海外の投資対象企業のデューデリジェンスとは(1)事例:電力事業会社(架空)の場合
デューデリジェンス(以下デューデリ)とは、日本の機関投資家や事業会社が海外の特定の企業を投資対象として選定した後、そこへの現実的な投資を検討していく際に、その企業が本当に投資に値するのか、現在ないし将来にわたる企業価値が本当に投資金額に見合ったものであるのかどうかを検証するために行う、第一に様々な項目の調査、第二に企業価値の算出作業を言う。
著者:gramマネージャー 今泉 大輔
公開日:2021年4月19日
事例:ミャンマーの電力事業会社(架空)の場合
デューデリジェンスとは
第一の様々な項目の調査も、一言で言えば、その企業の売上を成立させている主たる要因を見極めるためのものであり、その企業が存在している市場の特性により、業種業態の特性により、商品・サービスの特性により、売上に大きな影響を与えている要因も大きく異なってくる。従って、一概に、何を深く調べれば良いのかは、その企業の周辺状況をよく確認した上でないと判断できない。
第二の企業価値の算出作業は、毎年度ないし毎四半期ないし毎月のフリーキャッシュフロー(FCF)を推計するための、売上の推計、費用の推計、その他のFCFに影響を与える要素の推計ということになる。この中でも特に重要なのは売上の推計である。日本に同様の業種業態がある場合、売上の推計は比較的容易である。一方で、日本に例がないビジネスモデルの企業である場合、その売上を成り立たせている種々の要因の分析から始めないと、現在の売上が適正なものであるのかどうかすら判断できない。また、将来において売上が増大する可能性があるのかどうかがわからない。すなわち、第一の様々な項目の調査から得られる情報が売上の推計に不可欠となる。
ミャンマーの電力事業会社(架空)の場合
比較的わかりやすい例で言えば、東南アジアのミャンマーで発電事業を行なっている企業Zの毎年の売電売上が約630億チャット、日本円で50億円相当である場合、この売上が多いのかどうか、適正なのかどうか、この売電売上が将来において伸びる可能性があるのかどうか。これはミャンマーの発電市場および売電市場のことをよく調べてみないと判断できない。
例えば、同国の発電市場において、発電規模の異なる発電会社が3社あるとし、それぞれ発電市場における(同国の総発電量における)シェアが次のとおりであるとする。なお、投資対象はZ社
民間X社:シェア35%
民間Y社:シェア15%
民間Z社:シェア25%(投資検討中)
(国営W社:シェア25%)
Z社のシェアが今後拡大する余地があるのかどうか。また、同国の発電需要が今後伸びて、業界のパイ自体が拡大する可能性があるのかどうか。X社やY社の事業拡大方針も含めて確認しながら、妥当と思われる今後のシナリオをいくつか用意して吟味していかなければならない。
仮に、現在は一番小さなY社が、資金調達の方策に長けており、今後10年の間に新規の発電所を数カ所、売電売上で年間200億円規模の発電所新設計画を持っていることが判明したとする。とすれば、投資対象Z社のシェアは大きな影響を受ける。Y社のシェア拡大によってZ社のシェアは縮小するのか。あるいは、ミャンマーの電力需要が大きく伸びていくため、Y社とともにZ社の売上も拡大していくのかどうか。そのようなダイナミックに変化する市場の全体像を正しく理解して、妥当なシナリオを2〜3本作成し、シェアの数字として、売電売上推計の数字として、落とし込んでいく必要がある。
そうした現実味のある数字を得るには、市場のいくつかの要素を細かく調べる必要がある。電力制度の特徴や規制、全国規模の送電網の特徴、電力需要を成り立たせている要素(家電の普及率、今後の普及率の伸びの可能性など)、X社とY社の経営戦略と売電マーケティング戦術、各社の料金体系、電源別の比率、再生可能エネルギーの取り組み状況(官民)などなど。
こうしたことを調べた上で分析していくと、投資対象Z社の年間売上50億円が多いのか少ないのか、将来において伸びる可能性があるのかどうか、などが見えてくる。
むすびに
諸外国には、日本にいてはまったく理解できない収益機会や市場の成長可能性がある。様々な国の企業活動を知ると、むしろ日本の企業活動の方が特殊であることもわかってくる。
例えば、一つの業界に同じ事業モデル、同規模の売上の企業が複数存在しており、各社仲良く並存している状況などは、きわめて日本的だ。製造業の大企業が企業グループを構成し、多種多様な業種業態の子会社群がぶら下がっている図式も、他国ではあまり見られない(これは江戸時代の「藩」の経営発想が根幹にあると思われる)。
そうした日本的な発想の下で、海外に投資対象となる企業を見つけ、その企業活動を理解していくには、経済活動のカルチャーギャップに気づき、それを乗り越えて理解を深めていく必要がある。
そのためには諸々の項目の調査が不可欠となる。