リチウムイオン電池の内製化を図るテスラ

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テスラ(Telsa)が最近公開したドイツのギガファクトリー・ベルリン(Giga factory Berlin)の内部を紹介する動画がすごいです。構内にドローンを飛ばして撮影したシーンをいくつか編集でつなぎ合わせているようです。

テスラは、日本での販売台数が1桁万台に留まっているため、あまり存在感はありませんし、その衝撃的なすごさが日本の経済メディアで報じられることもほとんどありません。その背景は以下の日経記事で報じられています。つまり、テスラはメディアの取材をほどんど受け付けない会社なのです。

日経新聞:テスラの新工場「ギガテキサス」 その恐るべき実力(2022/5/10)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC287U50Y2A420C2000000/

従って、テスラ に関して知るには、様々な公開情報をパズルのように組み合わせて、その全体像ならぬ「部分像」を仮説として作り上げ、その仮説が正しいかどうかさらに多種多様な検索を重ねていくしかありません。
(なお、商業的な調査であれば、この先に、現地の専門家やOBなどにヒアリングをかけるという方法も使えます。弊社ではそのような「エキスパート・インタビュー」と呼ばれる調査の受託も行なっています。海外の専門家やOBなどにヒアリングをかけて、結果をレポートします。)



リチウムイオン電池の内製化を図るテスラ

著者:gram fellow デビッド・イマ
公開日:2022年6月3日


日本のモノづくりの優位は、ほぼ終焉に差し掛かっている

筆者は、前職の米系IT企業のコンサルティング部門のリサーチャーとして製造業もテリトリーのひとつとしていたことがあり、また、業務系ITのライターとして数多くの事例などの取材を重ねた際に、製造業系のIT導入事例、例えば、3D設計の当時最先端事例などを見て、理解して、記事にまとめていました。日本の製造業については、ある程度は心得ている方だといえます。自動車業界も担当していた時期があり、日本の最大手の自動車メーカーの方とも接していました。

日本のモノづくりはすごい。もちろん筆者もそのように思っていましたし、今でもそのように思っています。

しかし、毎日のように、テスラの製造業の先端動向の情報に触れ、それらの情報に含まれている固有名詞や技術の名称、それらにリンクしているものを確かめているうちに、日本のモノづくりの優位性は、ほぼ終焉に差し掛かっていると言うしかない現実があることを認めざるを得ません。それは上の日経記事を読むことでも、ある程度は分かってくることです。また、上の動画を自動車の生産ラインがある程度わかっている人が見れば、その先進性に圧倒されることでしょう。日本の自動車工場の生産ラインが50年昔のものに思えるほどです。

テスラの凄さを確認できるユニークな株主総会

テスラが、年次株主総会を”バッテリーデイ”(Battery Day)と呼んでいて、株主に対して過去1年間の動きを報告するだけでなく、同社のリチウムイオン電池生産の取り組みを紹介するイベントにしていることは、あまり知られていません。同社は、株主総会で過去1年の取り組みを説明することよりも、同社のリチウムイオン電池開発と生産がどこまで進んでいて、この先、どこに行こうとしているのかを株主に詳しく説明することの方が重要だと考えているのです。

Tesla Battery Day 2020 – New 4680 Batteries & Model S Plaid

25,000ドル程度の大衆向けEVを市場に投入

それは現在のEV(電気自動車)の価格の3割〜4割をリチウムイオン電池が占めるからで、電池のコストがEVの最終的な価格を決めているところがあります。従って、EVを市場にどんどん普及させようと思うなら、すなわち、低価格のEVを市場に投入してシェアを拡大していこうと思うなら、リチウムイオン電池の低価格化を図ることが最優先だということになります。

事実テスラは、2021年のバッテリーデイで、価格が25,000ドル程度の大衆向けEVを市場に投入する計画に言及しています。これは低価格の電池が生産できるようになることを踏まえて、低価格のテスラ車が可能になるということをいっています。

電池の低価格化には、電池そのものの製造コストの低減が不可欠です。昨年のバッテリーデイのイーロン・マスク(Elon Musk)の発言を元にすると、同社はリチウムイオン電池を自社のギガファクトリーと呼ばれる工場で生産すること(内製化)を考えています。

上記日経記事によると、同じ工場の上の階でリチウムイオン電池を生産し、電池は重いので、上に上げると電力等を消費してしまうため(それは二酸化炭素削減を徹底的に追求しているイーロン・マスクにとっては、承服しがたいことだと思います)、上の階で製造したリチウムイオン電池を、下の階にある自動車アセンブリラインに下ろして、自動車に組み入れるという工程を考えているようです。

パナソニックが4860型電池を生産する!?

いずれにしても、テスラがリチウムイオン電池の内製化を考えていることは、複数の記事から明らかです。以下の記事も参照。

Tesla is going to build ‘completely new batteries’ at Gigafactory Berlin, German official says(2020/7/27)
https://electrek.co/2020/07/27/tesla-build-new-batteries-gigafactory-berlin-german-official/

Tesla’s Berlin gigafactory will accelerate shift to electric cars(2022/3/7)
https://www.cleanenergywire.org/factsheets/teslas-berlin-gigafactory-will-accelerate-shift-electric-cars

これは、これまでテスラにリチウムイオン電池を供給してきたパナソニックにとっては、大変に頭の痛い問題でしょう。内製化を図るテスラに対して、どのような協力が可能であるのか?特に、現在、EV用電池生産でカギになっている大容量の4680型リチウムイオン電池の生産で、どのようにテスラに協力できるのか?例えば、テスラのギガファクトリー内でパナソニックが4860型電池を生産する…といった新しいタイプのコラボレーションが出てくるのかもしれません。

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