楽園がゴーストタウンに マレーシアの「フォレストシティ」

マレーシア

日本でも大きく報じられていますが、マレーシア最南部ジョホール州の人工島での都市開発プロジェクトである「フォレストシティ」は、開発を手掛けている中国不動産開発の大手「碧桂園」の資金繰りの悪化を受け、その完成が危ぶまれています。

開発当初からジョホールでは反対運動などがあり、物議をかもしていた大型プロジェクトが、いよいよ最終段階を迎えようとしています。

今回は、この「フォレストシティ」と合わせて、ジョホール州の「イスカンダル計画」の現状についても解説します。

楽園がゴーストタウンに マレーシアの「フォレストシティ」  

   著者:マレーシアgramフェロー Malay Dragon
公開日:2023年9月14日

フォレストシティー

シンガポールの間近にある開発区は「フォレストシティ」と呼ばれ、中国不動産開発の大手である「碧桂園」が手掛けており、総事業費1000億米ドル(約16兆円)で、20年にも及ぶ巨大事業です。

フォレストシティはイスカンダル経済特区に建設された人工島で、4つの人工島から構成されており、14平方キロメートルに高層住宅や商業施設・ホテルなどが立ち並んでいます。

ジュゴンやウミガメ、タツノオトシゴなどの絶滅危惧種の生息地にも近い抜群の自然環境に、シンガポールの後背地というビジネス的に優れた立地にあります。またフォーブス誌では、生態学的にサステナブルな都市のモデルケースとして紹介されています。

*恒大地産集団(こうだいしゅうだん、エバーグランデ): 大手不動産デベロッパー
*碧桂園(へきけいえん、カントリーガーデン) :大手不動産デベロッパー

イスカンダル計画

イスカンダル計画とは、以前この記事でも紹介しましたが、2006年からマレーシア政府が始めた大型の開発計画で、2,217平方キロと東京都とほぼ同じ面積に、付加価値の高い製造業や教育機関などを中心に誘致しました。

今や世界でも有数の高所得国であるシンガポールとの隣接エリアであるという立地を生かして、ジョホール州のGDPの約60%を占めていたこの地域の、更なる総合的な経済発展を目指したものです。

ゴーストタウン化

フォレストシティは、中国の富裕・中間層に狙いを定めた物件がそろっていましたが、コロナ禍による経済活動の停止や中国の経済の停滞が影響して、売れ行きは低調のままで、最終的に70万人を見込んでいた住民が現在はわずか9000人程度にとどまっています。

私の妻の実家がこのフォレストシティの間近にあるため、開発中からしばしば訪れ、日本やシンガポールからのお客様を案内したことがあります。コロナ前までは、コンドミニアムのセールスギャラリーには結構な人が来ていましたが、今ではほとんど人を見かけません。

もともと中国やシンガポールの富裕層を顧客に見込んでいたため、投資物件としての購入が主で、購入後に実際に住んでいる人は少なく、夜確認に行くとほとんど電灯がついていないような状況でした。島内は4車線の道路もあり、車を走らせていると寂れた感、虚しさが感じられました。

碧桂園の資金繰りの悪化

報道にあるように、現在中国の不動産デベロッパー大手である「碧桂園」は資金繰りが悪化しており、実に1960億米ドル(約29兆円超)の債務を抱え込み、デフォルト(債務不履行)が避けられないと見込まれています。

日本の報道で有名になった中国の不動産業の最王手の「恒大グループ」の負債額である約38兆円にも匹敵し、さらに恒大グループの4倍のプロジェクトを今現在抱えています。中国の経済の回復が見られない今、碧桂園がもしデフォルトに陥れば、その影響は恒大グループよりも深刻となるのではないかと見られています。

フォレストシティにも回復不可能な、決定的な影響を及ぼしそうです。

フォレストシティーを「金融特区」に指定

先日、マレーシアのアンワル首相は、フォレストシティがイスカンダル計画のお荷物になりかねないとして、金融特区に指定して特別所得税などの特典を導入する方針を発表しました。

また、現在シンガポールとの間で建設が進んでいる鉄道も、フォレストシティに駅が設置される予定でシンガポールへの通勤に期待されています。

しかし、世紀の大型プロジェクトのフォレストシティの前途は多難であると言わざるを得ないでしょう。

Malay Dragon

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マレーシア・シンガポール在住のgramフェロー 経済上から時事ネタ、現地のマナーまで幅広く執筆。

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