話者約100万人のレア言語「エストニア語」

エストニア

ヨーロッパの数ある言語の中でも圧倒的に話者が少なく、そもそも存在が知られているかも怪しいエストニア語。英語が十分通じる国ではあるが、エストニア語は必要なのか。学習環境についても触れていく。

話者約100万人のレア言語「エストニア語」

著者:エストニアgram fellow さえきあき
公開日:2024年1月29日

エストニア語の言語特性

エストニアの公用語はエストニア語。この言語は少し特殊で、他のヨーロッパ言語とは違うグループに属し、仲間となる言語はフィンランド語とハンガリー語くらいしかない。イタリア語やフランス語、スペイン語話者がお互いの言語を比較的早く習得できるのに対し、彼らがエストニア語を学ぼうとすると単語や文法に類似性がないため文字通りゼロからの習得することになりとても苦労する。フィンランド語と似ている単語があるので、エストニア語話者とフィンランド語話者は互いの言語を聞くとなんとなく意味が分かるらしい。

エストニア語の話者数

エストニアの人口約130万人のうち、約69%がエストニア語を母語とする。人数にして約100万人、圧倒的な多数派だ。しかし、エストニアではロシア語も広く使われており、国内の約25%の人々がロシア語を母語とする。これはソ連時代の影響によるもので、特に年配の世代にロシア語話者が多い傾向にある。これはエストニアだけの話ではなく、過去ソ連の一部であったラトビアやリトアニアにおいても同様だ。筆者の友人を見ていると、30代半ば以上は不完全ながらロシア語を少ししゃべれる・理解できるようではあるが、若い世代になるとロシア語は学校で少し習う程度だそうだ。

エストニア語が必要とされる場面

都市部で生活している分には、基本的に英語だけでコミュニケーションがとれる。銀行や役所等の窓口業務に携わっている人は流暢な英語をしゃべり、コスメショップや薬局等の店員も接客時に英語かエストニア語どちらがいいか最初にリクエストできる。荷物配送のドライバーも電話口でエストニア人でないことがわかると素早く英語に切り替えてくれる。

しかし、関わる人の年齢が高く、また都市部から離れていくにつれ、エストニア語での対応が要求される。どこの国でもそうだが、現地人とコミュニケーションをとりたい場合は現地語は必要だ。

政府による語学学習支援

エストニアに来る外国人はエストニアでの就労を目指している人も多く、その場合はビジネスレベルのエストニア語力が必要とされることもある。例えば英語だと、英語の運用能力を高めたり示したりするにはお金を払って教材を買い、TOEICや英検等を受験する必要がある。しかし、エストニアでは政府が提供する語学学習コースや教材、到達度をチェックするテストまで基本的に無料で学ぶことができる。

言語の運用能力を図る指標として「ヨーロッパ言語共通参照枠(CEFR)」というものがあり、すべての言語学習者は自分の言語運用応力をA1(勉強し始めたレベル)からC2(流暢にに読み書きできる)にあてはめることができる。このスケールのA2からC1レベルのエストニア語学習者は、運用能力証明のために政府が提供する無償のテストが受けられる。

しかし、無料で受けられることが災いして試験への緊張感がなくなり、何度も落ちては再試を受け……を繰り返す人もいる。それが問題になり、受験の際のルールが近々変わる予定だ。

これまでは試験の点数がどれだけ低くても3ヶ月程待てばまた試験を受けられたのだが、ルール改正以降は45/100点を下回った場合は半年間受験できなくなる。試験の準備、試験の実施、採点など人件費がかかるものはエストニア国民の税金によって賄われているのに、無料で受けられるのをいいことに努力しない人が一定数いるためだ。

過去には上級レベルの語学能力試験を18回受けて落ち続けた人がおり、また中級レベルの試験を11回も落ち続けた人がいるらしい。税金で賄われるサービスは全員に平等であるが、こういった問題も発生するため落としどころが難しい。

(引用元:ERR :err Estonia increases wait between language proficiency exam retakes
https://news.err.ee/1609162598/estonia-increases-wait-between-language-proficiency-exam-retakes

まとめ

滞在するだけ、生活するだけとなると英語で事足りる環境ではあるが、仕事をしようとするとやはり現地語というものは必要なスキルになってくる。政府は語学力を向上させる機会を提供してはいるが、その費用は税金から賄われているので、学習者の態度によっては如何様にも変わる可能性がある。 話者数の少ないレア言語であるが、それゆえに学習意欲を見せるとネイティブは快く教えてくれるだろう。エストニアに来る予定があるなら少しずつでも事前に学習しておくことをお勧めする。

エストニアの位置関係

さえきあき

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エストニア在住のgramフェロー 経済上から時事ネタ、現地のマナーまで幅広く執筆。

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