スペインの伝統文化　闘牛危機

2025.02.03

スペイン

スペインではToros「トロス」(正式名称：Corrida de Toros) と呼ばれる、伝統文化のひとつである闘牛。何世紀にもわたって行われてきたもので、国民的な象徴とされることもある。

闘牛は単なる娯楽ではなく、歴史や芸術に深く根差しているレガシーで、特に支持者の間では古くから受け継がれる文化の継続が重要視されている。その一方、近年では動物愛護の観点から特に若い世代を中心に闘牛に対する批判が強まっており、国全体で賛否が割れる事態に陥っている。

筆者の住むバレンシアは闘牛文化の重要な地域のひとつとされ、19世紀に建設されたコロシアム風の大きな闘牛場がある。毎年3月に開催される闘牛イベントが有名だが、他のスペインの地域と同様に闘牛に対する意見が分かれ議論が続いている。動物虐待や倫理的な側面がクローズアップされる中、闘牛の未来は不透明になりつつあるようだ。

異国の地スペインコスタ・デル・ソル/フエンヒローラに住んで22年

交通便利な生活と多彩なカルチャー広がる多文化都市｜マラガ/フエンヒローラ

この記事の内容

スペインの伝統文化　闘牛危機

スペインの伝統文化　闘牛危機

　　　著者：スペインgramフェロー北田ミヤ
公開日：2025年2月3日

闘牛の起源

スペインの闘牛の歴史は非常に古く、多くの文化や宗教的儀式から影響を受けている。古代地中海文明に遡り、特に古代ギリシャやクレタ島で行われていた牛と人間が力を競う儀式がその起源であると考えられている。ローマ時代には剣闘士が野獣と戦う娯楽が盛んになり、これが後の闘牛文化に影響をもたらした。

競技場での戦いは観客を楽しませるための催し要素を持っていて、闘牛も同様の性格を持つようになったと考えられている。その後、中世スペインでは貴族の騎士が騎馬で槍を使い、600年もの間武勇を示す場として牛と戦うことが伝統として発展したが、フィリップ4世により槍が廃止され、16世紀頃には馬上での闘牛は次第に廃れ、徒歩で牛と対峙する現在のようなスタイルが一般化した。

18世紀後半にはアンダルシア地方で闘牛士がマントを使い牛の動きを操る技術が発展し、近代の闘牛の形が確立される。闘牛は公式な興行として全国で行われるようになり、それに伴って闘牛場が各地に建設された。

若者からは「時代遅れの伝統」と批判の声

スペイン国内で闘牛への支持は年々減少していて、特に動物愛護意識の高い若年層の間では、
伝統的な娯楽としての魅力は薄れ、時代遅れだという批判的な声が高まっている。

スペイン国民を対象に闘牛に関する世論調査を実施したIpsosMoriの調査では、国民の4分の３は過去5年間に闘牛に参加しておらず、2023年の16-24歳を対象とした調査ではわずか7％が闘牛を支持したと報告されている。

闘牛の未来

ゴヤ、ピカソ、ガルシア・ロルカの作品にも闘牛のシーンが見られるように、闘牛はスペイン文化の一部として多くの芸術家や作家にも影響を与えてきた。その精神性は「勝利と死」「栄光と悲劇」が交差する人生の象徴としても捉えられる。しかし現代ではその残酷さが批判され、文化遺産か動物虐待か、という議論が続いている。

2010年7月、カタルーニャ州はスペイン本土で初めて闘牛を禁止した地域となったものの、2016年に国の憲法裁判所がそれを覆し合法とするなど、国全体で賛否が別れるテーマとなっていて、今後のあり方が問われ続ける存在となっている。

縮小の一途をたどりつつある伝統的な闘牛だが、根強い支持と動物福祉の進展とのバランスをとるために、実際に牛を傷つけないシミュレーション闘牛の導入や、文化的イベントとしての側面を協調するなど“闘牛の形を変える”検討もされている。