シンガポール|AI分野に巨額投資 ASEAN勢力図の変化か
シンガポール政府が新たなAI国家戦略を打ち出し、今後5年間で約1,122億円をAI分野に投資する方針を明らかにしました。従来の「機会」としてのAIから、「必要不可欠」と位置付け直し、AIのグローバル展開を狙います。専門人材も現在の4,500人から1万5,000人に大幅増強する計画です。マレーシアやタイ、ベトナムなど東南アジア諸国もAI開発に注力しており、覇権争いが激しさを増しています。
シンガポールは過去に経済、教育など様々な分野で大胆な政策転換を行ってきた実績があり、今回のAI戦略でも東南アジアのAIハブを狙う強い決意が示されています。
今回の記事ではシンガポールの新たなAI戦略について解説します。
新AIビジョンで勝機狙うシンガポール 東南アジア覇権に猛プッシュ
著者:シンガポールgramフェロー Malay Dragon
公開日:2024年 5月7日
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「AI国家戦略2.0」
2023年末、シンガポール政府はAI戦略を刷新し「National AI Strategy 2.0(NAIS 2.0)」を策定しています。
この新しいAIの国家戦略では、これまで以上にAI分野へのコミットメントを強力化することを表明しており、今後はAI関連への取り組みが増加される見込みです。
政府の取り組みを加速・強力化
2019年には初の国家AI戦略を発表し、教育や医療からセキュリティに至るまで、さまざまな分野においてAIとの統合を深める計画が示されました。
しかし、この数年で生成AIの登場によりさまざまな分野で革命的な変化が起き、シンガポールも目覚ましい進歩を遂げ、新しい製品を生み出してきました。
そこで政府は、初のAI戦略の策定からわずか数年であるにもかかわらず、これを刷新させました。
AI の世界リーダーに
更新された計画では、シンガポールを世界の AI 分野のリーダーにすることに焦点が当てられています。
「公益のためのAI、シンガポールと世界のための AI」というビジョンに基づき、優れたAIを開発することを目指します。
今日の課題にAIで対処して、人々が自信や信頼、洞察力を持ってAIを使用できるようにすることに重点を置き、数年間にわたりシンガポール全体の経済的、および社会的な可能性を高めることを目的としています。
「あれば良い」から「知っておくべき」への移行
政府は国民に、今回の新戦略でAIテクノロジーに対する認識を変えることを促しています。つまり、AIテクノロジーは「あればよい」という「機会」の段階から、「知っておくべき」という「必要」な存在になったことを、改めて認識するように強調しています。
政府は、AIの専門人材を現在の4,500人から1万5,000人へと増強する目標を設定し、AI
分野で世界のリーダーであるシンガポールの地位をさらに確実なものとする計画です。
「ローカル」から「グローバル」に拡大
AIへの取り組みの範囲は、2019年の戦略では「ローカル」に焦点が当てられていましたが、今回の新戦略では「グローバル」に拡大されています。
シンガポールから世界規模に価値の変化をもたらすAI分野でのブレークスルーや、製品の開発を行うことを目指します。
ドラスティックな政策の刷新
この記事でもしばしば紹介してきましたが、シンガポールはこれまでにも経済政策や都市計画、教育制度など、さまざまな分野で積極的かつ大胆な変革を行っています。
これらの政策の変更は、シンガポールの持続可能な成長に向かう積極的な姿勢を示しています。
シンガポールの政策変革は非常に急速で大胆で、従来の枠組みを簡単に打ち破り新たな方向性を打ち出しているのが特徴です。
日本の漸進的でしばしば遅速であると感じられる政策変化は、既存の制度や慣習に沿った修正や改善が主体となっているからでしょう。
改良・改善が日本の文化の優れた点であることは間違いないですが、変化や改革が急激な現代では、このシンガポールのドラスティックさから学ぶべき点があると思われます。