アメリカで静かに広がる“ダムフォン”とは?求められるデジタルデトックス
初代iPhoneが登場してから今年で17年、最近はAppleが折りたたみ機種を開発していると報じられました。スマートフォンは現在も進化を続けており、もはや現代社会と切っても切り離せない存在です。その一方、アメリカでは密かに別のブームが起こっていることをご存じでしょうか。それは“ダムフォン”と呼ばれる、最新技術とは真逆を行く最小機能の携帯電話です。
アメリカで静かに広がる“ダムフォン”とは?求められるデジタルデトックス
著者:アメリカgram fellow 末永 恵
公開日:2024年9月17日
- 業績好調のウォルマートに見るインフレと消費者心理の変化
- アメリカで静かに広がる“ダムフォン”とは?求められるデジタルデトックス
- 広さ75,000平方フィート!アメリカのガソリンスタンドチェーン“バッキーズ”が世界最大のコンビニをオープンア
- アメリカで広がる”金曜半ドン”の新常識 | 働き方改革の先駆け
最小機能携帯電話“ダムフォン”
英語の“dumb”はバカ、アホ、まぬけ、痛い、しょぼい、ダサい、くだらない、時代遅れ、退屈など何か冴えないものを表現するワードです。“退屈な電話”であるダムフォンには、スマートフォンとは異なり非常に限られた機能しか搭載されていません。あるのは通話・テキストメッセージ・アラーム・電卓・カレンダーなどごくごくベーシックな機能のみで、機種にもよりますがメールやアプリ、WiFi接続を含めインターネットは使えないものが多いようです。ダムフォンは基本的にフィーチャーフォン・ガラケーと同じものです。ただし、近年になってあえて作られているこの最小機能携帯電話のことを、特にダムフォンと呼んでいます。
基本的にダムフォンではアプリが使えないので、ほとんどのスマホユーザーが使っているようなSNSアプリ(Facebook, Instagram, TikTokなど)やメッセージアプリ(LINE, Messenger, WhatsAppなど)は使用できません。このような機能が制限された携帯電話を一体誰が利用しているのか?それは意外にもZ世代です。
ソーシャル疲れとスマホ時代への反動
リサーチ会社Morning Consultの2024年調査によると、アメリカ人成人の10人に1人が家族の誰かがダムフォンを使用していると回答し、「今現在ダムフォンを使用している」と回答したのはZ世代が16%で最多、次いでミレニアル世代となっているそうです。またZ世代の25%がダムフォンに「興味がある」と答え、全体平均の15%を大きく上回っています。
Z世代がダムフォンを求める背景には『ソーシャル疲れ(SNS疲れ)』があると考えられています。Morning Consultのリサーチではダムフォンを購入したのは「ケータイ電話の利用を最小限にしたいから」「スクリーンタイムを制限したいから」がもっとも多い理由でした。中には「ノスタルジックを求めて」という回答もあったようですが、これも広い意味ではスマホ時代への反動といえるのかもしれません。
スマホやソーシャルメディアが広く普及し始めて20年近くが経過し、それらが人々の生活や人体に及ぼす影響も分かってきました。特にソーシャルメディアの利用によりスクリーンタイムが長くなることで、鬱や不安症、睡眠障害、自尊心の低下などさまざまなメンタルヘルスへの悪影響が指摘されています。“常に他人とつながり続ける”プレッシャーを根元から断ち切るため、ダムフォンにスイッチする『デジタルミニマリズム(Digital Minimalism)』は、ここ数年アメリカで広がりを見せています。
ダムフォン専門キャリアも登場
ダムフォンの静かなブームに伴い、付帯サービスを提供するダムフォン専門キャリアも登場し始めています。2022年創業のロサンゼルスの『Dumbwireless』は各種ダムフォン機に加え、データプランやアクセサリーを販売。オーナーのKrigbaumさんとStultsさんによると、Dumbwirelessは今年3月に7万ドル(約1千万円)分以上の商品を出荷。これは1年前の2023年3月に比べると10倍の量で、特に昨年10月頃から売上げが急増しているとのことです。
2人によると人気の機種は、アプリがほとんどないe-ink端末の”Light Phone”、昔懐かしい折りたたみ式の”Nokia 2780″、そして電卓風のスイス製端末”Punkt”だそうです。ちなみにダムフォンはバッテリーが長持ちすることでも有名で、1回の充電で数日から1週間はもつようです。
デジタルデトックスがもたらすもの
スマートフォンをヘビーに利用してきた多くの現代人にとって、ダムフォンへの切り替えは名実ともにダウングレードするようで、初めは勇気がいることかもしれません。他方、SNSを離れ誰ともつながらない時間を確保することで、趣味や仕事や勉強などのタスクに集中でき生産性がアップしたり、目の前の家族・友人との会話やオフラインのコミュニケーションを大切にすることで人間関係が充実したり、メンタルヘルスの向上など良い影響を期待することができます。
ソーシャルメディアやスマホは便利で楽しいツールですが、使い過ぎることで無意識にプレッシャーが膨らみ心身を疲弊させることになります。わかってはいても、次々に魅力的な機能が登場してくるとスクリーンタイムを自制するのはなかなか難しいかもしれません。そんな場合は思い切ってダムフォンに切り替え、デジタルデトックスしてみてはいかがでしょう。
【参考】
◇Morning Consult: There’s a Market for ‘Dumb’ Technology — And It’s Made Up of Young People:
https://pro.morningconsult.com/analysis/dumb-phone-gen-z-millennials-dumb-tech-interest-2024
◇BBC: People want ‘dumbphones’. Will companies make them?:
https://www.bbc.com/future/article/20240515-the-dumbphones-people-want-are-hard-to-find
◇KATIE COURIC MEDIA: Welcome to the “Dumbphone” Revolution:
https://katiecouric.com/health/mental-health/benefits-of-dumb-phone-instead-of-smartphone-addiction/
◇The New Yorker: The Dumbphone Boom Is Real:
https://www.newyorker.com/culture/infinite-scroll/the-dumbphone-boom-is-real
◇Opal: Why use a Dumb phone: Embracing simplicity in the Smartphone Era:
https://www.opal.so/blog/why-use-a-dumb-phone
著者: COOQIE INC. CEO 末永 恵