「世界最短の国際列車」がなくなるかも?
前回の記事で紹介した、シンガポールとマレーシアのジョホール・バル間を結んでいる「世界最短の国際列車」ですが、実は今、存続の危機を迎えようとしています。
今回は、現在シンガポール・マレーシア間で進んでいる各種の鉄道計画について、その進捗具合などを含めて改めて紹介したいと思います。
「世界最短の国際列車」がなくなるかも?
著者:シンガポールgramフェロー Malay Dragon
公開日:2024年 6月28日
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幅わずか1㎞の海峡
シンガポールとジョホール・バルの間にあるジョホール海峡は、幅は1㎞程度しかなく海峡というよりは川のような感じです。これを挟んで、シンガポールとマレーシア両国が向かい合っています。
両国間は2つある橋で結ばれていて、毎日夜明け前から通勤のための車やバス、野菜やフルーツなどを運ぶトラックで大渋滞です。
シンガポールの生活を支える
毎日40万人以上の人々が2つの橋を往来しており、これらの人々や物資がシンガポールの人々の日々の生活と経済を支えていると言っても過言ではありません。
コスト競争力で課題があるシンガポールにとってジョホール・バルは製造の代替地として欠くことできないエリアです。また、ジョホール・バルにとってもシンガポール相手の貿易がジョホール州のGDPの多くを占めていて、お互いが補完しあい、一緒に協力的に経済発展をしていく運命にあるのです。
さまざまな鉄道計画
以前の記事でも紹介したように、現在シンガポールとマレーシア間、また、シンガポールとジョホール・バル間ではさまざまな鉄道の計画が進んでいます。
まず、シンガポールとジョホール・バル間で高速輸送システム(RTS)の建設工事がすすめられていて、すでに5割以上完成していて、予定どおり2026年の年末までに完成、運行する見通しです。
シンガポールとクアラルンプールとを結ぶ高速鉄道プロジェクト(HSR)も復活しており、日本企業の参画はなりませんでしたが、紆余曲折を経て計画が進められています。
LRT(ライトレールトランジット)案
マレーシア鉄道産業公社の社長が、先ごろ、ジョホール・バルが主要都市として発展していくためには、近代的かつ効率的な鉄道システムが必要である、と述べました。
ジョホール・バルの交通渋滞はすでに慢性化してしまっていて、道路を増強するような取り組みでは解決することは難しく、LRTのようなシステムが渋滞解消を抜本的に解決する方法になりうるとも述べています。
LRTは、上記のRTSやHSRと接続することで、道路の利用者に完全な代替手段を提供することができ、相互補完効果が期待できるとしています。
ジョホール州の首相からは、ART(高架式の連節バス)システムの導入が提案されており、路面電車(トラム)方式ではすでに実証実験済みです。
存続の危機
これらの鉄道計画が実施されていくことで、ジョホール・バルに、シンガポールから1時間で行き来ができる都市圏が形成され、より便利になっていくことでしょう。
RTSやLRTの完成により、現行のスタイルでのマレーシアの鉄道のシンガポール乗り入れは打ち切られる公算が高くなっています。
今のうちにこの「世界最短の国際列車」を経験しておく方がいいでしょう。
これらの鉄道計画が実行されることでシンガポールとジョホール・バルが補完しあい、この経済圏はさらなる経済発展を遂げ、ASEANの加盟国や日本にさえも多くの変化をもたらすでしょう。