ニッケル・銅・金 —— 資源大国フィリピンが描く脱炭素時代の勝算

フィリピン

電気自動車(EV)、再生可能エネルギー、データセンター。脱炭素時代の到来によって、それらを支える「鉱物資源」の重要性が急速に高まっている。特に近年は、EVバッテリー向けのニッケル、送電網や半導体に不可欠な銅、そして安全資産として価値が見直されている金など、資源国への注目が集まっている。

そんな中、東南アジアで存在感を高めているのがフィリピンだ。フィリピンと言えば英語留学やBPO産業のイメージが強い一方、実は世界有数の鉱物資源国でもある。特にニッケルについては、インドネシアに次ぐ世界第2位の生産国として知られ、世界のEVサプライチェーンを支える重要国として注目されている。

背景にあるのは、米中対立と経済安全保障の問題だ。これまで重要鉱物サプライチェーンは中国依存が進んできた。しかし近年では、日本やアメリカ、欧州各国が「脱中国依存」を進めており、代替供給先として東南アジアの資源国への関心が高まっている。

今回は、フィリピンが保有するニッケル・銅・金資源と、脱炭素時代におけるビジネスチャンスについて考察していく。

ニッケル・銅・金 —— 資源大国フィリピンが描く脱炭素時代の勝算

   著者:フィリピンgramフェロー たこ坊
公開日:2026年 08月07日

EV時代を支える「ニッケル大国」

脱炭素時代において、フィリピンが最も大きな存在感を放っている資源が「ニッケル」だ。

ニッケルはステンレス製品にも使用される金属だが、近年ではEV用リチウムイオン電池向け需要が急増している。国際エネルギー機関(IEA)によると、EVおよび蓄電池向け重要鉱物の需要は2040年までに最大30倍規模へ拡大し、ニッケル需要も20倍超まで増加する可能性があるとされている。

フィリピンは2023年時点で年間40万トン超のニッケルを生産しており、世界供給の約1割を担っている。

(引用元:IEA │ The Role of Critical Minerals in Clean Energy Transitions
https://www.iea.org/reports/the-role-of-critical-minerals-in-clean-energy-transitions/

(引用元:GLOBAL NOTE │ 国別ニッケル鉱石生産量ランキング
https://www.globalnote.jp/post-3123.html

特にパラワン島やミンダナオ島には大規模鉱山が点在しており、日本企業とも深い関係がある。

例えば、住友金属鉱山はパラワン州でコーラルベイ・ニッケル社(CBNC)を運営しており、現地で製錬したニッケル原料は日本国内のEVバッテリー材料にも使用されている。

(引用元:国際環境NGO FoE Japan │ パラワン島のニッケル開発問題に関する記事
https://foejapan.org/issue/20250414/23625/

近年では、中国企業によるニッケル関連投資も拡大している。

中国はインドネシア国内のニッケル精錬産業へ巨額投資を進めており、その流れはフィリピンにも広がりつつある。一方、日本や欧米各国は中国依存リスクを低減するため、フィリピンを含む東南アジア資源国との連携強化を進めている。

ニッケルは今や単なる工業資源ではなく、「戦略物資」となりつつあるのだ。

EV普及で需要急増する「銅」

ニッケルほど大きく取り上げられてはいないものの、今後フィリピン経済に大きな影響を与える可能性を秘めているのが「銅」である。

銅は送電線、モーター、半導体、データセンターなど、あらゆる電化社会インフラに不可欠な金属である。

一般的なガソリン車に使用される銅は20〜25kg程度だが、EVでは80kg前後使用されるケースもあり、約3〜4倍の銅が必要になると言われている。

また、世界最大級の資源商社トラフィグラは、AI・EV・データセンター需要拡大によって、今後10年間で追加1,000万トン規模の銅需要が発生すると予測している。

(引用元:International Copper Association │ Copper: The Material of Choice for Vehicle Manufacturers
https://internationalcopper.org/resource/copper-the-material-of-choice-for-vehicle-manufacturers/

(引用元:Reuters │ Copper demand to boom as new technology drives power consumption, Trafigura says
https://www.reuters.com/markets/commodities/copper-demand-boom-new-technology-drives-power-consumption-trafigura-says-2024-04-22/

フィリピン南部ミンダナオ島には大型銅鉱床が存在しており、海外メディアでも「EVサプライチェーンの重要拠点」として注目されている。

また、フィリピン政府は近年「資源輸出国」から「資源加工国」への転換を目指している。

これは、ニッケル鉱石輸出を制限し、国内精錬産業育成に成功したインドネシア型モデルを意識しているとも言われている。

もしフィリピン国内で製錬・加工産業が成長すれば、物流、インフラ、発電、不動産など周辺産業にも大きな経済効果が波及する可能性がある。

体重60kgの方で、1万歩歩くと約 300〜350 kcal の消費

フィリピンはニッケルだけでなく、金の産出国としても知られている。

近年はインフレや地政学リスクの高まりを背景に、金価格が歴史的高水準で推移しており、2024年には1トロイオンス2,000ドルを超える場面も見られた。

また、世界黄金協会(World Gold Council)によると、2023年の中央銀行による金購入量は1,000トン超に達している。

(引用元:World Gold Council │ Central banks and gold purchases data
World Gold Council │ Central banks and gold purchases data

特に銅鉱山には金が副産物として含まれるケースも多く、銅と金を同時に採掘できるプロジェクトは収益性が高くなりやすい特徴がある。

そのため、フィリピンにとって金資源は単なる輸出商品ではなく、国家経済を支える重要資産のひとつとなりつつある。

資源大国ゆえの課題と日本企業の商機

一方で、フィリピン鉱業には課題もある。

過去には環境破壊や土壌汚染などが問題視され、一部鉱山が閉鎖されたこともあった。また、EV推進のための鉱物採掘が森林破壊や水質汚染を引き起こすという矛盾も抱えている。

さらに、フィリピン鉱業のGDP寄与率は依然として1%前後に留まっており、「資源は豊富でも産業化が進み切っていない」という指摘もある。

(引用元:JETRO │ フィリピン政府、鉱業規制に関する記事
https://www.jetro.go.jp/biznews/2020/01/2b9241bc6ac94be4.html

(引用元:Business & Human Rights Resource Centre │ EV supply chains and mining issues report【PDF】
https://media.business-humanrights.org/media/documents/2023_EV_supply_chains.pdf

それでも日本企業にとって、フィリピン資源市場は大きな可能性を秘めている。

日本政府も経済安全保障の観点から重要鉱物サプライチェーン強化を進めており、今後は現地企業との合弁、製錬事業、リサイクル事業、再エネ発電などを含めた投資機会が拡大していく可能性がある。

また、環境技術、省エネ技術、水処理技術など、日本企業が持つESG関連ノウハウも活かせる余地がある。

まとめ

脱炭素時代の到来によって、フィリピンは「若い人口を持つ新興国」から「世界産業を支える資源国家」へと変化し始めている。特にニッケル、銅、金といった鉱物資源は、EV、再生可能エネルギー、データセンターといった次世代産業に不可欠な存在だ。

一方で、環境問題やインフラ不足といった課題も抱えている。しかし、だからこそ今後重要になるのは、「持続可能な形でどのように資源を活用するか」という視点だろう。脱炭素時代の世界経済は、単なるテクノロジー競争ではなく、「誰が資源を握るのか」という資源競争の側面も強まっている。そんな中、豊富な鉱物資源を持つフィリピンは、今後さらに世界経済における重要性を高めていくことになりそうだ。

たこ坊

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フィリピン在住のgramフェロー 経済上から時事ネタ、現地のマナーまで幅広く執筆。

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