外国人就労者の給与基準、6月1日から倍増

マレーシア

2026年6月1日は、マレーシアで働く外国人にとってひとつの節目になりました。この日から、就労ビザ「エンプロイメント・パス(EP)」の最低給与基準が大きく引き上げられたのです。

前の基準が決められたのは2016年。10年ぶりの見直しですから、これは小さな調整ではありません。

今回は、日本人社会でも大きな話題となっているこのニュースについて詳しく解説します。

(引用元:Malaysia’s New Employment Pass Rules (w.e.f. 1 June 2026) – Link Compliance
https://www.linkcompliance.com/malaysias-new-employment-pass-rules-w-e-f-1-june-2026/

外国人就労者の給与基準、6月1日から倍増 

   著者:マレーシアgramフェロー Malay Dragon
公開日:2026年08月19日

衝撃の数字

私がこの地に来たのは約30年前です。会社の辞令ひとつで、シンガポールに渡り、やがてマレーシアへ移りました。気がつけば30年近く、東南アジアで暮らしています。駐在員という立場も、ずいぶん長く経験しました。だからこのニュースを聞いたとき、昔の自分や同僚たちの顔が、ふと浮かんだのです。

新しい基準

新しい最低月給は、職種のランクごとに分かれています。

幹部層のカテゴリーIは、月1万リンギットから2万リンギット(約80万円)以上へ。中堅のカテゴリーIIは、5,000〜9,999リンギットだったのが1万〜19,999リンギットへ。若手のカテゴリーIIIは、3,000〜4,999リンギットから5,000〜9,999リンギットへ。

数字だけ見ると、どれもおおよそ倍です。少し前まで、同僚や知り合いが受け取っていた額を考えると、ちょっと考えられない水準です。しかも、この基準は「基本給だけ」で計算されます。手当やボーナスを足せば届く、では通らないのです。総額では足りていても基本給が低くて引っかかる、というのは、昔から駐在の現場でよくある落とし穴です。

「いつまでもいられる」時代の終わり

もうひとつ、私が「時代が変わったな」と感じたのは、滞在年数に上限ができたことです。

これまでEPは、更新さえ続ければ、期限なく働き続けられました。私自身、そうやって長く居続けた一人です。それが今後は、カテゴリーI・IIで最長10年、カテゴリーIIIで最長5年が原則になります。

さらにカテゴリーIIとIIIでは、「継承計画」の提出が義務づけられました。外国人が担っている仕事を、いずれ地元の人へ引き継ぐ道筋を示しなさい、というわけです。なお、この制度の実施は関係業種などの意見もあり、2027年6月まで延長されています。

なぜ、ここまで踏み込んだのか

背景には、第13次マレーシア計画が掲げる方針があります。外国人労働力への依存を減らし、能力ある地元の人材を優先して育てる ―― そういう国の意思です。

外国人を締め出したいのではない。地元が育つための”触媒”として外国人を位置づけ直す、という発想だと私は読んでいます。とはいえ現場の痛みは小さくありません。月給6,000〜9,000リンギットあたりの中堅管理職は、これまでカテゴリーIIにすんなり収まっていました。その層がそっくり新基準を下回る。今年の後半には、更新が通らず慌てる会社が次々と出てくると見られています。

すべてが一律ではない

救いもあります。デジタル経済公社(MDEC)は、グローバル・ビジネス・サービス分野で母語レベルの語学力が求められる職種について、カテゴリーIIIの一部を2027年6月まで従来基準で審査すると発表しました。日本語人材の採用にも関わりうる話です。該当しそうな企業には、個別に相談する余地が残されています。

「残す」ことを問われる時代に

長くこの地に身を置いてきて、しみじみ思うのです。外国人が”いること”そのものより、”何を残したか”が問われる時代に入ったのだと。

基準額が上がり、滞在に年限がつき、後進への引き継ぎが求められる。窮屈に感じる人もいるでしょう。でも私には、これが外国人を遠ざけるための壁というより、共に育つ社会をつくるための線引きに見えます。かつて辞令ひとつで流れ着き、気づけば根を張っていた自分の来し方を振り返りながら、その問いを今は静かに受け止めています。

Malay Dragon

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マレーシア・シンガポール在住のgramフェロー 経済上から時事ネタ、現地のマナーまで幅広く執筆。

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