ヨーロッパを飛び交うアイルランドのLCCライアンエアー

北米

ヨーロッパ内の飛行機移動には欠かせないライアンエアーは、アイルランドが生んだ航空会社である。今や、世界でもトップクラスの航空会社として成功しているが、一体どんな要素が成功に導いたのか。

ヨーロッパを飛び交うアイルランドのLCCライアンエアー

    著者:イギリスgram fellow リリーゆりか
公開日:2024年10月28日

世界最大級の格安航空 ライアンエアー(Ryan Air)

ヨーロッパ内を飛行機で移動する際、必ずといっていいほど誰もがお世話になるライアンエアー。ヨーロッパの航空会社全体でも乗客数トップを誇るライアンエアーは、実はアイルランドの格安航空会社である。

2023年の乗客数は約1億8,000万人と、ヨーロッパ屈指フルサービスキャリア、ルフトハンザ(ドイツ)やKLM(オランダ)を大きく抜いて1番の乗客数を誇った。現在94のハブ空港で毎日3600便以上を運航している。

(参考元:European airlines: top 12 LCCs and non-LCCs ranked by 2023 passengers. LCCs outperform | CAPA
https://centreforaviation.com/analysis/reports/european-airlines-top-12-lccs-and-non-lccs-ranked-by-2023-pax-lccs-outperform-682115

(参考元:Which Airline Carries the Most Passengers in Europe?
https://www.airlineratings.com/articles/which-airline-carries-the-most-passengers-in-europe

元々は家族経営の小さな航空会社

ライアン一族により1985年に設立され、当初はアイルランドの南側にある小さな町ウォーターフォードからロンドンへ毎日運航していた。2年目にダブリンへ拠点を移し、ダブリン・ロンドン間の運航を開始。フルサービスキャリアのフライトを最初は提供していたが赤字が続いており、そんな中、アメリカのサウスウエスト航空の低コストモデルに刺激を受けてビジネスモデルを変更し、ヨーロッパ初の格安航空会社(LCC)として再出発。現在ではヨーロッパだけでなく、北アフリカや中東の約40ヶ国へ就航している。また、マルタ政府とも契約し、マルタ航空もライアンエアーグループとして運航している。

(引用元:The Story Of Ryanair: Ireland’s LCC Used To Be Anything But Low Cost │ Simple Flying
https://simpleflying.com/ryanair-history/

徹底的なコスト削減

ヨーロッパ内を飛行機で移動するのに圧倒的にライアンエアーが安い。

どのようにして格安を実現させているのかというと、顧客を巻き込んだ徹底的なコスト削減である。

⚫︎小規模空港における空港使用料
ライアンエアーはハブ空港にも就航しているが、それでもほとんどが小規模空港を利用している。小規模空港では空港使用料が大幅に安く、これが低コストでの運航を実現させている。

⚫︎ハブ空港のジェットブリッジ使用拒否
大きな空港でライアンエアーを利用すると、必ず一度建物の外に出され、徒歩やバスで飛行機まで直接移動しなくてはならない。飛行機に空港の建物から直接搭乗できるジェットブリッジは空港のサービス料金として請求されるので、ライアンエアーは断固として使用しないようである。

⚫︎全航空機を同一の型で統一
ライアンエアーはボーイング737型機しか使わない。高品質の機体を大量に低価格で購入し、部品の在庫を抑えることにもなる。

⚫︎訓練の効率化
同一の機体しか使用しないため、整備士やパイロットに対する訓練が1つの機体のみで済むことで効率が上がりコストも下げられる。

⚫︎乗務員採用
ライアンエアーはエントリーレベルの乗務員を採用する。この乗務員たちは自己のキャリアを考えた時に経験がまず必要であり、給与条件よりも経験を得ることを重視する。その結果、条件に関して寛容な乗務員を低賃金で雇うことができるという戦略である。

⚫︎食事と飲料の有料化
機内食は提供されず、機内での食事やスナック、飲料販売にはとても熱心である。機内への飲食物の持ち込みはホットドリンクとアルコール以外であれば寛容だが、結局紅茶やコーヒーなどカフェ感覚で機内購入する乗客が多いようである。

⚫︎手荷物、空港チェックイン、座席指定の有料化
手荷物はかなり厳しく、無人の手荷物チェックインなどでは1gの超過も許されない。また、事前のオンラインチェックインが必須であり、座席の指定は有料である。オンラインチェックインを済まさなかった場合、空港でのチェックイン料金がかかる。

⚫︎意図的にネガティブな噂を利用した広告の無料化
「トイレが有料化」などのネガティブな要素による噂や評判で、記事やメディアに度々名前が上がってくる。わざわざお金をかけて広告を打たなくても、世の中の話題になる事が宣伝になるというCEOの考え方であり策略でもある。

(参考元:Relentless Cost-Cutting Redefined the Airline Industrya │ quartr.com
https://quartr.com/insights/company-research/how-ryanairs-relentless-cost-cutting-redefined-the-airline-industry

(参考元:Why Is Ryanair So Cheap? │ Simple Flying
https://simpleflying.com/why-is-ryanair-so-cheap/

実際のサービスはいかがなもの?

筆者もアイルランドからヨーロッパ内の他国へ旅行する際は必ずライアンエアーを使用する。理由は、断然安いから。ここまで格安で移動できる手段に対して豪華なサービスなどは全く求めておらず必要最低限で良いと考える。おそらく同じように考える人がほとんどではないだろうか。

荷物は国内旅行と同じ分量でできる限り減らしてリュックひとつにまとめ、空港でご飯を済ませるか持ち込めるものを購入する。たった数時間のフライトで快適さは考えない。それだけで往復数十ユーロ(10,000円以内)で他の国へ行けてしまうのは非常にありがたい。

ただ、機内トラブルなどがあった際の対応が非常に悪いと、度々ニュースになる。幸いまだそのような目にはあっていないが、リスクを考える必要もあるのかもしれない。それを鑑みてもなお、ライアンエアーを利用することに大きな魅力があると言える。

まとめ

アイルランドの航空会社ライアンエアーは、元々家族経営の小さな航空会社だったが、今や世界トップクラスの航空会社に成長した。乗客を巻き込んだ徹底した効率化と低コスト化が現在のライアンエアーのビジネスモデルを作り上げ、ヨーロッパでの移動には欠かせない移動手段となっている。

リリーゆりか

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アイルランド在住のgramフェロー 経済上から時事ネタ、現地のマナーまで幅広く執筆。

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