シンガポールの外食産業 輝き失い赤字化

シンガポールで外食産業は輝きを失い、一部の上場食品や飲料企業は需要の減少とコストの高騰で赤字に陥っているというニュースが現地の新聞で紹介されました。
2024年には3,047の飲食店が閉店し、過去20年で最も多い水準となっています。
国民の生活にも大きな影響を与えかねない大きな転換期となりそうです。詳しく見てきましょう。
シンガポールの外食産業 輝き失い赤字化
著者:シンガポールgramフェロー Malay Dragon
公開日:2025年 9月17日
名店や日系の店も

ここ最近、シンガポールでは毎週のようにレストランの閉店に関するニュースが報じられています。ミシュランの星を獲得した名店からセレブ御用達のトレンド店、大手企業も苦境に立たされていて、味千ラーメンや麺屋武蔵などのブランドを展開している「ジャパン・フーズ・ホールディングス」も2024年度に損失を計上しています。
新規開業は3,791社
一方で、2024年には3,791社が新規開業をしていて、新規開業の純増数も過去数年では2番目に高い記録となっています。
飲食業界の開店と閉店は市場の自然な流れを表しているようで、2024年の閉店の波は過去数年間の過剰な拡大を反映していると考えられます。これは、飲食業界が差別化をほとんど図らずに急速に拡大し、日本食レストランなどの比較的人気を集めやすい店舗に集中したことが原因と見られています。
なぜ「外食の輝き」は失われつつあるのか?
理由には以下のようなことが考えられます。
2024年に入り、シンガポールの飲食業界は原材料の価格上昇、人件費の高騰、さらには家賃や光熱費の値上がりといった複合的なコストの増加に直面しました。これは業界全体の収益構造を圧迫する深刻な問題となっています。
一方、消費者側の意識も変化しています。新型コロナウイルス流行時の巣ごもり需要で高まった外食の魅力は、コロナ禍後には徐々に冷め、旅行や物品の購入へと関心が移行しつつあります。こうした中、価格への敏感さが一層高まり、高価格帯の飲食店を避ける傾向が強まっています。
飲食業はシンガポールにとって何か?
シンガポールにおける飲食業の存在は、国家の文化、雇用、イノベーションの中枢として重要な役割を担っています。
観光や国家のブランディングの観点では、ホーカーセンターや多民族料理の豊かさは、シンガポールを訪れる外国人にとっての大きな魅力のひとつです。屋台料理文化は2020年にユネスコ無形文化遺産に登録され、政府主導で保存と振興が図られており、国際的にも評価されています。
また、飲食業は国民の生活基盤でもあり、膨大な雇用を生み出しています。シンガポールの飲食業市場は2023年時点で約207億シンガポールドル(約2兆3,000億円)規模に達しており、今後も増大が予測されています。
社会・経済への影響
飲食業界の混乱は、シンガポール社会と経済全体に多方面で影響を及ぼしています。
雇用面では、飲食業は非正規雇用の比率が非常に高く、閉店が相次ぐことでこれらの労働者が職を失い、再就職のチャンスもなくなるという負のスパイラルが懸念されています。
消費者行動の変化も顕著です。物価上昇の中で消費者は支出に対してより敏感になり、レストランなどでの外食を控え、より安価な選択肢であるホーカーセンター(屋台街)やフードデリバリーサービスにシフトしています。特に若年層や中低所得層ではこの動きが加速しており、全体として外食支出の抑制傾向が続いています。
食文化の危機
シンガポールのホーカー文化は、ユネスコの無形文化遺産にも登録された、国際的に認められた食文化です。この文化は単なる食事の場というだけでなく、世代や民族を超えて人々が交わる“社交の場”としての機能を果たしてきました。もしこの屋台文化が経済的理由で衰退することになれば、シンガポールが誇る”食の都”としてのアイデンティティにも影を落とすことになりかねません。