チャンギ空港  第5ターミナル建設開始 

シンガポール

5月14日、シンガポールのチャンギ空港が第5ターミナルの建設を開始しました。

チャンギ空港は国際旅客数で世界4位ですが、コロナ禍から回復しているアジアでの航空旅行の増加を取り込むために拡張工事を行います。

今回の記事では、シンガポールの空港戦略について再び取り上げて深掘りしようと思います。

シャンギ空港  第5ターミナル建設開始  

   著者:シンガポールgramフェロー Malay Dragon 
公開日:2025年 7月28日

「メガ空港」の仲間入り

新しい第5ターミナルは、第1ターミナルから第4ターミナルまでを合わせた規模に匹敵する大きさとなります。新ターミナルの完成により、チャンギ空港は、現在の9,000万人から55%以上増加して、年間1億4,000万人の旅客に対応できるようになります。

年間1億人以上の旅客を扱える「メガ空港」の仲間入りを果たし、主要なハブ空港としての地位を確固たるものにすることになります。

2030年代半ばに開業予定

第5ターミナルは2030年代半ばに開業予定です。ウォン首相は起工式に出席し、2030年代半ばまでに、現在の約170都市から200以上の都市とシンガポールを結ぶことを目指していると語りました。

また、新たな3本目の滑走路も2027年第4四半期に運用を開始する予定で、新ターミナルの完成前には、取扱旅客数に関する課題は解決されることになります。

国家戦略としての空港

シンガポール経済において、空港の役割は「インフラ」ではなく「成長装置」として位置づけられていて、国家的戦略を具現化しています。

● 雇用創出と波及効果
新ターミナルの建設・運営により、建設業、観光、航空、サービスなど非常に広範囲な分野で、数万人規模の直接・間接の雇用が創出されると見られています。特に新ターミナルではスマート空港技術が導入されるため、高付加価値人材の需要が高まるでしょう。

● 経済収益の拡大
現在のチャンギ空港は年間9,000万人の旅客処理能力で、すでに限界が近い状況です。新ターミナルの完成により旅客処理能力が拡大するだけでななく、旅客による支出や航空貨物による取引規模が大幅に拡大することが期待されています。

● ハブ経済の強化
シンガポールには資源がなく、人・モノ・情報・資本が行き交う“通過点”としての価値が国の経済基盤となっています。チャンギ空港はその象徴であり、その機能をさらに強化するものです。

地政学的優位性を最大化

シンガポールの空港戦略には、他国にはない緻密なビジョンと実行力があります。

● 地理的優位を活かした「乗り換え特化型戦略」
シンガポールはアジアの中心に位置し、インド、オーストラリア、東南アジア、中国、ヨーロッパをつなぐ”交差点”にあります。この特性を最大限に活かし、新ターミナルでは、乗り換えのしやすさ、効率的な動線設計、短時間乗り換えを徹底的に追求しています。

● ハブ競争で勝ち抜くための戦略
新ターミナル完成後は、世界中の200都市以上との直行便が就航します。韓国の仁川空港や香港国際空港、ドーハのハマド空港とのアジアにおけるハブ競争に勝ち抜くための明確な戦略です。

● 空港=エンターテインメント施設
チャンギ空港は、隣接するモール「ジュエル」などを擁し、”空港で過ごす時間そのものを目的化する”という独自のモデルを構築しています。新ターミナルでもこれを受け継ぎ、旅行者だけでなく、地元住民にとっても訪れたくなる空間として設計されています。

経済的なハブ

チャンギ空港の新ターミナルの建設は、シンガポールにとって「経済安全保障」そのものであり、未来の経済圏をデザインする国家プロジェクトです。

単なるインフラ整備にとどまらず、国家戦略、都市開発、地域経済圏との連携という観点からも、アジアの未来を導く一手として、大きな意味を持ちます。

Malay Dragon

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マレーシア・シンガポール在住のgramフェロー 経済上から時事ネタ、現地のマナーまで幅広く執筆。

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