フィリピンのインターネット革命「Converge ICT」

フィリピン

「フィリピンのインターネット回線は遅い」――そんな評判を、日本の方々も一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。かつてフィリピンは、東南アジアの中でもインターネット速度の遅さで名を馳せており、当時はVPNを使っても通信が不安定になるケースも少なくありませんでした。

筆者がフィリピンの地方都市に移住した当初も、夜間はYouTubeがまともに再生できず、オンライン会議中に画面が固まることが日常茶飯事だったものです。ところがここ数年、状況は劇的に変わりました。そのゲームチェンジャーこそが、今回ご紹介するConverge ICT Solutions Inc.です。

今回は、Convergeの急成長の背景と現在の市場ポジションについてご紹介いたします。

フィリピンのインターネット革命「Converge ICT」

   著者:フィリピンgramフェロー たこ坊
公開日:2026年 09月25日

Convergeの創業ストーリー

Convergeのルーツは、1990年代のパンパンガ州アンヘレス市にさかのぼります。創業者のデニス・アンソニー・ウイ氏は、1977年に中国福建省から家族とともにフィリピンに移住した移民の子として育ちました。高校生時代からベータマックスのビデオテープをマニラで仕入れ、地元で販売する商売を始め、その後コンピューター販売を経て通信事業へと転換した、まさに叩き上げの起業家です。

1991年のピナトゥボ火山噴火でアンヘレス市周辺のインフラが壊滅状態に陥った翌1992年、ウイ氏はケーブルテレビ事業「アンヘレス市ケーブルテレビネットワーク(ACCTN)」を立ち上げました。「街の人たちに情報と娯楽を届けたかった」という発想から、瓦礫の中でのビジネス開始でした。その後インターネット時代の到来を見越し、1996年にComClark Network and Technology Corporationを創業。アンヘレス市とクラーク経済特区を結ぶ、同地域における先駆的な光ファイバーリンクを敷設しました。

「光ファイバーこそが未来の技術だ」という信念のもと、2007年に同社の子会社としてConverge ICT Solutions Inc.を設立(当初は許認可取得に5年を要し、実際の固定ブロードバンドサービス開始は2012年)。PLDTやグローブという巨大通信2社が牛耳る市場に、地方都市出身の新参者として殴り込みをかけたのでした。

(引用元:Newswav Malaysia’s #1 Content Aggregator :Sekitar Hari Kedua Minggu
https://technologymagazine.com/company-reports/converge-on-a-mission-to-fibre-power-the-filipino-nation)

(引用元:Wikipedia │ “Dennis Anthony Uy”
https://en.wikipedia.org/wiki/Dennis_Anthony_Uy)

驚異の成長速度

Convergeの躍進を象徴するのは、何と言ってもユーザー数と売上の急拡大です。以下に主要指標を整理します。

  • ・加入者数:2020年に100万件を突破後、2022年末に約180万件、2024年末には約256万件に達し、2025年末には298万件へと拡大(2027年に400万件を目標)
  • ・売上高:2024年は406億ペソ(約1,074億円)、2025年は448億ペソ(約1,185億円)と年率10〜15%のペースで成長
  • ・純利益:2024年に約108億ペソ(約285億円)、2025年に約119億ペソ(約314億円)と増益基調を維持
  • ・光ファイバー網:全国約90万キロメートルの自社光ファイバー網を保有(2025年時点)
  • ・通信速度:Ooklaの速度測定で2024年・2025年と2年連続フィリピン国内首位を獲得

2020年のIPOでは約5億2,300万ドル(当時約290億ペソ相当)を調達し、フィリピン株式取引所史上2番目の規模となりました。このIPO資金を活用し、全国への光ファイバー網敷設を一気に加速させたのです。

(引用元:newsbytes.ph │ “Converge posts ₱44.8-B revenue in 2025, signs up 428,000 new subscribers”
https://newsbytes.ph/2026/03/09/converge-posts-%E2%82%B144-8-b-revenue-in-2025-signs-up-428000-new-subscribers/)

(引用元:Bloomberg │ “Philippines’ Biggest IPO Since 2016, Converge (CNVRG PM), Raises $523 Million”
https://www.bloomberg.com/news/articles/2020-10-09/converge-holders-raise-523-million-in-ipo-priced-near-low-end)

(引用元:Business Inquirer │ “More subscribers push up Converge income by 24%”
https://business.inquirer.net/474961/more-subscribers-push-up-converge-income-by-24)

プランと価格感

Convergeが急成長した大きな理由のひとつが、圧倒的なコストパフォーマンスです。2025年11月に刷新された「Super FiberX」シリーズのプランを見てみましょう。

  • ・Super FiberX Max:月額1,599ペソ(約4,200円)/最大400Mbps、Wi-Fi 6モデム、SkyTV標準60チャンネル込み
  • ・Super FiberX Prime:月額2,099ペソ(約5,552円)/最大800Mbps、同上
  • ・Super FiberX Ultra:月額2,599ペソ(約6,875円)/最大1Gbps、Wi-Fi 6モデム、SkyTVプレミアム86チャンネル込み

月々約4,200円でテレビもセットになった回線が利用できる計算です。もちろん、フィリピンの平均所得水準を鑑みれば一概に安いとは言えませんが、それでも圧倒的な技術対価を提供していることは間違いありません。

ちなみに筆者が利用している地方都市の回線も、数年前と比べて動画会議の安定性や速度が見違えるほど向上しました。数年前に「夜は使いものにならない」と嘆いていたのが、今や400Mbpsプランを月4,200円で契約できる時代になったわけです。隔世の感を覚えます。

(引用元:LionhearTV │ “Converge rolls out upgraded Super FiberX Plans, including most affordable 1Gbps Home Internet Package”
https://www.lionheartv.net/2025/11/converge-super-fiberx-plans/)

(引用元:Converge ICT公式サイト
https://www.convergeict.com/)

なぜConvergeは勝てたのか

Convergeが2強(PLDTとGlobe)の隙を突けた理由は、一言でいえば「固定光ファイバーへの集中投資」です。当時、PLDTやGlobeはモバイル事業への投資比率も高く、Convergeは固定光回線へ経営資源を集中させることで差別化しました。

フィリピンの固定ブロードバンド普及率は、現時点でも先進国と比べると低水準です。インターネット利用のほとんどがスマートフォン経由というモバイルファースト市場ながら、テレワーク・オンライン教育の普及とともに「家庭に安定した回線が欲しい」というニーズが急拡大しています。ウイ氏はこれを「ブルーオーシャン」と呼び、徹底した光ファイバー一本化戦略で差別化を果たしました。

フィリピンの固定ブロードバンド市場全体ではPLDTが約45%のシェアでトップを維持していますが、Convergeは一部市場調査では家庭向けFTTH市場で5割超のシェアと推計されています(2023年6月時点。最新の公式データは非公開)。ただし、2025年時点でConvergeの主要展開エリアは依然としてルソン島中心であり、ヴィサヤス・ミンダナオへの拡大は現在進行中です。フィリピン全土で均一に利用できるわけではない点は、進出を検討する際に留意しておきたいところです。

(引用元:Wikipedia │ “Converge ICT”
https://en.wikipedia.org/wiki/Converge_ICT)

(引用元:matrixbcg.com │ “What is Competitive Landscape of Converge Company?”
https://matrixbcg.com/blogs/competitors/convergeict)

日本のビジネスパーソンへの示唆

Convergeの事例は、日本のビジネスパーソンにとってどのような意味を持つのでしょうか。いくつかの視点から整理します。

① フィリピン進出・拠点開設のハードルが下がった
かつて「通信インフラが不安定」という理由でフィリピンへのオフショア開発やBPO(Business Process Outsourcing)拠点設置をためらっていた企業にとって、Convergeの普及は朗報です。マニラ首都圏はもちろん、セブ、ダバオ、イロイロといった主要地方都市でも安定した光ファイバー回線が使えるようになったことで、コスト競争力の高い地方都市に拠点を置く選択肢が現実的になりました。なお、Convergeの展開状況はエリアによって異なるため、進出先での事前確認はしておきたいところです。

② テレワーク人材の調達先としての可能性
フィリピンは英語話者が多く、優秀なITエンジニアやカスタマーサポート人材を比較的低コストで採用できます。通信環境の整備が進んだことで、地方在住の人材をフルリモートで活用するモデルがより現実的になっています。日本企業にとって、フィリピン人材のリモート採用は人手不足解消のひとつの選択肢となりえるでしょう。

③ 「集中特化」戦略から学ぶ事業設計
Convergeは光ファイバー固定回線だけに特化するという一見地味な戦略で、巨大通信会社2社の間隙を縫って急成長しました。競合が見落とした、固定需要というニッチを深堀りし、徹底的に磨き上げた結果です。多角化と効率化の間で悩む日本の中小企業にとっても、「一点突破の集中戦略」という考え方は大いに参考になるはずです。

まとめ

「フィリピンのWi-Fiは遅い」という定説を覆したConverge ICTの成長物語は、インフラへの先行投資と集中特化戦略がいかに強力な競争優位を生み出すかを示す好例です。2025年末時点で約298万件の加入者、年間売上高は約1,185億円(448億ペソ)に達し、さらに2027年に400万件を目標とした拡張が続いています。

フィリピンへの進出や現地人材活用を検討されている日本のビジネスパーソンにとって、この通信インフラの劇的改善は追い風と言えます。ただし、展開エリアの偏りや最新シェアデータの不透明さなど、留意すべき点もあります。現地情報を丁寧に確認しながら、戦略を練っていきたいところです。

今回の記事が、フィリピンビジネスを考えるきっかけや企業における戦略立案の参考になれば幸いです。

たこ坊

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フィリピン在住のgramフェロー 経済上から時事ネタ、現地のマナーまで幅広く執筆。

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