefit-of-all

MEGA Sardinesという成功モデル

このサーディン市場の頂点に立つのがMEGA Sardinesです。運営するMega Global Corporationは、1975年にマニラ首都圏のバレンスエラで創業し、1995年にサンボアンガへ進出。サーディン缶詰のMEGA Sardinesブランドを立ち上げたのは2000年と、実は業界としてはかなりの後発でした。

ところがMEGAは、この後発のハンディを独自の技術で覆します。12時間 キャッチ・トゥ・キャニング(catching-to-canning)、つまり漁獲から12時間以内に缶詰にしてしまう製法です。船上で漁獲したイワシを0度の冷却海水で鮮度を保ったまま運び、自社工場で一気に加工する。”缶の中で最も新鮮なサーディン”という明確な価値を打ち出し、後発ながら品質で差別化を図ったのです。さらに、フィリピン初の「イージーオープン缶(プルトップ式)」や「イージーティアパウチ(袋入り)」など、利便性の面でも次々と業界初の革新を仕掛けました。

この戦略が見事に当たり、MEGAは参入からおよそ15年で業界1位に到達。AC Nielsenの2015年小売調査でフィリピンのサーディン市場No.1ブランドとなり、以降その座を守り続けています。

王者の地位をいくつかの数字で見てみましょう。

  • ・市場シェア:約30%(26ブランドがひしめく市場で、15年以上にわたり首位を維持)
  • ・自社漁船:92隻、漁師約900人を抱える垂直統合型のビジネスモデル
  • ・生産量:サンボアンガで1日約200万缶+バタンガスで1日約100万缶=合計1日約300万缶

この生産規模について、同社幹部は「我々は全工場で1日300万缶を生産している。ポルトガルが1年で作る量に匹敵する」と語っています。本場ポルトガルとの比較が文字通り正確かどうかは検証が必要ですが、当事者がそう表現するほどフィリピンのサーディン生産・消費が桁違いの規模にあることは、雰囲気として伝わってきます。

需要拡大に対応するため、同社はルソン島のバタンガス州サント・トマスに約10億ペソ(約26億円)を投じて初の同地域工場を建設するなど、設備投資にも積極的です。2025年には創業50周年を迎え、今後2〜3年での株式上場(IPO)も視野に入れていると報じられています。

後発でも、鮮度という一点に絞った技術革新と、漁から缶詰までを自前で握る垂直統合によって市場を制した──MEGAの歩みは、成熟市場への参入を考える企業にとって示唆に富んでいます。

(引用元:Mega Prime Foods Inc.(公式サイト)History of Mega Global Corporation
https://megaprimefoods.com.ph/history/

(引用元:Logistics News PH │ Mega Prime dominates canned sardine market with 30% share, 92 fishing vessels, mulls further expansion
https://logisticsnews.ph/2025/11/21/mega-prime-dominates-canned-sardine-market-with-30-share-92-fishing-vessels-mulls-further-expansion/

(引用元:Daily Tribune │ Mega Prime seeks more vessels for growing market
https://tribune.net.ph/2025/05/14/mega-prime-seeks-more-vessels-for-growing-market

(引用元:GMA News Online │ Mega Global investing over P1B for new manufacturing plant
https://www.gmanetwork.com/news/money/companies/764970/mega-global-investing-over-p1b-for-new-manufacturing-plant/story/

価格と競合の構図

MEGAの強さを語るうえで欠かせないのが、その安さです。フィリピンの主要スーパーでは、定番の155gトマトソース味のサーディン缶がおおむね22〜25ペソ(約57〜65円)で売られています。1缶でご飯のおかずが一品まかなえることを考えると、まさに庶民の味方です。

ただし、この価格帯は決してMEGAの独壇場ではありません。フィリピンのサーディン市場は、安さと味を競う激戦区でもあります。主要スーパーの実売価格(155g)を並べてみましょう。

  • ・MEGA Sardines(トマトソース チリ):約23.75ペソ(約62円)
  • ・555 Sardines(トマトソース):約22.00ペソ(約57円)
  • ・Ligo Sardines(トマトソース イージーオープン缶):約24.05ペソ(約63円)
  • ・Senorita Sardines:約23.20ペソ(約60円)
  • ・555 Sardines(スペイン風・オイル漬け):約30.25ペソ(約79円)と、やや高めの味付けもあり

注目すべきは、MEGAの2大競合とされる「Ligo」と「555」が、いずれもフィリピンのツナ缶最大手センチュリー・パシフィック・フード(Century Pacific Food)のブランドである点です。同社は60年以上の歴史を持つ老舗Ligoを2022年1月に買収しており、資本力のある大手が虎視眈々とシェアを狙っています。それでもMEGAが約30%という首位を守り続けているのは、前述の鮮度を軸としたブランド力と、垂直統合によるコスト・品質管理の賜物と考えられます。

わずか数十円の缶詰ひとつをめぐって、これだけの資本とブランドがしのぎを削っている。フィリピンの缶詰経済の奥行きを感じさせる構図ではないでしょうか。

(引用元:SM Markets(公式オンラインストア)Canned Goods | SM Markets
https://smmarkets.ph/pantry/canned-goods.html

(引用元:Shop Metro(Metro Supermarket オンラインストア)Mega Sardines In Tomato Sauce Chili(関連商品の価格表示)
https://shopmetro.ph/angeles-supermarket/product/mega-sardines-in-tomato-sauce-chili-425g/

(引用元:Knowledge Sourcing Intelligence | Philippines Canned Food Market Report
https://www.knowledge-sourcing.com/report/philippines-canned-food-market

日本の「サバ缶」との違い

ここで、日本の読者にひとつの問いを投げかけてみたいと思います。日本でここ数年、健康食品やおつまみとして人気を集めている魚の缶詰といえば、何を思い浮かべるでしょうか。

そう、サバ缶です。日本缶詰びん詰レトルト食品協会のデータによると、魚介缶の生産量はかつて王者だったツナ缶(まぐろ・かつお類)を2016年にサバ缶が上回り、首位に躍り出ました。背景には、青魚に含まれるEPA・DHAへの美容・健康効果の期待があったとされます。価格面でも、近年は原料の不漁による高騰で、サバ缶・サンマ缶は1缶300円前後と、5年前の100円台から2倍以上に上がったものも珍しくありません。つまり日本では、魚の缶詰は「やや付加価値の高い健康食・嗜好品」というポジションへ進化しているのです。

一方フィリピンでは、前述の通りサーディン缶は1缶60円前後の安くて手軽な主食のおかずです。同じ「魚の缶詰」というカテゴリーでありながら、両国でポジショニングがほぼ逆転しているのが面白いところです。

実はMEGA自身、この上方向への余地に気づいています。同社はプレミアムライン「MEGA Creations」を展開し、サーディンを医療系団体(Medical Wellness Association)からスーパーフードとして認証を受けるなど、保存料無添加・高栄養価といった「健康・高品質」の訴求を強めています。さらに2025年にはドバイの企業と提携し、海外展開も加速させています。

ここに、日本企業にとっての示唆が2つ見えてきます。

ひとつは、カテゴリーは同じでも、市場ごとにポジショニングは大きく異なるという基本原則です。日本で確立された「魚缶=健康・プレミアム」という商品設計やマーケティングのノウハウは、所得水準が上がり健康志向が芽生え始めたフィリピンの中間層に対して、将来的に「ワンランク上の缶詰」として刺さる可能性があります。逆に、フィリピンの圧倒的な低コスト生産・大量供給のノウハウは、原料高で苦しむ日本の缶詰メーカーにとって学ぶべき点があるかもしれません。

もうひとつは、「ディアスポラ(海外在住者)市場」という視点です。MEGAはすでに30か国に輸出しており、生産の約1割が海外向け。その主な顧客は、米国・カナダ・中東などに暮らすOFW(Overseas Filipino Worker=海外出稼ぎ労働者)やフィリピン系移民です。彼らにとって、故郷のサーディン缶はふるさとの味そのもの。日本にも多くのフィリピン人コミュニティが存在することを考えると、こうした母国の味を求める在外コミュニティは、食品流通や小売を手がける日本企業にとって見過ごせないニッチ市場と言えるでしょう。

ちなみにフィリピンの缶詰食品市場全体は、2021年の約13億7,000万ドルから、2028年には約24億ドル(1ドル≒160円換算で約3,800億円規模)へ成長すると予測されています。「安くて地味な缶詰」と侮るには、あまりに大きな市場がそこに広がっているのです。

(引用元:東洋経済オンライン │ 世界の「サバ缶30種」食べ比べてみてわかったこと
https://toyokeizai.net/articles/-/730090

(引用元:日本経済新聞 │ ツナやサバ・サンマ…魚の缶詰、不漁で生産71年ぶり低水準 価格は5年で2倍
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB1518C0V10C24A7000000/

(引用元:Logistics News PH │ Mega Prime dominates canned sardine market with 30% share, 92 fishing vessels, mulls further expansion
https://logisticsnews.ph/2025/11/21/mega-prime-dominates-canned-sardine-market-with-30-share-92-fishing-vessels-mulls-further-expansion/

(引用元:Knowledge Sourcing Intelligence │ Philippines Canned Food Market Report
https://www.knowledge-sourcing.com/report/philippines-canned-food-market

まとめ

フィリピンの”赤い缶”、サーディン缶詰をめぐる物語を振り返ってみましょう。

  • ・フィリピンではサーディン缶が庶民の食卓に欠かせない国民食であり、現地企業が「世界一の消費国」と自負するほど巨大な市場が存在する。
  • ・王者MEGA Sardinesは、後発ながら「12時間で缶詰にする鮮度」という技術と、漁から缶詰まで自前で握る垂直統合で約30%のシェアを獲得し、1日約300万缶を生産する規模に成長した。
  • ・1缶60円前後の激戦区で、大手資本のLigo・555と競い合いながら首位を守り続けている。
  • ・同じ「魚缶」でも、日本の「健康・プレミアム(1缶300円前後)」と、フィリピンの「安価な主食(1缶60円前後)」とではポジショニングが逆転しており、ここに日本企業の参入余地がある。

ひとつの缶詰から見えてくるのは、「日本の常識を別の市場にそのまま当てはめてはいけない」という、海外ビジネスの基本原則です。日本でプレミアム化した魚缶のノウハウをフィリピンの中間層に展開する、あるいは在日フィリピン人という母国の味を求める市場を取り込む──切り口はひとつではありません。

身近でありふれた商品ほど、その裏には巨大な市場と、各国ならではの消費文化が隠れています。次に現地のスーパーで赤い缶を見かけたら、ぜひひとつ手に取って、その向こうにあるビジネスの可能性に思いを巡らせてみてはいかがでしょうか。本コラムが、皆さまの新規ビジネスのヒントとして少しでもお役に立てましたら幸いです。

たこ坊

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フィリピン在住のgramフェロー 経済上から時事ネタ、現地のマナーまで幅広く執筆。

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