フィリピン消費市場のインフラ「Home Credit」

東南アジアにおいて、消費者の購買行動を劇的に変化させている企業がある。フィリピンを中心に展開する「Home Credit」だ。
日本ではクレジットカードや銀行ローンによる分割払いは、一定の収入がある大人にとって当たり前の選択肢だろう。しかし、成人の約半数が依然として銀行口座を持たないフィリピンにおいて、高額なスマートフォンや家電を現金一括で買うことは多くの人々にとって高い壁だった。
Home Creditはこの金融の空白地帯に、AIを駆使した超高速審査と店舗にスタッフを常駐させる徹底した対面戦略で攻め込み、進出からわずか10年余りで1,200万人以上の顧客を抱える巨大プラットフォームへと成長した。
本記事では、同社がどのようにしてフィリピンの経済圏に深く浸透し、日本のメガバンクをも巻き込む巨大な金融エコシステムへと進化したのか、その構造と戦略を多角的に解説する。
フィリピン消費市場のインフラ「Home Credit」
著者:フィリピンgramフェロー たこ坊
公開日:2026年 04月07日
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Home Creditとは

Home Creditは、2013年にフィリピンへ進出した消費者金融会社。元々はチェコの国際的な金融グループ(PPF Group)の傘下として設立された。
日本で例えるなら、家電量販店や専門店で利用する「ショッピングローン」を主力とする信販会社に近い存在である。しかし、フィリピンにおけるその役割は、単なる決済手段を超えた社会インフラとしての側面を持っている。
・主なサービス:スマートフォン、ノートPC、家電製品、二輪車などの購入時における分割払い融資。
・ネットワーク:全国18,000以上の提携店舗と、約10,000人のセールスエージェントを擁する。
・顧客数:2025年9月時点で、累計顧客数は1,200万人を突破。
(引用元:HOME CREDIT │ Home Credit Hits 12 Million Customers, Reinforces Leadership in Consumer Finance
https://www.homecredit.ph/stories/12-million-customers)
「銀行口座なし」を前提とした独自のビジネスモデル
フィリピン市場の最大の特徴は、成人の多くが銀行口座を持たないUnbanked層であることだ。フィリピン中央銀行(BSP)の調査では、成人の約半数が伝統的な銀行サービスから取り残されていると報告されている。
通常、銀行融資には過去の信用履歴や公的な所得証明が不可欠ですが、Home Creditはこれを必要としない。
・AIによる独自審査:銀行口座を持たない層に対し、独自のAIアルゴリズムを用いて瞬時に信用力をスコアリングする。
・スピード審査:身分証(ID)さえあれば、店舗での申し込みから承認まで最短15分から1時間程度で完了する。 この銀行に行かなくても、その場で分割払いが組めるという利便性が、中間層から低所得層に至るまで、爆発的な支持を得る要因となった。
現在、Home Creditの成長を牽引しているのがスマートフォン需要だ。フィリピンにおいて、スマホは通信手段だけでなく、モバイルマネー(GCashやMaya)を利用するための生活必需品となってる。
2024年におけるiPhoneのファイナンス実績は100億ペソだったが、2025年末には200億ペソ(約520億円)に達する見込みだと発表されていた。また、2025年8月時点のデータでは、1日平均で約5,000台のスマートフォンが同社のローンを介して販売されている。
こうした旺盛な消費を背景に、同社は2025年内には総融資残高1,000億ペソ(約2,600億円)の大台に到達する見通しを立てていたこともあり、フィリピンの消費者金融市場における圧倒的なリーダーシップを堅持している。
(引用元:BusinessWorld │ BSP to step up financial inclusion efforts
https://www.bworldonline.com/banking-finance/2025/07/18/685852/bsp-to-step-up-financial-inclusion-efforts/)
(引用元:GADGETMATCH │ Home Credit now has 12M customers, on pace to double iPhone financing
https://www.gadgetmatch.com/home-credit-million-customers-double-financing-iphone-by-the-numbers/)
(引用元:BusinessWorld │ Home Credit eyes P100-billion loan receivables this year
https://www.bworldonline.com/corporate/2025/09/12/697945/home-credit-eyes-p100-billion-loan-receivables-this-year/)
MUFGによる資本参画
2023年から2024年にかけて、Home Credit Philippinesは大きな資本構造の変化を迎えた。日本の三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)が、傘下のタイのアユタヤ銀行(Krungsri)を通じて同社を買収したのである。
・資本構成:タイのアユタヤ銀行が75%を保有し、残りの25%をMUFGおよびフィリピン中堅大手のセキュリティーバンクが保有する形へと移行した。
・戦略的意義:日本の金融グループがバックについたことで、資金調達コストの低減と、サービスに対する社会的信頼性が向上。2025年Q1には25%の株式譲渡が最終完了し、日本・タイ・フィリピンの連携による強固な金融ネットワークが形成された。
(引用元:ASIAN BANKING & FINANCE │ MUFG Bank sells 25% stake in Home Credit PH for JPY26.5b
https://asianbankingandfinance.net/lending-credit/news/mufg-bank-sells-25-stake-in-home-credit-ph-jpy265b)
デジタルシフトと将来の課題
Home Creditは現在、実店舗での融資だけでなくスーパーアプリ化を急いでいる。公共料金の支払い、映画チケットの購入、さらには「Home Credit Protect」と呼ばれる保険商品の販売など、デジタルプラットフォームとしての機能を拡張している。
一方で、課題も存在している。
・競合の台頭:Maya BankやUnoBankといったデジタル専業銀行が、より低金利な融資を提供し始めている。
・貸付基準の厳格化:フィリピン中央銀行(BSP)の最新レポートによれば、2026年Q1の金融機関の貸付基準は、インフレ等の経済不安を受け、全体的にやや厳格化する傾向が見られる。
まとめ
Home Creditは、これまで金融サービスから疎外されていた層に対し信用という価値を付与し、フィリピンの消費市場を劇的に活性化させてきた。
1,200万人という巨大な顧客データと、日本のメガバンクの資本力が融合した今、同社が今後どのように「Financial Inclusion」の枠組みを広げていくのか。その動向はフィリピン経済全体の行方を占う上で、極めて重要な指標となるだろう。






















