テスラの未来型自動車製造を支えるイタリアIDRAのギガプレスマシン
世界最先端モノづくり企業テスラは、なぜ成功するのか?人気の理由はどこにあるのか?
テスラの製造業の先端動向の情報に触れるたびに日本のモノづくりの優位性は、ほぼ終焉に差し掛かっていると言うしかない現実がある。
今回の投稿では、テスラの図抜けたモノづくりを象徴する「ギガプレス」と、その「ギガプレス」のマシンを提供しているイタリアの機械製造会社IDRA(アイドラ)を紹介します。
テスラの未来型自動車製造を支えるイタリアIDRAのギガプレスマシン
著者:gram fellow デビッド・イマ
公開日:2022年6月9日
そもそもダイカストとは何か
テスラについては、前回記事(https://global-biz.net/middle_east/tesla-lithium-ion-battery-2022/ )のリチウムイオン電池の内製化だけでも大きなテーマです。しかしそれを上回る、日本のモノづくりにとってテスラは圧倒的なインパクトを持つ動きをしています。それが車体製造の抜本的な効率化を実現する「ギガプレス」(Giga press)の導入です。
ギガプレスとは、簡単にいうと、前例のない巨大なダイカストマシンをギガファクトリー(テスラの工場)の中に入れ、従来は千数百の溶接工程が必要だった車体の製造を一挙にワンプレスで仕上げる、車体製造のイノベーションです。リチウムイオン電池を自前で作ってしまうテスラならではの、既存の自動車製造にはなかった発想です。
ギガプレスの凄さを理解するには、まず、「ダイカスト」が何なのかを理解する必要があります。日本のダイカストマシンの第一人者である芝浦機械(東芝系列)の説明を引用します。
芝浦機械:ダイカストとは?
https://www.shibaura-machine.co.jp/jp/product/diecast/what/
ダイカストは、原材料である合金、ダイカストマシン、金型の3つの要素からなっています。
溶けた合金(溶湯)を金型の中に後発を加えて流し込む方法で、原材料から製品完成までの工程が1番短いといわれています。
ダイカストマシンには固定型、可動型という2つの金型が取り付けられており、圧入された溶湯がすばやく固まると、可動型が開いて製品が取り出されます。
(1)精密な寸法(2)正確な仕上がり(3)美しい表面(4)優れた強度を持つ複雑な形状の製品を大量生産できるため、その価値は高く評価され、金属加工業界の中で重要な位置を占めています。
上に見るように、ダイカストでは、複雑な金型を用意すれば、そこに溶けた合金を流し込んで鋳造することで、精密な寸法の、優れた強度を持つ、複雑な形状の製品・部品を大量に生産することができます。
ダイカストで作られた精密な部品の見本が以下にあります。
ダイカストは、原材料である合金、ダイカストマシン、金型の3つの要素からなっています。
株式会社東京軽合金製作所:ダイカスト法により製造した部品
溶けた合金(溶湯)を金型の中に後発を加えて流し込む方法で、原材料から製品完成までの工程が1番短いといわれています。
ダイカストマシンには固定型、可動型という2つの金型が取り付けられており、圧入された溶湯がすばやく固まると、可動型が開いて製品が取り出されます。
(1)精密な寸法(2)正確な仕上がり(3)美しい表面(4)優れた強度を持つ複雑な形状の製品を大量生産できるため、その価値は高く評価され、金属加工業界の中で重要な位置を占めています。
https://www.ryobi-group.co.jp/tk/products06.html
一方で大型の部品をダイカストで生産するためには、大きな力で固定型と可動型の2つある金型を上と下から締め付ける必要があります。金型の中に入っていく溶けた合金(溶湯)は、大型部品を作るための金型の隙間に入っていく訳ですが、それを金型の隅々に行き渡らせるには、非常に大きな圧力で溶けた合金を送り込む必要があり、それが固定型と可動型の間から漏れ出さないようにするのに、極めて大きな圧力で双方の金型を密着させる必要があります。
ダイカストマシンの大きさを言う際によく「○○トンのダイカストマシン」といいますが、この「○○トン」がダイカストマシンが固定型と可動型にかける圧力の大きさを表しています。以下の記事の引用部がその事情を物語っています。
溶湯が流し込まれた金型には大きな内部圧力がかかるため、そのままでは溶湯が金型の隙間から漏れ出してしまいます。それを防ぐために金型同士は大きな力で密着させる必要があるため、鋳造中ダイキャストマシンは常に高圧力で金型を双方から押さえつけています。これを型締めと呼んでいます。
Metoree【2022年版】ダイキャストマシン3選 / メーカー5社一覧
https://metoree.com/categories/die-casting-machine/
テスラのギガプレスは6,000トン?9,000トン?それとも12,000トン?
テスラのギガプレスの凄さを、ダイカスト用金型会社の視点で詳しく解説している記事がありました。非常にわかりやすいので共有します。
大髙製作所:テスラに見たダイカストとイノベーション
https://www.otaka-ss.jp/about-mold/20210529/
上の記事によると、日本で最大のダイカストマシンは、プレス圧力が4,000トンの芝浦機械のマシンだそうです。
テスラのギガプレスのマシンについては、まず「それが6,000トンだ」ということで、大騒ぎになりました。例えば、日本の記事では昨年6月22日の以下がこれについて触れています。
EnergyShift:テスラのものづくり魂「メガキャスティング」 モデルYフロント・リア部のアンダーボディを一体成形
https://energy-shift.com/news/6ca5bcdb-44e2-46ff-91e3-fc9fe7695a17
それから米国のTwitter界隈でギガプレスが話題になり、「それが9,000トンだ」という指摘が相次ぎました。今年の5月に入ってからです。
このギガプレスの大騒ぎの中心には、Alex (@alex_avoigt)という人がいます。この人はテスラの製造技術の最先端をレポートするYouTuberのようです。彼に関する諸々の記述によると、この人が2021年10月にベルリンのギガファクトリーを見学した際に、そのどでかいダイカストマシンについて実際に見聞し、Twitterなどでレポートしたようです。これで米国Twitter界隈のギガプレスの騒ぎが大きくなりました。
そうして、テスラが出願している特許などを調べて、技術的な説明を加えた以下の記事が出ました(この記事もAlexがベルリンのギガプレスを訪問したことに言及しています)。テスラが将来的に予定しているのは、6,000トンでも9,000トンでもなく、12,000トンだというのです。
Tesla Develops 12,000-Ton Giga Press for Production of the One-Piece Car Body
https://www.tesmanian.com/blogs/tesmanian-blog/tesla-develops-a-12-000-ton-giga-press-for-the-production-of-a-car-body-in-one-piece
上記のダイカスト金型の専門家である大髙製作所は9,000トンのダイカストマシンでも驚愕していましたから、12,000トンのダイカストマシンとなると、どうなることでしょうか。
Tesla significantly outperforms competitors as it invests heavily in the development of technologies for production. It is reported that, in the future, the company intends to use the 12,000-ton Giga Press to cast car bodies in one piece.
和訳
テスラは競合相手に対して極めて大きな競争力を持つことになる。生産のための技術開発に大きな投資を行うからだ。同社は将来的に、自動車の車体をひとつのピースとして鋳造する1万2,000トンのギガプレスを使う予定だ。
この記事にはテスラが出願している自動車の車体を一体成型する仕組みの図が添付されています。
ギガプレスのマシンを設計製造しているイタリアのIDRA
このギガプレスの機械をどこが作っているのか調べていくと、イタリアのダイカストマシン製造会社IDRA(アイドラ)が浮かび上がってきました。(IDRAについては後から複数の日本語の記事でも紹介されていることが判明しました)
ギガプレスマシンができあがるまでを説明しているIDRAの動画が圧巻です。
以下は、IDRAが2021年6月頃に公開した「ギガプレス」を組み立てるプロセスの動画。ギガプレスの巨大さは”百聞は一見に如かず”というところがあるので、ぜひともご覧いただきたいと思います。おそらくこれは6,000トンのダイカストマシン。
IDRA GROUP | Assembly of No. 3 Giga Press in Idra Italia
そして、2022年5月31日に公開された下の動画が9,000トンのギガプレスを組み立てるプロセス。物量感が半端ではありません。
IDRA GROUP | Assembly of the Giga Press 9000t in Idra Italy
なお、同社が会社PRとして制作しているギガプレス開発ストーリーなどの動画は同社のYouTubeチャンネルに集められています。
https://www.youtube.com/c/IdraGroup
9,000トンのギガプレスはTwitterのテスラウォッチャーが「テスラのトラックCybertruck製造用だ」と指摘したところ、イーロン・マスク本人によって、そうだと確認が入りました。
車体製造を一発で済ませようよ!という発想
このギガプレスによって、自動車製造工程の何がどう変わるのでしょうか?
それをよく示しているのが、テスラの2022年第一四半期の投資家向け説明資料の画像です。以下のTwitter投稿にリンクされている画像をクリックすると詳細が見えます。
左がモデル3の既存の車体構造。171の部品がハイライトされています。
右がギガプレスを導入した工場の車体構造(青の部分)。右の写真の171の部品がギガプレスによって一体成型された2つの部品でできあがっています。これにより、1,600カ所以上の溶接が不要になったと示しています。
ギガプレスの導入によって、自動車製造工場全体のうち車体製造に関わる部分(Body shop)のスペースが30%少なくできるということも、どこかで報告されていました。
こうしたギガプレスのインパクトを最もよく示しているのが上掲の金型会社の方が記している記事の以下のくだりでしょう。
日本のお家芸は、ピラミッド構造になった無数の工場が無数の小さいパーツを作り、精度が出たものをきちんと精度よく組上げる職人技だと思います。
これはそう簡単に真似できるものではありません。
では、どうするか?
テスラでは、この寄せ集めて組み立てることを度外視しました。
「そういう手間がかかるもの」 ではなく
「めんどくさ。違う方法で一発で作ろうよ」
それを、細かい一部ではなく、 ゼロベースで根底から考えた。
そしてこれをこのスケールでやってのけた。
テスラがすごいのは、既存の自動車製造の常識にとらわれることなく、理想的な「解」に向かってひたすらに邁進して、それを実現してしまうところです。ギガプレスマシンの要求に応えたIDRAもすごいのですが、それを要求したテスラもまたすごいのです。
実は、ギガプレスマシンの中に入る溶けた合金(溶湯)は、ギガプレスの金型の隅々に行き渡り、また、そこで冷却されて部品として取り出されるまで、従来のダイカストマシンにはなかった非常にデリケートな特性が要求されます。テスラはその合金の特性に関して特許を出しており、さらに、その特許について解説した動画まで登場しています。
テスラの製造技術を取り巻く「祭り」は、当面終わる様子が見えません。