全面戦争直前の緊張感が増す中東海域:イラン対米国・イスラエル

アメリカ

年初、イランが韓国の民間企業のタンカーを拿捕し、韓国やインドネシアの乗組員を拘束というショッキングなニュースが世界を巡った。昨年からペルシャ湾および紅海では、米国・イスラエル対イラン・周辺国シーア勢力による緊張状態が続いおり、イラン革命防衛隊の艦船が西側諸国の商船を拿捕する事案が複数発生している。

全面戦争直前の緊張感が増す中東海域:イラン対米国・イスラエル

著者:gramマネージャー 今泉 大輔 
公開日:2021年1月13日

イランによる攻撃を事前に察知しているイスラエル

2020年1月3日にイラン革命防衛隊のガーセム・ソレイマーニー司令官が暗殺された。その1周年に当たる2021年1月初頭、報復のためにイランが米国および同盟国イスラエルを軍事攻撃する計画があると、米国やイスラエルの報道メディアが報じていた。

ソース:
Jerusalem Post: IDF spokesperson: Iranian retaliation likely to come from Iraq, Yemen
https://www.jpost.com/middle-east/idf-spokesperson-iranian-retaliation-likely-from-iraq-yemen-653308▼

2020年12月26日付のイスラエル主要紙エルサレムポストの報道によると、イラクないしイエメンの拠点から、ドローンを使ってイスラエル領土を攻撃する計画があるのだと言う。ドローンを使った武器は比較的安価であり、かつ、既存のミサイル防衛網を潜り抜けやすいため、軍事費に余裕のない勢力が拡充を急いでいる。イスラム教シーア派であるイランは、周辺国のシーア派過激派に資金を与え軍事的に支援し、イスラエルに敵対する勢力として育ててきた。イラク国内のシーア派過激派、イエメンのフーシ派、レバノンのヒズボラがその主なもの。このうち攻撃予定がキャッチされていたのはイラクのシーア派過激派、イエメンのフーシ派からのもの。
昨年1月に暗殺されたガーセム・ソレイマーニー司令官は、こうした周辺国のシーア派過激勢力を軍事的に育成する役割を担っていたとされる。すなわち、ガーセム司令官は、特にイスラエルにとっては近隣地区の軍事的脅威の育ての親だった。

暗殺1周年に当たり、イスラエルを攻撃する動きがあることに対し、イスラエルは最大限の警戒態勢を敷いている。具体的にはペルシャ湾に同国軍備としては最も高額なドルフィン級潜水艦複数を展開している。この潜水艦には核弾頭装着巡航ミサイルが搭載されているようだ。その他ペルシャ湾地域および中東全域において、近い場所でも遠い場所でもすぐに軍事行動を展開できる、とスポークスマンは述べている。

ソース:
IDF spokesperson: Iranian retaliation likely to come from Iraq, Yemen
https://www.jpost.com/middle-east/idf-spokesperson-iranian-retaliation-likely-from-iraq-yemen-653308▼

米国は戦略爆撃機B-52を本国から中東へ派遣

イスラエルの同盟国である米国もペルシャ湾岸に展開して、イランやイラン系勢力の動きを警戒している。

2020年12月10日頃には米国ルイジアナ州の空軍基地から、米国の最大級爆撃機B-52Hが中東に向けて飛び立った。B-52Hには通常弾頭および核弾頭装着の巡行ミサイルが搭載されている。このため、いざイランないしイラン系勢力によるイスラエル攻撃があったとすれば、瞬時に反撃できる。B-52Hの中東空域飛行はイランにとって強力な牽制となる。

ソース:
NBC News: U.S. flew two bombers from Louisiana over the Persian Gulf to deter Iran, says military
https://www.nbcnews.com/politics/national-security/u-s-flew-two-bombers-louisiana-over-persian-gulf-deter-n1250682▼

しかし、イランも静観している訳ではなく、12月20日にはイラクの首都バグダッドの米国大使館地域に対してロケット砲による攻撃を行った。死者は出なかったものの、8発は大使館敷地に落ちた。

ソース:
AP News: Iraqi army, 8 rockets target US Embassy in Baghdad
https://apnews.com/article/iran-middle-east-baghdad-iraq-qassim-soleimani-90fd5a96e2fa0fdd08c7dbd3f362d467▼

この挑発に対抗する意思を見せるためか、12月30日頃には米国北ダコタ州の空軍基地からB-52複数が飛び立った。このB-52はB-52H Stratofortressと見られる。世界最大の戦略核爆撃機であり、イランから万一核ミサイルがイスラエルに飛んだ際には、瞬時にイランの全拠点を壊滅させる能力を持つ。

ソース:
Politico: U.S. bomber mission over Persian Gulf aimed at cautioning Iran
https://www.politico.com/news/2020/12/30/bomber-mission-persian-gulf-iran-452349▼

イランによる民間商船攻撃を牽制する米国海軍

米国空軍だけでなく、米国海軍もこの地域での戦略行動を活発化させている。
12月21日にはホルムズ海峡で米国海軍が誇る世界最大のオハイオ級原子力潜水艦Georgiaの航行が確認された。これには世界最多の核弾頭装着ミサイルを搭載できる。これがペルシャ湾を航行していることは、米国の本気度を示すものと受け止められている。イランに対する牽制力は極めて大きい。
Georgiaにはミサイル巡洋艦Port RoyalとPhilippine Seaの2隻が護衛として同行した。これら3隻に搭載されている巡航ミサイルの合計は400近くになり、これは他国の海軍が持つ巡航ミサイルの数と比べるとどの国よりも多い。

ペルシャ湾では、イラン革命防衛隊の艦船が西側諸国の商船を拿捕する事案が複数発生している。1月4日にはイランが韓国の民間企業のタンカーを拿捕し、韓国やインドネシアの乗組員を拘束した。これは戦争への備えがない丸腰の商船が、軍事目的のイランによって航行を邪魔されたと言うことを意味する。

イラン革命防衛隊の艦船による民間商船の襲撃は相次いでおり、米国海軍協会(US Naval Institute)の報道メディアUSNI News2021年1月6日記事は以下を伝えている。2020年12月31日にはリベリア船籍のタンカーPolaに船舶を破壊する水雷が仕掛けられていることが判明した。水雷は船底に磁力などで吸着密着させ、時限ないし遠隔操作で爆発させる。

ソース:
Spate of Attacks on Ships In Middle East Points to Iran-Backed Group
https://news.usni.org/2021/01/06/spate-of-attacks-on-ships-in-middle-east-points-to-iran-backed-group▼

この海域を通過する民間商船は、イランによる爆発物を仕掛けたドローン・ボート、水雷(時限・遠隔操作で爆発)、機雷(水面に浮いていて接触すると爆発)による攻撃のリスクを抱えており、無視できない状況だ。

ペルシャ湾だけでなく、紅海においても2020年12月25日にタンカーが機雷で攻撃される事案が発生した。それに先立つ11月25日には、タンカーAgrariがサウジアラビアのShuqaiqにおいて水雷で攻撃された。12月14日にはシンガポール船籍のBW Rhineがサウジアラビアの港において、爆発物を仕掛けたドローン・ボートにより攻撃されている。これらはイエメンのフーシ派が主導していると見られている。

米国海軍は、オハイオ級原子力潜水艦Georgiaだけでなく、空母Nimitzを中東海域に派遣した。

このように、ペルシャ湾および紅海では、米国・イスラエル対イラン・周辺国シーア勢力による全面戦争直前の緊張状態が続いている。


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