外国人人材の離脱により失業率上昇、シンガポール政府が注力する「リスキリング」の魅力とは?

シンガポール

シンガポールは、徹底したエリート教育と高度人材の受け入れによる人材政策に基づいて、世界的に高い人的資源の競争力を持つ国となりました。しかし、コロナ禍により多くの外国人人材が去り、企業のリストラが進み失業率が上昇しました。政府は、国民のスキルアップに注力するため、リストラの影響を受けた40~50代のミドル世代の「リスキリング」を重視しています。

今回は「リスキリング」先進国のシンガポールの状況を紹介し、「リスキリング」について考察してみようと思います。

外国人人材の離脱により失業率上昇、シンガポール政府が注力する「リスキリング」の魅力とは?

   著者:マレーシアgramフェロー Malay Dragon 
公開日:2023年3月17日

シンガポールの人材政策

以前この記事でも紹介しましたが、シンガポールの人材政策の特徴は、徹底したエリート教育と高度人材の受け入れにあります。

▶︎シンガポール:「エリートビザ」の導入にみる高度人材獲得競争

リー初代首相の「水も資源もない都市国家シンガポールが生き残れる方法は経済発展を追求するしかない。その為には既に経済的に発展している先進国企業を誘致することが絶対に必要で、更にこの国を発展させる為には政府が強い権限を持ち、最も有能な人をパブリックサービスに就かせるべきだ」という国家運営の思想に基づき進められてきました。

その後、先進国の企業を数多く誘致することに成功し、外国人の高度人材の登用に力を入れ、国民に対しては徹底的な能力主義を採りエリート教育を行ってきました。

人的資源の競争力世界2位

徹底した人材政策の結果、シンガポールは多くの指標で世界のトップに入っており、特にフランスの経営大学院インシアードが発表した、世界133カ国の人材の国際競争力を比較する「人的資源の競争力に関する国際調査報告」の2022年版では、シンガポールは世界2位、アジアでは唯一トップ20に入っています(日本は20位)。

コロナで事態は一変

コロナ禍により、経済成長の一因であった多くの優秀な外国人人材がシンガポールを去っていきました。同時に外国からの投資が縮小し、企業はリストラを迫られ失業率は上昇しました。

コロナ禍が終わった今、外国人人材を再び呼び戻すのではなく、シンガポール政府は国民のスキルアップを見直し、特にリストラの影響を受けた40~50代のミドル世代の「リスキリング」を重視しています。

SkillsFuture Singapore

2014年に人材活用を促す政策として職業再訓練プログラム「SkillsFuture」が始められ、国民のリスキリングに対し、一人当たり500シンガポールドルの支援が行われるようになりました。企業に対しても人材育成を促し、社会に変革をもたらす分野の人材育成支援に力が注がれています。コロナ禍の2020年4月からは、中堅の労働者がキャリアの転換をできるよう支援策が強化されました。

ICT分野でもTechSkills Acceleratorという新たな枠が設けられ、ICT分野での高度人材の育成施策が行われています。

新たなスキルが必要に

コロナ禍を経て、日本国内でもリモートワークやオンライン会議や商談などが拡大し、働き方や労働環境が大きく変化して従来の働き方では対応できない仕事が増加しました。そのため、企業は労働環境の見直しとともに、従業員の新たなスキルの習得に迫られています。

そこでリスキリングによるスキルアップやキャリア形成の重要性がますます高まり、国を挙げて動き始めています。

危機感の違い

シンガポールがデジタル分野での競争力で高い評価を受ける要因のひとつが、政府が主導し民間とタイアップして続けてきた構造転換です。国民に職能向上の機会を継続的に提供し続けてきたことであるのは間違いないでしょう。シンガポールの果敢な挑戦は、今のところ成功しているように思います。日本との間で差があるのは、国を挙げての危機感の共有と、どういう方針・方向でスキルアップを進めていくかの統一感の強さだと感じます。

このような状況を打破するために、政府と各企業がどのような取り組みを進めていくか注目したいところです。

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