プロが教えるソーシャルリスニングの基本
ここ数年マーケティング業界では、ソーシャルリスニングが話題である。
ソーシャルリスニングとは何のことを指すのかといえば、「ソーシャル」を「リスニング」=傾聴する、ということであり、一般的には、TwitterやInstagramなどのSNSを見て、その定量的・定性的な傾向を分析して、ある課題に役立てるというような手法である。
プロが教えるソーシャルリスニングの基本
著者:gram 福田 さやか
公開日:2021年3月1日
ソーシャルリスニング:初めの一歩
SNSデータは鍵アカウント以外は全世界に公開されているため、だれでも見ることができる。このため、だれでもその気になればソーシャルリスニングはできるといえる。
ただ、その分析には少しコツがあることも事実である。
一つは、ある「知りたいこと」があるときのキーワードの選び方である。
例えば、「コカ・コーラ」について調べようと思ったときに、表記が人により揺らぎが出てくることに注意したい。日本語の正式名称はコカ・コーラだが、呟くときに正確にそう書かない人もいるだろう。「コカコーラ」と書いたり、単に「コーラ」と書いたり(ペプシもこの場合混ざるだろう)、「コーク」と書いたり、あるいは、英語でCoca-Cola、CocaCola、などなど。こうした揺らぎのワードを全部見ていかないと、見たい当行にたどり着かないばかりか、件数などについては、少なく見えてしまうということもある。
ゴミデータの取り除きも必要である。
「コーラ」で調べれば、「コーラス」などの、コーラとは関係ないが「コーラ」が含まれているワードが出てきてしまうことがある。このように、予期しない書き込みが混ざったまま分析をすると、実際より多い数が投稿されていると誤解して分析してしまうケースもある。
定性的分析へ:インフルエンサーを見つけ出す
このようにして、母集団をまず確定した後は、定性的な分析へと移る。
まず、時系列データを見ていけば、かならず山と谷がある。この山の部分に着目するのである。
山は必ず、その山を山ならしめている「きっかけ」と「増幅を引き起こしている人たち」がある。きっかけは、スキャンダルかもしれないし、誰かの注目される発言かもしれないし、企業のキャンペーンかもしれない。
よく「バズった」などといわれるが、そのバズを引き起こした最初の発端は何なのかを、山が起き始める起点当たりの投稿を見て判定していく。そして、それが大きく伸びたところで、リツイートやいいねを押した群を特定していくのである。
最初に拡散した人は、その分野のインフルエンサー的な人ともいえることが多い。
このようにして、発端の人や、拡散した人を見つけることで、インフルエンサー的な人を探し出すことができる。
ペルソナ・カスタマージャーニーの作成
インフルエンサーを探したら、今度は、ペルソナ(その人のパーソナル属性、どんな人物かということ)やカスタマージャーニー(ある商品を買うまでの興味・関心を持ってから情報収集、比較検討、購入、周りへの伝達などの一連の流れを整理したもの)作りとなる。
そのペルソナを特定したら、その人の投稿を過去に遡っていき、つぶさに見ていけば、その人がどういう人物なのか(どういうところに住んでいて、どんな職業、家族構成、年齢で趣味や好きなこと・もの・食べ物などは何なのか、ライフスタイルその他、価値観、こだわりなど)が分かってくる。もちろん、本人の自己申告なのでわからないこともあるが、それでもある程度のプロフィールは窺い知ることができる。
そして、その対象となるものを購入したりするまでに、どのようなタッチポイントでどう情報収集をして購入したのか、ということが書き込みからわかる場合(わからない場合や、情報が歯抜けになる場合も多い)は、ジャーニーを作ることもできる。
このようにして、ソーシャルリスニングという調査は行われる。
「リスニング」と「アスキング」
なお、「リスニング」の対極にあるのが「アスキング」手法である。これは、いわゆるインタビューやアンケートなど、調査したい側が「尋ねた」(アスキング)ことに答えた結果から分析するものである。「アスキング」では知りたいことを全部聞けるのに対し、回答者がよかれと思って「ほしそうな答え」をしてしまう誘導の問題や、「自分をよく見せたい」ことから本音と違う回答をすることもありうるため、自発的に発言をする「ソーシャル上の声」を「リスニング」(傾聴)するのとは異なる利点と欠点があることは留意したい。
リスニング全盛期であるが、アスキングを軽視するのではなく、バランスの取れた調査をしていくことが重要と考える。