アイルランドの言語教育、日本語学習の需要
アイルランドの教育システムは日本と大きく違う。日本からの留学生も他の英語圏の国に比べれば少ない方なのだが、逆にアイルランドで日本語を学ぶ人は一定数いる。アイルランドの教育システムと絡めつつ、どのような層に需要があるのか見ていこう。
アイルランドの言語教育、日本語学習の需要
著者:イギリスgram fellow リリーゆりか
公開日:2024年3月19日
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アイルランドの教育システム
アイルランドの教育システムは3段階に分けられている。日本の小学校にあたるプライマリースクール(Primary School)、中学・高校にあたるセカンダリースクール(Secondary School)、そして専門学校や大学、それ以上の高等教育にあたるサードレベルエデュケーション(Third-Level Education)である。アイルランドの教育水準はヨーロッパ諸国の中でも非常に高いとされ、私立以外の学校に進学する場合は教育費用は全て国費でまかなわれている。
(引用元:Overview of the Irish education system
https://www.citizensinformation.ie/en/education/the-irish-education-system/overview-of-the-irish-education-system/#415387)
幼稚園、小学校(初等教育)
初等教育は日本の幼稚園・小学校にあたる。小学校の前には2年間、プレスクール(Pre-School)という就学前教育を受けることができる。こちらは選択制で両働きの親を持つ子どもが年々増えていることが背景にある。大体の子どもが5歳の9月に小学校(Primary School)に入学し、義務教育が始まる。6歳までは学校に通う必要はなく1年遅らせることもでき、年齢には多少ばらつきがある。小学校は日本と同じく6年間通う。ここでの言語教育はアイルランド語と英語である。アイルランドは英語がネイティブの国として知られるが、本当の母国語はアイルランド語なのだ。
義務教育は中学生で終了(中等教育前期)
中等教育は中学・高校にあたるセカンダリースクール(Secondary School)へ進学する。初めの3年間は日本の中学課程にあたり、ここで第3言語教育がスタートする。言語はヨーロッパの4大言語(ドイツ語・フランス語・イタリア語・スペイン語)からの選択制。日本と異なる教科で興味深いのは、ビジネス、ユダヤ学、テクノロジー、宗教学などであろうか。3年生の終わりにはジュニアサート(Junior Certificate)と呼ばれる中学卒業国家統一試験を受けて義務教育を卒業する。
4年生は選択制?!
高校1年生にあたる4年生の年は、トランジションイヤー(The Transition year)と呼ばれる選択制の1年である。通常のようなテストに向けた授業ではなく、将来を考えるための1年として、学校では定期テストを実施せず独特なカリキュラムを組んでいる。職業体験・ボランティア・創作活動・スポーツ・音楽活動・コンテスト・語学・演劇など、学生たちは自分の興味関心に合わせて活動する。トランジションイヤーのプログラムの一環として、日本語の授業を実施する学校はアイルランド全体で約60校ある。
(引用元:Transition Year
https://www.citizensinformation.ie/en/education/primary-and-post-primary-education/going-to-post-primary-school/transition-year/)
(引用元:Japanese | University of Limerick
https://www.ul.ie/artsoc/mlal/subjects/japanese#:~:text=Japanese%20has%20begun%20to%20be,Cert%20subject%20in%2010%20schools.)
5〜6年生(中等教育後期)と高校卒業試験
トランジションイヤーが必要ない学生は飛び級で2年間の中等教育の後期に移り、1年早く卒業することになる。トランジションイヤーを選択した学生は、その次の年から残りの2年教育を受け、セカンダリースクールを卒業する。そしてこの2年間というのは、卒業時に実施されるリービングサート(Leaving Certificate)と呼ばれる高校卒業国家統一試験への準備を行う。リービングサートはアイルランドの学生にとって非常に大切な試験で、卒業や今後の進路を大きく左右する、言わば共通一次試験のような位置付けである。進路によって科目数と必要科目は異なり、英語・アイルランド語・数学は必須、その他は選択制で合計で7科目ほど受験する学生が多い。2000年に第3言語の科目として日本語も含まれるようになった。現在はアイルランドのセカンダリースクール10校で、試験のための日本語授業が実施されている。
(引用元:our guide to subject choice for leaving certificate | News | CareersPortal.ie
https://careersportal.ie/news/our-guide-to-subject-choice-for-leaving-certificate)
高等教育における日本語
現在は5つの大学で日本語が学位として認められていて、2012年の調査では2,827人のアイルランド人が日本語を学習していると答えた。今やオンラインや語学学校などで語学学習のできる環境が身近になり、間違いなく日本語学習者は増えていると言えるだろう。
(引用元:The 12th Japanese Speech Contest in Ireland【PDF】
https://www.ie.emb-japan.go.jp/press%20release%2014-06%20no%20embargo.pdf)
日本をルーツに持つ子供達
日本をルーツに持つ子ども達は日本語教育を必要としている場合が多い。親の片方が日本人である子ども、駐在で日本から引っ越して来た子供など背景は様々である。日本語の学び方も色々であるが、多くはアイルランドに2校ある日本語補習校へ毎週土曜日通ったり、出版社などが提供する学習ツールや、日本で買ってきた問題集で自学を行うなどである。また、このような子供達は、毎年夏休みに日本へ渡航し現地の小学校や中学校へ短期間通い友達と交流したり文化を学ぶ。そのためアイルランドで生活しながらも日本の該当学年から遅れを取らないようにと熱心に日頃から日本語を勉強させる親が多い。
漫画やゲーム、アニメで学ぶ日本語は果たしてどうなのか
日本語学習者は、漫画やゲーム、アニメなどを観て日本語を真似しながら学ぶ人もいる。大人に限らずアイルランド在住の子ども達にも当てはまるが、筆者はアイルランドで様々な日本語学習者と会い、心配になったことがある。それは、日本の上下関係や言葉遣いなどの文化を知らずに漫画やゲームだけで日本語を学ぶと、日本で使った際に一歩間違えればトラブルになりうるということだ。
驚いたのは先生に向かって平気で「お前」「貴様」などと呼ぶ小学生。決して悪気はなく単に英語の「You」と捉えていると思われた。単なる言語としてではなく、日常の場面やリアルな対人関係において、文化的社会的に通用する言語を学ぶための日本語学習ツールがもう少し必要なのではないか。
日本語教育の可能性
アイルランドにおける日本語教育の需要は、日本への興味関心で勉強を始める人、試験の科目として行う人、そして生きていくために必須だから教育を受ける人など様々な観点で見てとれる。試験科目のひとつとして認知された今、積極的に授業に取り入れる教育機関が一定数あることはヨーロッパの国々の中でも珍しいだろう。また、日本政府から支給される日本の学校で使われている教科書類だけではやはり扱いにくい部分もあり、第2言語、第3言語として日本語を学ぶ学習者に向けたユニークな学習ツールが必要かもしれない。日本語学習の需要は大人だけではなく、小さな子どもから学生まで幅広いのである。
まとめ
アイルランドの教育システムや学習科目は日本と大きく異なり、高校生に該当する学年から第3言語としての日本語教育が始まる学校がある。他にも、日本に興味関心を示す大人や日本をルーツにもつ子ども達など日本語学習の需要は様々なところにある。
人間関係や言葉の選び方などはコミュニケーションの上で非常に大切であり、この文化を理解するためには、語学としての日本語学習だけではなく、日本文化や日本社会も一緒に学べるような幅広い学習の機会が期待されるのではなかろうか。
◇Wikipedia アイルランドの教育: https://ja.wikipedia.org/wiki/