マレーシア 一律100リンギットの現金給付

マレーシアのアンワル首相は、生活費の高騰などに対して国民の不満が高まっていることに対応するため、成人の国民全員へ現金支給、燃料価格の引き下げを行うなどの対策を発表しました。
そこで、この支援策について詳しく紹介するとともに、マレーシア政治の特徴について深掘りします。
(引用元:マレーシア首相、全成人に現金支給へ 生活費高騰受け新対策発表 | ロイター
https://jp.reuters.com/markets/commodities/QPO3P2HPQ5NYTKYUKFAVIIBFWQ-2025-07-23/)

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著者:マレーシアgramフェロー Malay Dragon
公開日:2025年10月 1日
5つの緊急国民支援策

マレーシアのアンワル・イブラヒム首相は先日特別演説を行い、国民へ感謝を伝え、生活費の高騰などに対応するために5つの施策を行うことを発表しました。
5つの支援策は以下の通りです。
1.一律100リンギットの現金給付:
全国の18歳以上の成人約2,200万人に、100リンギット(約3,900円)を1回限り支給します。
2.ガソリン低価格化:
一般市民は1リットルあたり1.99リンギット(従来2.05リンギット)で購入が可能に。
富裕層や外国人には市場価格を適用する形で実施される予定です。
3.高速道路の通行料金据え置き:
10区間の高速道路で予定されていた値上げを見送り、政府が補填を引き受けます。
4.食料支援プログラムの拡充:
3億リンギットから6億リンギットに予算を倍増し、基本生活用品の廉価販売を支援します。
5.特別休日の追加:
今年のマレーシア・デー(9月16日・火曜日)に合わせて、9月15日(月曜日)を特別公休日とすることで国民の休息・消費促進を図ります。
経済対策を行う背景
今回緊急の支援策を決定した背景には、マレーシア経済を取り巻く環境が厳しさを増していることがあります。トランプ政権の関税政策で、マレーシアに対する税率は24%と決定され、経済活動への影響は避けられなくなっています。
また、インフレや2025年7月に施行されたサービス税の負担増への国民不満が高まり、首都クアラルンプールで1万~1.8万人規模の反発集会が発生 しています。
国民経済への影響
今回の緊急支援策は国民経済にどのような影響を与えるのでしょうか。
給付金と燃料や日用品の支援により、消費者心理が改善し消費が押し上げられる可能性、特に低・中所得層には効果はあると見られています。しかし、支出拡大は財政赤字や債務への負担となり、財政安定化計画に支障も懸念されています。
今後の展望
政府は補助金制度の抜本改革を「ターゲット補助」へと移行する計画を発表しており、9月末までに詳細が発表される予定です。正しい対象の設定と制度運営の透明化が改革成功の鍵となるでしょう。また、この支援策は国民の経済的不満を一時的に和らげる狙いはあるものの、支持回復には中長期的な成果と信頼の獲得が必要で、批判が大きくなる危険もはらんでいます。
今回の支援策とマレーシア政治の特徴
今回の支援策から、マレーシアの政治の特徴を見てみましょう。
アンワル政権はもともと「汚職の撲滅」や「財政健全化」を掲げて登場したクリーンな政権ですが、現実には物価高や国民の不満に押され、一時的な人気取り策に傾きつつあり、ポピュリズムと構造改革の間で揺れる政権運営が明らかになっています。
また、アンワル首相の率いる「希望連盟」は他党と連立を組む政権で、政権内部でも調整が常に必要です。今回も不安定な連立政権構造と支持基盤のぜい弱さがあらわになりました。
国民の支持も一枚岩ではなく、宗教的・民族的に分断された有権者層のバランスを取るため、政策も中途半端になりやすいのが特徴です。
声が政策に直接影響する“ボトムアップ型”政治
確かにマレーシア政治は不安定で場当たり的に見えるかもしれませんが、近年のマレーシアでは、反政府デモなどを通じて市民の声が政権に影響を与える例が増えています。これは市民社会が活発で、変化に柔軟に対応できる政治文化であることを示しているでしょう。
完璧な制度ではなくとも、民意と政策が“押し引き”で動いていくダイナミズムこそが、マレーシアの政治の独自性と強みでもあると言えるでしょう。