中国に浸透する出張・代行サービス|家事代行は人気で人手不足
筆者が住む中国上海市では、日本と比較すると家事や掃除などの出張・代行サービスを活用する人の割合が多い。出張カメラマン、出張シェフ、ペットの散歩・餌やり代行、自宅エステ、自宅マッサージ、自宅ヘアカットなどサービスの幅は広く、Wechatやアプリで簡単に予約ができる。特に家事代行サービスは需要が高まり供給が追い付かない状況だという。本記事では、中国に浸透しつつある出張・代行サービスの現状や需要が高まる背景、市場規模についてなど詳しく紹介する。
中国に浸透する出張・代行サービス|家事代行は人気で人手不足
著者:上海gramフェロー 米久 熊代
公開日:2024年4月23日
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上海ディズニーランドで出張サービスを活用する中国人
アジア最大の大きさを誇る上海ディズニーランドでは、出張・代行サービスを利用する人を見かけることが少なくない。
例えば、出張カメラマンを淘宝(タオバオ)で注文してディズニーランドを一緒に巡り、写真を撮影してもらうことができる。一番人気のショップの料金は、1時間10枚で259元(約5,180円)からとかなりお得。
園内ではディズニーランドのキャストが専用のカメラで撮影をしてくれるが、キャラクターグリーティング、園内の撮影スポット、アトラクション内と撮影場所が限られる。しかし個人で依頼した出張カメラマンならば、ディズニーランド内のどこでも好きな場所で撮影してもらうことが可能だ。
個人的な意見だが、周りの20・30代の友人から年配の奥様方まで、中国人女性は自分の写真を撮ることが好きで映り方にもこだわりがある人が多いように感じる。中国のSNSでは写真映りが良くなるポージング方法などの解説投稿をよく目にする。映える背景として最適なディズニーランドで、出張カメラマンの需要があることにも納得だ。
生活の一部になりつつ出張代行サービス
中国人の友人と自宅マンションのエレベーターに乗っていた時、清掃道具を抱えた女性が乗ってきた。友人は女性にすぐ話しかけ、掃除代行業者なのか、水回りやキッチンなど、どこまでの範囲を掃除してもらえるのか、料金はいくらなのかなど早口で軽く聞いたあと、すぐお互いのWechatを交換。後日Wechatで連絡を取り、春節前の掃除を依頼したと聞いた。
中国ではアーイーというお手伝いさんを住み込みや月単位で雇うことが多いが、単発でもアプリで家事・掃除・子守りなどの出張代行サービスを依頼できる。「天鹅到家」というアプリは上海市では使用している人が多く、中国人の友人から勧められた。また、ネットスーパーの「盒馬(フーマ)」でも掃除代行サービスを取り扱っている。このように中国上海市では出張代行サービスが市民の生活に浸透しつつあり、需要が高い一方で家事代行サービスに関しては供給が追い付いていない。
中国の家事代行サービス市場規模と現状
データによると、中国の家事代行サービスの市場規模は2023年に1兆1600億元(1元は約19.3円)に増加すると同時に、人手不足が2000万人に達する見込みだ。
従来の家事代行は労働集約型産業で、賃金が低いとされていたが、家事サービスの質と専門レベルに対して高い要求を出す家庭がますます多くなるにつれ、優れた従事者は今や希少資源だ。今年7月には、上海市で家事を専攻した学部生が初めて卒業した。
上海開放大学公共管理学院の蘆琦院長は「超大都市の発展では質の高い生活が求められている。上海の800万世帯のうち、少なくとも3分の1が家事代行サービスを必要としている。これから私たちの大学は総合家事代行・総合健康・総合介護を方向性として発展する可能性がある」と述べた。
(引用元:人民網 http://j.people.com.cn/n3/2023/0719/c94476-20046269.html)
中国の出張・代行サービスの課題とは
「友人からの紹介で知った家事代行サービスのスタッフAさんは、いつも真面目に仕事をしてくれていたし人柄も良かった。友人からの評価も良い為信頼してしまった」と、筆者の友人はショックを隠せない様子で話してくれた。
友人は自身が仕事で在宅していない時でも、家事代行業者が自宅に入れるよう鍵を預けていたという。しかし実際は仕事をしていなかったことが発覚。スタッフAさんから申告されていた勤務時間と、実際の労働時間が違うこと、また何度かおかしい言動があったためすぐ解雇したという。
今回は家事代行サービスを一例としたが、これに限らず出張・代行サービスは日本と比較すると常に何かしらのリスクを伴う可能性が高いと感じる。今回のような勤務時間の水増しや勤務態度の問題、仕上がりの質のバラつき、物品の紛失や破損などの被害にあった人は少なくない。こうしたサービスの質に差があることは大きな課題であり、研修の強化などで解決できるのかは疑問だ。
少子高齢化と怠けもの経済が今後のカギとなるか
日本同様、中国も人口の減少が止まらない。去年の出生率は建国以来最も少ない902万人となるなど、少子高齢化が深刻な社会問題となっている。今後も増加する高齢者世帯では出張代行サービスを活用する人が増えると予測する。また、タイパ(タイムパフォーマンス)や便利さを求めるZ世代や共働き世帯などが増えており、「怠けもの経済」という新しい消費スタイルが確立されている。まさに出張代行サービスは「怠けもの経済」に合致しているサービスのひとつだろう。少子高齢化と怠けもの経済が、今後市場を押し上げる鍵になるかもしれない。