マレーシア首相にアンワル氏就任 

マレーシア

11月19日の総選挙では、いずれの陣営も下院の過半数の議席を獲得できませんでしたが、24日、元副首相で野党連合指導者のアンワル・イブラヒム氏(75)がマレーシアの第10代首相に就任しました。過半数を得る政党連合がなかった総選挙後の政治危機は、5日目で終息しました。
今回の記事では、この第15回総選挙について解説します。

マレーシア首相にアンワル氏就任   

   著者:マレーシアgramフェロー Malay Dragon 
公開日:2022年12月08日

多党乱立の下での総選挙

4年前の総選挙以降、マレーシアでは連立政権内の権力闘争が繰りかえされてきました。選挙を経ずに前回の総選挙で下野した旧与党連合である国民戦線(BN)が政権を担う形となっており、今回の総選挙では政権の安定性の回復が注目されていました。
解散前、下院は多くの党が乱立し、与党は4つの主な政党の連合で成り立っていたため深刻な内部対立を抱えていました。野党側もまた、希望連盟(PH)分裂の状況にあり、今回の総選挙は、BNとPN(連立与党の国民同盟)、PHの三つ巴の戦いが中心で、コロナ禍からの経済の回復以上に、政治的な安定を取り戻せるかが最大の争点となっていました。

希望連盟が最多議席を確保も

アンワル元副首相が率いる希望連盟が最多議席を確保しましたが、過半数には及ばず、マレーシアで初めてどの政党も単独過半数を獲得できないという結果になりました。
サブリ首相の与党BNは当選者が30人にとどまり、過去最悪で凋落が明らかになりました。

「時代の終わり」

以前の記事でも紹介しました9、7歳で立候補したマハティール元首相は落選しました。5人が立候補していた選挙区で野党の候補でしたが、4番目の得票にとどまり議席を失い、政界を引退しました。メディアは「時代の終わり」と伝えています。

国王が「統一政府」要請

どの政党も単独過半数の112議席を確保できず、開票後5日間にわたって連立に向けた激しい交渉を繰り広げていました。この混乱の長期化を恐れ、膠着状態を打開すべく国王が調整に出て「統一政府」の樹立を各党に求めた上で、アンワル氏を首相に選びました。 アンワル氏は会見で「統一政府はPH、BN、サラワク州の地域政党連合GPSなどで構成され、ほかの政党の参加も歓迎する」と語りました。
こうしてBNがPNなどと連立与党を構成していた前政権から、事実上の政権交代が実現しました。

2度の投獄を経験し四半世紀にわたって首相の座を目指す

アンワル氏は、学生運動を経て政界入りし、1993年にはマハティール首相(当時)のもと副首相に就任しました。首相後継の最有力候補と目されていましたが、党批判でマハティール氏との対立が悪化し失脚。その後投獄されましたが、政界に復帰し悲願の首相就任となりました。

民族融和

アンワル氏は首相就任の会見で「人種、宗教、地域を問わず、誰もが軽んじられたと思わないようにすべきだ。私の政権では誰も置き去りにしない」と述べ、多数を占めるマレー系と少数派の華人やインド系の民族との融和を訴えました。

社会の分断

どの政党連合も単独では過半数を確保できない「ハングパーラメント(宙づり議会)」となったことで社会の分断がより表面化され、「分断は和解が難しいほど深くて、不安定な政治が今後も続くだろう」と予測されています。アンワル新首相にとっては、多民族社会の融和が最優先で最も重い課題になりました。コロナでの国民の危機意識の高まりから共通意識の醸成がなされた経験を、マレーシアは必ず活かしていくだろうと感じています。

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