ネットの被害に新組織始動 ―― シンガポール

シンガポール

2026年6月29日。シンガポールでは、オンライン安全委員会(OSC)という新しい組織が動き出します。オンライン安全(救済・説明責任)法2025の主要な規定も、同じ日に効力を持ち始めます。狙いはひとつ。ネット上で被害を受けた人がすばやく助けを求められる「駆け込み寺」をつくることです。

なぜ今、この組織なのか。詳しく見ていきましょう。

(引用元:Singapore proposes new Online Safety Commission with powers to tackle harmful social media content | Malay Mail
https://www.malaymail.com/news/singapore/2025/10/15/singapore-proposes-new-online-safety-commission-with-powers-to-tackle-harmful-social-media-content/194724

ネットの被害に新組織始動 ―― シンガポール 

   著者:シンガポールgramフェロー Malay Dragon 
公開日:2026年 08月31日

被害者を、待たせない仕組みへ

これまでシンガポールでも、ネットの被害に遭った人が救済を求める道はありました。けれど、それが遅すぎたのです。

プラットフォームが正当な通報に対応するまで、ふつう5日以上かかっていたといいます。誹謗中傷や個人情報のさらし、つきまといに苦しむ人にとって、その5日間がどれほど長く、つらいものか。匿名の相手に傷つけられ、どこに助けを求めればいいかもわからず、ただ一人で耐えるしかない――そんな声がこれまで数多く寄せられてきたのです。新組織は、この待たされる苦しみを断ち切ろうとしています。

委員会には、どんな力があるのか

OSCにはかなり強い権限が与えられます。

有害なコンテンツの削除を命じたり、加害者のアカウントを制限したり、被害者が反論を投稿できるようにしたり。対象となる被害は、ドキシング(個人情報のさらし)、ネット上の嫌がらせ、ストーキング、性的画像の悪用、そして児童の性的搾取コンテンツなどです。とりわけ深刻なものについては被害者が委員会に直接駆け込めるようにもなっています。

「責任」を明確にする

もうひとつ、この法律が明確にしたのは、誰が責任を負うのかという点です。

投稿した本人、グループやページを運営する管理者、そしてプラットフォーム。それぞれの立場ごとに果たすべき義務が、法律のなかで明文化されました。とりわけ管理者には有害行為の通報を受けたら、合理的な対応を取る義務が課されます。ネットの世界に、現実社会と同じような責任の所在を持ち込もうとしているわけです。

教える者として、考えること

私は日本語教師として、大人の生徒も多く受け持っています。SNSで発信する人も、少なくありません。

だからこの法律は、生徒を持つ講師としてだけでなく、ネットで言葉を扱う一人として、わが事のように感じます。言葉は人を励ましもすれば、深く傷つけもする。教える立場にある以上、その重みからは目をそらせません。シンガポールに12年暮らした経験からも、あの国が秩序と自由のあいだで、いつも慎重に線を引こうとしてきたことを思い出します。

隣のマレーシアと比べてみると

隣国マレーシアも、ほぼ同じ時期にネットの安全を強める動きを見せています。

ただ、向き合い方には違いがあります。マレーシアは6月1日から、16歳未満のSNS利用を禁じ、子どもを入り口で止めることに力を入れました。対してシンガポールは、年齢で一律に線を引くより、被害が起きたあと、いかに早く救うかに重きを置いています。予防を選んだマレーシア、救済を選んだシンガポール。隣り合う二国の発想の違いがくっきりと浮かび上がります。

自由な場を、安心に

ネットは誰もが声をあげられる場です。その自由は、何にも代えがたいものです。

けれど、そこが安心して歩ける場所でなければ、人はやがて口をつぐんでしまいます。シンガポールの新しい仕組みは、自由を守るためにこそ、最低限の秩序を整えようとする試みなのでしょう。

マレーシアとシンガポール――隣り合う二国がそれぞれのやり方でネットと向き合う姿を、私はこれからもこの地から見つめていきたいと思います。

Malay Dragon

71,318 views

マレーシア・シンガポール在住のgramフェロー 経済上から時事ネタ、現地のマナーまで幅広く執筆。

プロフィール

関連記事一覧