音声メディア 市場規模が拡大!中国 音声メディアを徹底的に解説!

ビジネスコラム

アメリカの企業が開発した音声SNSスマホアプリClubhouseは、最近世界中から注目を集め、2021年1月23日よりベータ版が日本で運用されて以来、一気に話題になり、関連ワードが連日Twitterのトレンドに入るほど盛り上がりを見せた。
オンラインで音声コンテンツを配信する音声メディア・サービスが多く現れてきていますが、日本ではインターネットラジオ以外はまだ広く認知されていないのが事実です。この度日本でも大ヒットしたClubhouseを含め、実際に海外では多種多様な音声メディア・サービスが展開していて、愛用されています。

今回のコラムでは、アメリカよりも利用率の高い国である中国における音声メディア・サービスを徹底的に解説します。

中国の音声メディア・サービスを徹底的に解説!

音声メディアの定義と種類

音声メディアは文字通り、音声で配信するメディアのことを指します。
電波を介した従来のラジオや音楽配信サービスを想像されるかもしれませんが、今回ご紹介するのは、音楽配信サービスを除き、インターネットを介して音声コンテンツを配信するメディア・サービスです(以下に「音声メディア」)。日本で最も知られているのはradikoなどのインターネットラジオでしょう。実はそれ以外にも種類があり、基本的に以下の5種類に分けられます。

インターネットラジオ

文字通り、ラジオ局がFMではなくインターネットを介してラジオを配信することを指します。パソコンやスマホで簡単に聴くことができ、無料コンテンツも多いため、近年は従来のラジオより多く利用されています。しかし形式的に従来のラジオと変わらないため、配信側の制作コストが高く、聞き手とその場でのコミュニケーションもほとんどなく、コンテンツを一方的に配信します。代表的なサービスはradikoやTOKYO FMです。

オーディオブック

本の朗読を音声で楽しめるサービスです。著作権などの関係もあり、配信側の制作コストが比較的高いです。そのため無料で利用できるコンテンツは多くありません。日本で有名なのはアマゾンのオーディオブックサービスAudibleやaudiobook.jpが挙げられます。

ポッドキャスト

ポッドキャストは、アップル社のメディアプレイヤーiPod(アイポッド)と、「放送」を意味するbroadcast(ブロードキャスト)を組み合わせた造語です。Webサーバ上に音声データをアップロードし、RSS(各種のウェブサイト情報を配信するための文書フォーマットの総称)を通してウェブサイトに公開することを指します。一言でいえば、「音声のみの番組」です。インターネットラジオとオーディオブックと同様にコメント欄のないことが一般的で、一方的な配信です。Apple PodcastやGoogle Podcastが最も有名で、ウェブサイトとアプリケーションで聞くことができます。

音声SNS

文字通り、音声で発信するSNSのことを指します。最近話題になっているClubhouseがその代表です。Clubhouseは文字・画像系SNSのような「投稿」ではなく、ライブ配信を中心に展開し、リアルタイム性が強いです。従来のSNSのイメージから少し離れた、音声のみのライブ配信アプリと言えばわかりやすいでしょう。Clubhouse以外に韓国のSpoonが挙げられます。

音声配信プラットフォーム

個人や企業が音声コンテンツを収録し、プラットフォーム内で配信するサービスです。場合により上述したポッドキャスト、オーディオブックやライブ配信などのすべての機能に対応するプラットフォームもあります。個人も簡単にコンテンツを作り、配信することが可能で、制作コストも比較的低く、誰でも配信側になることができます。コメント欄があるのが一般的なため、聞き手とのコミュニケーションも取れます。代表的なのは日本のRadiotalkや中国のHimalayaです。

国内外における音声メディア事情

アメリカの調査会社Global Web Indexのデータによると、2018年の世界各国における「毎月ポッドキャストを聞いているユーザーの割合」は図1に示されている通りです。データのある国のうち、カナダにおける利用率が最も高く、総人口の36%が毎月ポッドキャストを利用しています。2位と3位はそれぞれ中国の29%とアメリカの26%です。それに対して、わずか8%の日本人が毎月ポッドキャストを聞いていて、データのある国では最下位です。
ここでは日本国内やアメリカの音声市場に簡単に触れ、バリエーション豊富な中国の音声市場を詳しくご紹介します。


【図1】月に一回以上ポッドキャストを聞く人口の割合
https://s3.amazonaws.com/media.mediapost.com/uploads/MagnaPodcastingReport2019.pdf

日本国内

総務省の調査によると、2018年の日本コンテンツ市場において、音声系ソフトは全体のわずか6.4%を占めていて(図2参照)、2014年からほとんど成長していません。そのうち主要となるのは音楽ソフト(5,703億円、音楽ソフトの約75%)とラジオ番組(1,793億円、音楽ソフトの約24%)で、ポッドキャストなどのようなネットオリジナルコンテンツは75億円と、音楽ソフト全体の1%にすぎません。


【図2】2018年日本コンテンツ市場の内訳
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r02/pdf/n5100000.pdf

アメリカ

Edison Researchの調査データによると、アメリカにおけるポッドキャスト利用人数は2006年から右肩上がりで、2019年に12歳以上人口の51%である1.44億人がポッドキャストを利用したことがあります。その中の0.9億人が毎月ポッドキャストを聞いていて、12歳以上人口の約31%を占めています。

中国

中国における音声市場は20世紀末から発展してきました。1997年に初めてラジオをオンライン化にする企業が出現し、2004年になると中国初のポッドキャストが現れました。2011年からインターネットの普及により、音声配信プラットフォームが続々とサービスを開始し、現在中国の音声市場を牛耳っているプラットフォームは全てこの時期に創立されました。2015年からはユーザー数が成長し、各プラットフォームの特徴や特色、そしてユーザー層が確定されてきました。

中国の音声配信プラットフォームはコンテンツのソースによって二種類に分けられます。個人ユーザーの投稿がメインのUGC(User-generated Content)と、プロ制作チームが作ったコンテンツがメインのPGC(Professionally-generated Content)です。UGCプラットフォームは誰でも気軽に投稿でき、ライブ配信中のプレゼントが主要な収入源となります。それに対して、PGCプラットフォームは主に独自の有料コンテンツで利益を得ていて、投稿の制限も比較的多いです。UGCプラットフォームに比べるとユーザーと配信者とのインタラクションが劣ってしまいます。

中国の調査会社iimediaによると、2019年の中国の音声コンテンツユーザー数は全人口の約35%である4.89億人に達し、2020年に5.42億人に伸びる見込みです。そのうち、有償サービスを利用したことがあるユーザーは全体の7割を超えています。また、中国新聞出版研究院の調査によると、2019年までにオーディオブックを利用する習慣のある中国人は31・2%に達しました。

ソース:
https://www.edisonresearch.com/infinite-dial-2019/
https://www.afpbb.com/articles/-/3315517
https://www.iimedia.cn/c400/75159.html

中国の音声配信プラットフォーム

前文でご紹介したように、中国における音声コンテンツには多くのバリエーションがあり、ポッドキャストのみならず、多方向に展開しています。
例を挙げると、大手音楽配信アプリであるQQ musicやNetEase Cloud Music(日本のSpotifyのようなイメージ)は、アプリ内で音楽配信サービス以外に、ポッドキャストや個人の音声コンテンツ配信サービス、音声ライブ配信サービスを提供し、更に最近はオーディオブック市場にも進出しています。それ以外に、実は音声市場を牛耳っているのはオンラインのみの音声コンテンツを配信するプラットフォームです。
ここでは、中国の音声市場で三つ巴となっているプラットフォームを月間アクティブユーザー数(以下にMAU)の順にご紹介し、また独特なニッチにあるプラットフォームを一つ加えます。

(1)PGCプラットフォーム――himalaya FM(ヒマラヤFM)

2013年にサービスを開始したプラットフォームです。MAUが続々と増加し、2020年10月には1.1億人に達する、中国最大の音声配信プラットフォームです。himalayaは小説やコンテンツの版権を取得し音声化した作品を提供するPGC戦略をメインに取っています。そのおかげで、サービス開始のわずか半年後に1,000万ユーザーを達成し、現在は5億ほどのユーザー数を誇っています。

himalayaで聞ける音声化した小説はオーディオブックのみならず、キャラクターを分けた音声ドラマも多くあります。オンライン小説から、『三体』のようなすでに出版されたヒット小説まで、多様な音声化小説を提供しています。小説以外にも、語学、早期教育、お笑い、ポッドキャスト、ラジオ、ニュースなど、ユーザーの様々な好みに応じています。また有料コンテンツも多種多様で、有料会員限定の小説解説や教育レッスン、「知識の有料化」に力を入れています。有料サービスには2018年に開始以来、400万人以上が登録しています。

もちろんhimalayaにはPGC以外に、個人ユーザーが配信するコンテンツやライブもあり、配信者は600万人以上です。音声ライブ配信で好きな配信者にプレゼントを贈ったりすることも可能です。2018年1月にhimalayaは音声コンテンツの提供者に1年間で30億元(約450億円)の支援をすると発表し、話題となりました。トップ配信者は月に260万元(約4,100万円)のレベニューシェアを受け取っていると言われています。

(2)PGCプラットフォーム――Qingting FM(チンティンFM)

2011年にサービスを開始し、2020年5月時点でプラットフォームのMAUは2,215.46万と、市場シェアはhimalayaに続き第2位です。Qingtingはhimalayaと同じPGC+UGCの戦略を取っていますが、ハードウェアで競合と差別化しています。配信者、ユーザー、パートナーとなるハードウェア提供会社の3者で市場をつくることを「オーディオフルエコシステム(音頻全場景生態)」と呼び、そのMAUは1億人以上となります。

himalayaより早くサービスを開始したもののユーザー規模が劣っているQingtingは、コンテンツ面でもhimalayaと差別化しています。音声化した小説が多数のhimalayaと比べて、有名な知識人やコメンテーターとコラボし、人文・歴史・経済コンテンツに力を入れています。また、2021年2月5日にQingtingは、月額会員に加入すれば、全プラットフォームの内容を無料で聞けるサービスを開始しました。主に月額料金+コンテンツ別追加料金という課金形式を取っている音声市場において、大きな話題になりました。

(3)UGCプラットフォーム――Lizhi FM(ライチFM)

2013年のサービスを開始し、2020年5月時点でMAUは1,797.79万人、市場シェア第三位の音声配信プラットフォームです。音声配信プラットフォームの中で唯一の上場企業でもあります。

Lizhiは上述した二つのプラットフォームと異なり、個人配信コンテンツをメインとするUGC戦略を取っています。そのためコンテンツは比較的多種多様で、競合よりユーザーコミュニティの雰囲気を強調しています。創業者の頼奕竜は「ライバルはhimalayaではない」とインタビューで言ったように、ユーザーとクリエイターの間に音声による感情的な結びつきを作れるのが、Lizhiの独特な魅力です。またユーザー年齢も若く、2019年9月時点で60%のユーザーが1990~2000年生まれの若者です。一言でいえばLizhiは音声コンテンツのみのYouTubeに近いイメージです。

(4)PGC+UGCプラットフォーム――猫耳FM

2014年にサービスを開始したACG(Anime・Comic・Gameコンテンツの中国での通称)関連コンテンツを提供する音声配信プラットフォームです。2018年にbilibili(中国版ニコニコ動画)によって買収されました。市場シェアはまだ少ないですが、音声配信プラットフォームの中ではかなり独特な存在です。

猫耳はネット小説原作の音声ドラマや音声付漫画、音声ライブ配信などに力を入れ、BL(ボーイスラブ)小説の音声ドラマ、男性向け・女性向けの音声ライブ配信のようなサブカルチャー・コンテンツが主要内容です。また、音声コンテンツは静止画付で再生され、niconico動画のように、ユーザーのコメントが画面に流れる機能も付いています。2018年にプラットフォーム側は大ヒットしたネット小説『殺破狼』の著作権を取得し、プロの声優によって音声化し、有料コンテンツにしました。これが中国の商用音声ドラマの先駆けとなりました。日本ではこのようなコンテンツの多くはCDとして発売されますが、中国では猫耳にて多くオンライン配信されているわけです。

猫耳は上記三つのプラットフォームほどのMAUに到達するのが難しいかもしれないが、かなりニッチな市場に参入していると思われます。

ソース:
https://www.qianzhan.com/analyst/detail/220/200703-3f3f3762.html)https://www.sohu.com/a/448215892_114819

むすびに

ここまで海外、主に中国の音声市場をご紹介してきました。

中国では「知識の有料化」という概念が近年浸透しつつあり、音声配信サービスもその風潮に乗って身近なものになり、マネタイズを実現しています。それに対して、日本においてはラジオや音楽配信以外の音声配信サービスはまだ広く認知されておらず、可能性を多く拡げていけそうです。

関連記事一覧