シンガポールは「ガーデン・シティ」から方向転換

シンガポール

今から30年ほど前に初めてシンガポールを訪れ、チャンギ空港から街中へと夜の高速をタクシーで移動しているとき、中央分離帯に咲く熱帯の花々、高速脇にある大きな街路樹と街灯に驚いたのを昨日のことのように覚えています。

現在ではその時よりもさらに緑化が進み、まさに「ガーデン・シティ」の名の通りだと強く感じます。

世界有数の都市国家シンガポールのインフラ整備は、「ガーデン・シティ」というコンセプトのもと、緑と近代的建造物を融合させ、清潔で安全なグリーンシティとして世界中からの観光客を魅了しています。

今回はシンガポールの「緑化」を中心に据えた都市開発について解説します。

シンガポールは「ガーデンシティ」から方向転換

   著者:マレーシアgramフェロー Malay Dragon 
公開日:2023年2月17日

「ガーデンシティ」

シンガポールの建国の父 リー・クアンユー氏が、彼の強いリーダーシップのもとで推進してきたのが「ガーデン・シティ」という都市ビジョンです。

独立当時、人口200万人ほどで国土面積も狭く資源の少ない島国であったシンガポールが国家として発展していくためには、貿易と経済のハブとして、観光や企業誘致などによって外貨の獲得に頼らざるを得ませんでした。

そこでリー氏は「他の東南アジアにはない快適さを作るしかない」と考え、外国人が安心して観光で訪れ、その上投資してみたいと思わせるような魅力的な都市環境の整備が不可欠であると「ガーデン・シティ」ビジョンを提唱しました。

経済発展と両輪

「ガーデン・シティ」ビジョンに則り、世界トップクラスの清潔で安全で緑豊かな都市国家を創設することで、近代的で安全・安心な国家として経済発展も成し遂げ、国際的な競争力を高めることに成功してきました。

マレーシアからの独立を余儀なくさせられたシンガポールが、一国家として生き残っていくため、「ガーデン・シティ」は選択せざるを得ない、国家の命運をかけた最重要プロジェクトでした。

費用対効果抜群

リー氏は、シンガポールを国際的な「ガーデン・シティ」にすることで、他の都市よりも強い競争力を得られると確信しており、2000年に出された彼の回顧録の中でも「緑化は、私が立ち上げた最も費用対効果の高いプロジェクトです」と述べています。

実際、このビジョンはシンガポール国民の生活をより快適にしただけではなく、人々が吐いた痰や捨てられたごみで汚く汚染された都市を清潔な街に変え、シンガポールは「クリーン」であるという海外での評判を強化し、さらには産業の生産性が上がり経済発展を遂げることにつながりました。

リー氏の冷徹な見極めと、人々の習慣をも変えるような処罰を含む強い政策の実行力は、ただただ感嘆するほかはありません。

「シティ・イン・ア・ガーデン」

「ガーデン・シティ」プロジェクトは、2001年に「シティ・イン・ア・ガーデン」という新たなコンセプトへと方向転換しています。これは巨大な庭園の中に都市全体あるようなイメージで、都市と自然の共生を持続的に図ろうとするものです。

これは生活環境の充実や暮らしに対する満足感といった公共の利益のための施策で、ある程度強制的な施策から国民の支持を得るための効果的な目標への変化といえるでしょう。国民が主体的に街づくりにかかわることで、真に「ガーデン・シティ」として持続できることが、シンガポールの現在地点での「都市緑化」なのでしょう。

緑の面積の割合が約30%

シンガポールは、緑の面積の割合が2017年には約30%と世界17都市の中でトップで、2019年は24都市中2位でした。また、市民一人あたりの緑地面積ランキングでも世界主要50都市中4位でした。

建築物の緑化にも力を入れていて、2030年までに建築物の80%を環境に配慮した設計の建物にする目標が掲げられ、ビルの屋上や壁面の緑化用に50%の助成金が出ています。この先進的な取り組みが、世界共通の懸念であるヒートアイランドの緩和策になるのではと、世界中から注目されています。

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