マレーシア:外国人もEPF拠出義務化へ

2025年10月、マレーシアに暮らす外国人労働者にとって、大きな制度の転換点が訪れました。雇用者(会社)と非マレーシア国籍の被雇用者がそれぞれ2%ずつ、合計4%をEPF(雇員積立基金/KWSP)に拠出する義務が始まりました。これまで市民・永住者のみが対象だった強制貯蓄制度が、ついに外国人にも広がった形で、各方面に大きな影響を与えています。
今回の記事では、この制度について深掘りします。
(引用元:外国人の従業員積立基金(EPF)加入、10月から2%拠出開始(マレーシア) | ビジネス短信 ―ジェトロの海外ニュース – ジェトロ
https://www.jetro.go.jp/biznews/2025/07/1a234814c93f803c.html)

マレーシア:外国人もEPF拠出義務化へ
著者:マレーシアgramフェロー Malay Dragon
公開日:2025年11月25日
制度改正の背景

今回の改正は2025年施行のEPF法改正に基づきます。マレーシア政府は近年、労働者保護の範囲を広げる方向を打ち出しており、すでに労災補償(SOCSO)は外国人も義務対象となっていました。EPFもこれに続く動きであり、国際的な労働基準への整合、そして社会保障の底上げを狙っています。
従来、外国人は任意加入にとどまり、長期的な資産形成には向いていませんでしたが、200万人を超える規模に膨らんだ外国人労働力を前に、政府としても「最低限のセーフティーネット」を与えるべきとの判断に至ったとされています。
実務のポイント
10月分の賃金から適用され、納付期限は11月15日までと定められています。対象は有効な就労パス保持者全般、ただし家事労働者は除外されています。永住権保持者は従来通り市民と同率(雇用主12〜13%+本人11%)で、今回の2%制度は関係しません。
計算方法はシンプルで、例えば月給2,000リンギットなら、雇用主40リンギット・本人40リンギット、合計で80リンギットを積み立てることになります。企業にとっては外国人比率の高い業種で負担増が無視できない規模になると見られています。製造や建設の現場では、数千人単位の外国人を抱えるケースも珍しくなく、人件費に上乗せされるコストは相応に重いと推測されています。
社会と経済へのインパクト
労働者本人にとっては手取りが減る一方で、毎年5%前後の配当が期待できるEPF口座が持てるのは大きいでしょう。帰国時に確実に引き出せる仕組みが整えば「強制貯蓄」としての意味もあるでしょう。給与明細に新たな控除項目が増えることで、雇用主と労働者の間で説明責任も求められ、現場では混乱が生じています。
経済全体では、賃金の一部が強制的に国内で留まり、巨大ファンドであるEPFの資金力が厚みを増すと考えられます。結果として国内投資の原資強化にもつながりうるでしょう。逆に言えば、低賃金セクターの企業は利益率がさらに圧縮され、値上げや人員調整を迫られる可能性もあります。
日本人社会への影響
日本人駐在員や現地採用者にとっても決して無関係ではありません。特に現地採用の方は、10月から給与から2%が天引きされます。契約時に「手取り額保証」をうたっている場合、企業側が支給額をアップして負担を肩代わりするかどうかで労使の調整が必要になるでしょう。
また、給与を伴う取締役も拠出義務が生じます。純粋な役員報酬と給与の線引きをどう扱うか、企業は実務上の判断を迫られています。私自身、クアラルンプールで日系企業に関わる知人から『給与明細の設定を急いで直した』との話を耳にしています。小さな数字とはいえ、実務の現場では慌ただしい動きが広がっています。
どのように制度運営を行うかがカギ
多くの日本人や外国人の友人から『給与明細にSOCSOに続きEPFが加わった』との声を聞いています。たった数%でも、自分の将来や社会保障を考えるきっかけになるのは確かです。強制貯蓄が「搾取」ではなく「安心」として受け止められるかどうかは、制度の運用と周知の仕方にかかっていると感じられます。
多くの外国人にとっての2%は、決して大きな数字ではないでしょう。しかし”ゼロから始める社会保障”という意味では歴史的な一歩です。社会の変化を肌で感じる今、この国の多文化社会で暮らす我々も、制度とどう向き合うかを考える時期に来ているのでしょう。


















