世界一物価が高いのに人々がシンガポールに留まる理由

少し前、シンガポールからクアラルンプールへ移り住んだ夫婦の動画が、ネットで大きな話題になりました。シンガポールで、約70平方メートルの部屋に月々4,000シンガポールドル(約46万円)払っていたのが、クアラルンプールでは、倍近い広さの部屋を、はるかに安く借りられたと言うのです。確かにその通りなのです。けれど私はふと逆のことを考えました。それほど高い国に、なぜこれほど多くの人が留まり続けているのか、と。
今回はそのあたりを深堀しようと思います。
(引用元:Expensive Singapore vs affordable Malaysia: expat move ignites online discussion
https://theonlinecitizen.com/2026/04/13/expensive-singapore-vs-affordable-malaysia-expat-move-ignites-online-discussion)
世界一物価が高いのに人々がシンガポールに留まる理由
著者:シンガポールgramフェロー Malay Dragon
公開日:2026年 09月09日
世界一、お金のかかる街

まず、シンガポールはすべてのものが高いのは事実です。
シンガポールは、ある調査で3年続けて「優雅に暮らすのに世界一お金のかかる都市」に選ばれました。香港、ロンドン、モナコをしのいでの1位です。住居、車、ぜいたく品。どれをとっても、世界の名だたる都市を上回っています。私が暮らした12年のあいだも、物価は上がり続けていました。生活の重さは住む人がいちばんよく知っています。
それでも、人は出ていかない
ところが、街から人があふれ出るわけではありません。むしろ世界中から、人もお金もさらに集まり続けているのです。なぜでしょうか。
理由のひとつは、目に見えにくい「質」にあります。水道の水は、そのまま飲めるほどの基準で管理されている――現地の人はたいてい浄水器を通すにせよ、その安心感は確かにあります。電車は時間通りに来ます。夜道を、女性が一人で歩けます。どれも、当たり前のようでいて、実は世界では決して当たり前ではありません。これらを「高い」と切り捨てるのは簡単ですが、これらを失って初めてその値打ちに気づくのでしょう。
「安心」という名のコスト
私がシンガポールで暮らしていちばん有り難かったのも、今思えばこの安心でした。
子どもを学校に通わせる親にとっては、教育の質は何ものにも代えがたいでしょう。シンガポールの教育は世界でも屈指と言われ、その評判を求めて移り住む家庭も今では少なくありません。病気になったときに、世界水準の医療があるのも心強さもあります。
深夜に体調を崩しても、すぐに頼れる病院がある、その安心感は、実際にその場に立たされて初めてずしりと身にしみるものです。移住動画へのネットでの反応でも、「教育と医療を抜きに比べるのはおかしい」という声が目立ちました。シンガポールの人々は、高い物価の裏でこうした安心を買っているのだと思います。それは数字では表れにくいのだと思います。
近さゆえの、新しい選択肢
とはいえ、すべてを我慢しているわけでもありません。
橋1本でつながるマレーシアのジョホールには、シンガポールと結ぶ経済特区が生まれ、両国を行き来しながら働く人が増えています。週末は物価の安いジョホールで過ごし、平日はシンガポールで働く。そんないいとこ取りも、近さゆえに可能になりました。私の義理の姉も、シンガポールから毎月のようにジョホールへやってきて、買い物と昼食を楽しんでいきます。帰りには旅行かばんいっぱいに日用品を詰め込んで嬉々として帰っていきます。
あの軽やかな往復を見ていると、国境はもう、暮らしを隔てる壁ではないのだと強く感じます。今や出ていくか留まるかの2択ではなく、両方をしなやかに使い分ける。それがまた、この地域に生きる人々の知恵なのでしょう。
値段では測れないもの
長く東南アジアに暮らして、思うのです。暮らしの本当の姿は「高い・安い」という金額のものさしだけでは見えてこないのだと。
シンガポールに留まる人々が買っているのは、安心であり、信頼であり、子の未来への投資です。それは値札のつけにくいものばかりです。
世界一高いと言われてもなお人を引きつけ続けるこの街は、私たちに静かに問いかけているように感じるのです。あなたにとって、お金を払う価値のあるものは何ですか、と。






















