マレーシア保健省、VAPE全面禁止へ

マレーシア

クアラルンプールの街角を歩いていると、かつてはどこにでもあった小さなVAPE(電子タバコ)ショップの看板が最近少しずつ姿を消していることに気づきます。保健省(MOH)が発表した「VAPEの段階的全面禁止」方針が、いよいよ現実味を帯びてきました。

そこで今回の記事では旅行者にも影響が出そうなVAPE、電子タバコに関する規制について解説します。

(引用元:Dzulkefly: MOH targets e-cigarette, vape ban by next year | Malay Mail
https://www.malaymail.com/news/malaysia/2025/09/25/dzulkefly-moh-targets-e-cigarette-vape-ban-by-next-year/192379

マレーシア保健省、VAPE全面禁止へ

   著者:マレーシアgramフェロー Malay Dragon
公開日:2025年11月21日

2026年には全面禁止へ

2025年9月下旬、アフマド保健相は『2026年半ばを目途に販売と使用を禁止する』と表明しました。まずはリキッド補充型のオープンシステムから先行禁止し、その後すべてのタイプに広げていく段取りです。すでに昨年施行された「喫煙製品公衆衛生法」では、公共施設や飲食店など28区分の非喫煙場所での使用が禁じられており、違反者には罰金が科されています。つまり法的な基盤は整い、残るは全面禁止に向けた“最後の一押し”だけの状態です。

背景にあるのは若年層利用の拡大

なぜここまで踏み込むのでしょうか。その最大の理由は未成年利用の急増にあります。2022年の全国健康調査で、13~17歳の14.9%が電子タバコを使用していると報告されています。その数は成人の喫煙者数約520万人の20.9%に上ります。電子タバコの入手が容易になっている状況は、保健省にとって公衆衛生上の大きな問題です。電子タバコによる肺障害の報告や薬物混入事例も増加していて、対策が必要とされています。

私自身、クアラルンプールのコーヒーショップで学生風の若者が白い蒸気を吐く光景を何度も見てきました。周囲の客が顔をしかめる一方で、本人は無頓着。その温度差に、社会全体の受容度と健康リスクのかい離を常に実感しています。

経済への影響は小さくない

もちろん規制は経済への打撃を伴います。業界調査によれば、2023年の小売市場規模は約34億リンギット(1,000億円超)で、専門店は全国で2,500店を超えます。雇用は3万人以上ともされ、全面禁止となれば小売業や周辺の物流・広告まで影響は避けられないでしょう。業界団体は「ブラックマーケットの温床になる」と警鐘を鳴らしていますが、保健省は税制強化や密売取締りで対応する構えです。

数年前にVAPEショップを開業した若者が、コーヒーの香りと甘いリキッドの匂いが漂う店で繁盛していましたが、今年に入って「先が見えない」と閉店を決めたとの話も聞きます。新規参入の勢いが落ちる一方、既存店舗は“嵐の前の静けさ”を感じているようです。

周辺国と旅行者への注意

規制は国境を越えても影響を及ぼすでしょう。隣国シンガポールではすでに電子タバコは全面禁止で、2025年9月からは罰則がさらに強化されています。所持だけでも高額の罰金が科され、販売や密輸となれば最長20年の禁錮刑まであり得る厳しさです。マレーシアで吸っていたVAPEをそのまま持ち込めば、観光客でも摘発される可能性があります。

日本についていうと、国内ではニコチン入りのリキッドは販売禁止ですが、個人使用目的の輸入は120mlまで認められています。ただし販売や譲渡は違法であり、空港の税関で没収される例もあります。旅行者にとっては「持ち込まないのが一番安全」というのが実際のところでしょう。

宗教的背景も

マレーシアは段階的に「VAPEを使わせない社会」へと舵を切りました。しかし実際には地下市場の存在や、禁煙の成功体験を持たない若者層がどう行動するかは未知数です。

この国で長く暮らす中で、アルコールやギャンブルの規制と同じく、文化的・宗教的背景が政策を強く後押ししていることを感じます。今回の決定は健康政策であると同時に、社会の価値観を映し出す鏡でもあるのです。

旅行者にとっては少し厄介な変化かもしれませんが、「郷に入っては郷に従え」です。マレーシア滞在中はVAPEを控え、代わりに街角のテ・タリでも楽しんでみてほしいと思います。法規制をきっかけに、人と人が煙のない空間で語り合う文化が根づけば、それは新しいマレーシアの魅力のひとつになるでしょう。

Malay Dragon

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マレーシア・シンガポール在住のgramフェロー 経済上から時事ネタ、現地のマナーまで幅広く執筆。

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