カラオケチェーン「まねきねこ」の進出に見るフィリピンのカラオケ文化

フィリピンと言えば、英語留学やBPO産業、若い人口構成などが注目されることが多い。一方で、同国は世界有数のカラオケ大国としても知られている。ショッピングモール、レストラン、家庭、さらには路上でも歌声が聞こえてくるほど、カラオケ文化が日常生活に浸透している。
特に誕生日会やクリスマスパーティーでは、カラオケは欠かせない存在だ。日本以上に、歌うことがコミュニケーション文化として根付いている国と言えるだろう。
そんなフィリピン市場へ近年進出を進めているのが、日本の大手カラオケチェーン「まねきねこ」だ。従来からフィリピンには「Videoke(ビデオケ)」や「KTV」と呼ばれるローカル型カラオケ文化が存在している。それにもかかわらず、なぜ今、日本式カラオケチェーンが参入を進めているのか。
背景には、若年人口の多さ、中間層の拡大、ショッピングモール型消費の定着、そしてSNS時代のエンタメ需要の拡大がある。本稿では、フィリピン人のカラオケ文化と「まねきねこ」の進出を切り口に、フィリピンのエンタメ市場の可能性について考察していく。
カラオケチェーン「まねきねこ」の進出に見るフィリピンのカラオケ文化
著者:フィリピンgramフェロー たこ坊
公開日:2026年 08月12日
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「歌うこと」が生活の一部であるフィリピン
フィリピンでは、カラオケは単なる娯楽ではない。家族や友人とのコミュニケーション手段であり、生活文化の一部として深く根付いている。
一般家庭にカラオケ機器が置かれていることも珍しくなく、地方部では住宅前や路上で大型スピーカーを使用して歌っている光景を頻繁に見かける。また、誕生日会、クリスマス、新年会、地域イベントなど、人が集まる場には必ずと言っていいほどカラオケが登場する。
フィリピンの人口は約1億1,500万人。人口中央値年齢は約25歳とASEAN主要国の中でも非常に若く、若年層向けエンタメ市場の拡大余地は大きい。さらにGDP成長率は近年5〜6%台を維持しており、中間層の拡大も続いている。
また、フィリピン人は英語力が高いことでも知られている。英語能力指数EF English Proficiency Indexでは、フィリピンはアジア上位クラスに位置しており、洋楽を自然に歌える環境が整っている。実際、YouTubeやTikTokでは高い歌唱力を持つフィリピン人動画が数多く拡散されており、「歌が上手い国民」というイメージも定着している。
(引用元:Worldometer │ Philippines Population
https://www.worldometers.info/world-population/philippines-population/)
(引用元:EF Education First │ EF English Proficiency Index
https://www.ef.com/wwen/epi/)
「まねきねこ」が狙うフィリピン市場

そんなフィリピン市場へ進出を進めているのが、日本の大手カラオケチェーン「まねきねこ」だ。運営会社であるコシダカホールディングスは、日本国内で700店舗超を展開する業界最大手であり、近年は海外展開を積極化している。
2025年時点では、マレーシア、韓国、タイ、インドネシアなどで海外展開を進め、海外店舗数は30店舗規模まで拡大している。また、2025年にはフィリピン現地法人設立も発表されており、資本金は2,500万ペソ(約6,500万円)。まずはマニラ首都圏での展開を予定している。
フィリピンで従来主流だったのは、「Videoke」や「KTV」と呼ばれるローカル型カラオケ業態だ。ただし、日本の学生向けカラオケボックスとは性質が異なる。
東南アジアではKTVが「飲酒」「接待」「ナイトエンタメ」と結び付いているケースも多く、フィリピンでもバーやラウンジ併設型KTVが数多く存在している。もちろん、Family KTVと呼ばれる健全型店舗も以前から存在していたが、日本式の低価格・長時間滞在・持ち込み可能・モール立地というスタイルとは異なっていた。
例えば、マニラ首都圏の一般的なKTV利用料金は、1室あたり1時間500〜2,000ペソ(約1,300〜5,200円)が中心となっている。一方、日本のまねきねこは、近隣国マレーシアなどでは1時間100〜300円台の低価格帯を打ち出しており、価格競争力も特徴の一つとなっている。
特に、
・学生同士でも入りやすい
・家族利用に適している
・ショッピングモール内で安全に遊べる
・飲食持ち込みが可能
・SNS映えしやすい
といった特徴は、既存KTVとの差別化要素になり得る。
また、フィリピンは世界有数のSNS利用大国としても知られている。DataReportalによると、フィリピン人のSNS利用時間は1日平均3時間30分前後と世界トップクラスであり、TikTok、Facebook、YouTube利用率も非常に高い。
そのため、現在の若年層にとってカラオケは単なる「歌う場所」ではなく、「動画撮影」「SNS投稿」の場としての意味合いも強まっている。高品質な音響・照明・映像設備を備えた日本式カラオケは、こうしたSNS時代のニーズとも相性が良い。
さらに近年はK-POP人気の拡大により、韓国系カフェや韓国式カラオケも若年層を中心に存在感を高めている。つまり現在のフィリピン市場では、
・ローカルVideoke文化
・接待型KTV
・日本式個室カラオケ
・韓国系エンタメ空間
が共存し始めており、エンタメ市場そのものが再編期に入りつつあるとも言える。
(引用元:株式会社コシダカホールディングス │ IR・会社概要
https://www.koshidakaholdings.co.jp/)
(引用元:DataReportal │ Digital 2025: Philippines
https://datareportal.com/reports/digital-2025-philippines)
フィリピンのエンタメ市場に広がる可能性
世界銀行によると、フィリピン経済はASEAN主要国の中でも高い成長率を維持しており、個人消費はGDPの約7割を占めている。つまりフィリピン経済は「消費主導型経済」として成長を続けている。
特に近年注目されているのが「体験型消費」である。単にモノを購入するだけではなく、友人や家族と時間を共有するエンタメサービスへの支出が拡大している。カラオケはその代表例の一つと言えるだろう。
また、日本企業にとって興味深いのは、フィリピン人の「日本ブランド」に対する好感度の高さだ。JETROの調査でも、日本製品・日本サービスへの信頼度は高い傾向が示されている。
フィリピンでは日本食、日本アニメ、日本製品への人気が非常に高く、「日本式サービス」そのものが付加価値として認識されやすい。そのため、日本式カラオケは単なる設備輸出ではなく、「日本クオリティの接客」や「安心して利用できる空間」そのものが競争力になり得る。
(引用元:World Bank │ Philippines Economic Update
https://www.worldbank.org/en/country/philippines)
(引用元:JETRO │ ASEANにおける日本ブランド調査
https://www.jetro.go.jp/)
まとめ
フィリピンにおいてカラオケは、単なる娯楽ではなく、人と人を繋ぐコミュニケーション文化として深く根付いている。そんな歌う文化が強いフィリピン市場へ、日本式カラオケチェーンまねきねこが進出を進めているのは非常に興味深い動きである。
背景には、若年人口の多さ、中間層の拡大、ショッピングモール文化の定着、そしてSNS時代の体験型消費の拡大がある。
一方で、フィリピン市場では価格競争やローカル文化への適応も重要になるだろう。しかし、フィリピン人の「大人数で行動する文化」「モール滞在文化」「SNS投稿文化」「歌好き文化」と、日本式個室カラオケの相性は非常に良いようにも見える。
フィリピンは今後、安価な労働力市場だけではなく、若者向けエンタメ市場としても存在感を高めていく可能性が高い。そうした中、日本企業によるエンタメ輸出の成長余地にも、今後ますます注目が集まりそうだ。























