政府の消極的な姿勢?日本に遅れるイギリスにおける5Gの展開

北米

著者は2023年の夏、日本への一時帰国時にスマホを見て驚いた――日本では5Gに接続できる。筆者はロンドンで5Gに接続できたことがないからである。著者がイギリスで契約しているプロバイダーはメジャーな企業のうちのひとつなので、これは著者に限った問題ではないと思われる。イギリスでは5Gの普及率が低いのだ。

今回はイギリスの5Gの普及率の現状、普及が遅れている背景、今後の展望について、日本と比較しながら解説していきたい。

(引用元:Rolls-Royce :Investor Relations
https://www.rolls-royce.com/investors.aspx

(引用元:Rolls-Royce :Rolls-Royce Holdings Plc 2022 Full Year Results
https://www.rolls-royce.com/media/press-releases/2023/23-02-2023-rr-holdings-plc-2022-full-year-results.aspx

イギリスにおける5Gの展開

    著者:イギリスgram fellow 舘野和佳奈
公開日:2024年2月1日

イギリス5G普及率 68%

2023年末のイギリスの5G普及率(人口カバー率)は68%である。過半数を超えているものの、日本は96.6%という水準で、日本に比べると高い水準ではないことが分かる。さらにデータを地域別に見ると12%というところもあり、限られた地域でのみ5Gが使用可能なのだろうと考えられる。

イギリスでの5G普及率(2023年末予測値)

(引用元:Statista (2023)
https://www.statista.com/statistics/1246357/35ghz-5g-coverage-uk/#:~:text=The%20United%20Kingdom%20(UK)%20is,the%20geographical%20area%20in%20UK.

5G導入に消極的にならざるをえないイギリス政府

イギリス政府は、2020年時点で、2025年までにイギリスの85%の地域にギガビット対応のインターネットを提供する、2027年までにイギリスで5Gの人口カバー率を50%にするという目標を掲げていた。一方で日本政府は、5Gの人口カバー率について、2023年度末までに全国95%、2025年度末までに全国97%、各都道府県90%程度以上を目指していた(2021年度時点)。そもそも政府の目標設定の目線が大きく異なる。

さらに、イギリスのこの2020年度の計画は数週間以内に縮小されたという。当初計画されていた予算50億ポンド(約9,000億円)のうち25%しか利用できないこと、本計画が効果的でないことが露呈したからだという。

5Gの導入の前にある問題として、イギリスの約9%の地域はどのプロバイダーからも4Gネットワークにほとんどまたはまったくアクセスできないそうだ。「地域カバー率ではなく人口カバー率を基に設定された政府の目標は、難アクセスな地域でのモバイル通信の不具合(”ノット・スポット”)を生む可能性がる」と、政治家でジャーナリストのKnight氏は述べた。また、Honest Mobileの創業者であるAnd氏も、5G計画よりもイギリスの現在のカバレッジ問題への対処を優先するよう政府に求めていたようだ。

(引用元:総務省(2023) https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r05/html/nd253310.html

(引用元:BBC (2020) BBC (2020) https://www.bbc.co.uk/news/technology-55403099

ファーウェイを禁止したことによる追加の2年の遅れ

さらに、ファーウェイ(Huawei)に対するイギリス政府の制裁も影響をもたらした。イギリス政府は、2020年7月にセキュリティ上の観点からファーウェイの5Gネットワークからの排除を決定した。具体的な措置としては、2020年末以降に新たにファーウェイの5G機器を購入することが禁止され、2027年までに5Gネットワークからすべてのファーウェイ機器が取り除かれることとなった。この法律により、5Gの展開が少なくとも2年遅れ、最大20億ポンド(約3,600億円)の追加費用がかかると予想されている。

(引用元:Government UK (2020) https://www.gov.uk/government/news/huawei-to-be-removed-from-uk-5g-networks-by-2027

(引用元:OpenSignal (2021) https://www.opensignal.com/reports/2021/09/japan/mobile-network-experience-5g

ミリ波の活用状況

ミリ波スペクトラムは、より大きなネットワーク容量と高速な速度を解放する可能性があり、これにより人々はより高速なブロードバンド、より高品質なモバイルサービス、そして革新的な新サービスを利用することができると言われている。日本の主要なモバイルキャリアであるNTTドコモ、KDDI、ソフトバンク、楽天は、2024年初頭までに20,000以上のミリ波gNodeBsを展開する予定で、その一部はすでに展開されている。一方、イギリスではミリ波の導入はまだ初期段階にあり、通信規制当局であるOfcomは、26GHzと40GHzの帯域にわたる6GHz以上のミリ波スペクトラムを、5Gを含む新たなモバイル技術のために利用可能にすることを目指している段階だ。

(引用元:Qualcomm (2022) https://www.qualcomm.com/news/onq/2022/07/5g-mmwave-making-waves-in-japan

(引用元:5Grader (2021) https://www.5gradar.com/features/millimeter-wave-the-5g-mmwave-spectrum-explained

今後は?

2023年4月、イギリス政府は5Gイノベーションファンドとして、4,000万ポンド(約72億円)規模のファンドを立ち上げることを発表した。民間部門と公共部門における革新的な5G投資を奨励することで、イノベーションを期待しているようだ。また、イギリス政府は2Gと3Gの移動通信システムを2033年までに段階的に廃止する計画を発表しており、これにより5Gにより多くの周波数帯が割り当てられ、5Gの普及が進むことが期待されている。課題が多いイギリスの5G事情であるが、政府の新たな方針によって前向きに進んでいくかもしれない。

(引用元:Government UK (2023) https://www.gov.uk/government/news/new-investment-boosts-uks-digital-connectivity

(引用元:JETRO (2021) https://www.jetro.go.jp/biznews/2021/12/88a32a3a34967781.html

※1ポンド180円で計算

舘野和佳奈

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イギリス在住のgramフェロー 経済上から時事ネタ、現地のマナーまで幅広く執筆。

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