日本のコメ・ご飯・おにぎりを欧州で売る vol.2

ビジネスコラム

IT事業の起業のためにブダペストに1.5ヶ月、ロンドンに1.5ヶ月、キッチンのあるゲストハウスに宿泊し、現地で食材を買って自炊していたので、両都市の「コメ」「ご飯」の事情がおおむね把握できた。
結論から言うと、日本人の味覚から見て現地で入手できるコメはあまりおいしくなく、日本の「ふっくらした炊きたてご飯」は望むべくもない。
そのため、日本のコメを「炊き方と一緒にして売る」ならば、うまく行く可能性がある。言い換えれば、炊きたてのふっくらしたご飯の味を、おにぎりなどの形で現地に浸透させて行けば、かなりのやりようがあるように思う。

日本のコメ・ご飯・おにぎりを欧州で売る vol.2

著者:gramマネージャー 今泉 大輔 
公開日:2020年08月19日

地域概要情報 英国 (United Kingdom)

ブダペストのコメ事情

ブダペストは広域都市圏の人口が約340万人。公共交通網がしっかり整備されている立派な大都会である。ハンガリー、スロヴァキアを含み、オーストリア、ルーマニア、ウクライナなどにまたがる巨大なカルパチア盆地の中心にある都市で、11世紀からハンガリー王国として大きく栄えた。同盆地で産出する豊かな農産物とドナウ河の舟運によってもたらされる各国の物産とが、ハンガリー王国の富の源泉になったようである。5〜6世紀からワインが作られているワインの名産地でもある。
古くから富の蓄積が進んだため、ブダペストの市街地は石造りの立派な建築物で埋め尽くされている。日本から行くとその建築群のあまりの壮麗さに圧倒される。行政府の建物だけでなく、一般的な住居や商業施設もすべてが歴史ある石造建築物になっているのが特徴だ。
街並みを歩いていると、大変に豊かな市民生活水準を実感することができる。購買力平価基準の一人当たりGDPは2003年の数字で2万ドル(日本は2018年に4万4,000ドル)だが、15年も前の数字であり、現在では3万ドル程度にはなっているはずである。2004年のEU加盟により経済発展に勢いが付いたようだ。東側諸国にありがちの経済が沈滞している様子はまったくない。

中心街にあるシーフードレストラン”Big Fish”。新鮮な魚介類を選んで調理してもらう方式。
同店でグリルしてもらったサーモンと白身魚。しっかりとおいしい。

ただ、為替レートがまだ弱いようで、日本円を換算して得られる現地通貨フォリントは、日本人の感覚からすれば日本円の2倍近い使いでがある。レストランの食事や公共交通は日本の半額に近い感覚一方で、国外から輸入品として入ってくる商品、例えばオリーブオイルなどはフランス、英国の二倍近い価格が付いている。
ハンガリーは日本から少し高級な商品としてコメを持って行って売れる市場という意味ではなく、現地でコメがどのように食べられているかという観点で見て行きたい。

石造りの建物で埋め尽くされているブダペスト中心街。路面電車も走っている。

炊飯器がないところでおいしいご飯を食べるには

ブダペストでは欧州各国で展開しているスーパーチェーンのうち、SPARが圧倒的な存在感を放っている。都心部では日本のコンビニのように至るところで中規模・小規模店舗が展開している。500mも離れていないところに2〜3軒というケースもある。
それと並行して個人営業のソフトドリンク、タバコ、ビール、保存食品などを売る店も多い。コメはスーパーならほとんどの店で小型パックを売っている。
前回記事の写真で掲げたのは、イタリア料理リゾット用として売られているコメで短粒種。他にもインド料理用のコメ(長粒種)、タイ料理のジャスミンライスなど、料理別の米が500g入りの縦型ビニールパックとして売られている。見た目は高級食品。明らかに、特別な機会にコメを食べる人たち向けの特殊な商品である。
ブダペストでは炊飯器がないので、コメを「炊く」(炊き上がりに水気がなくなり、ちょうどいい硬さになる)ことは難しい。ブダペストに限らず、「炊いたご飯」を常食する習慣のない東アジア以外の国・地域に共通する課題だ。炊飯器がない。ただこのことだけで、おいしいご飯を食べることが難しいという状況がある。
そのため、コメを「煮て」、硬さがちょうどよくなったら水から揚げて、しばらく放置して、それをそのまま食べる、ないし、調理するという段取りになる。
別パターンでは、米のまま油で炒めてから調理しても良い(煮るプロセスは不可欠)。これは中東のピラフの作り方。油で炒めると、煮る時間を短くできる。
以上の煮るか油で炒めるかして調理すれば、日本人がそこそこおいしいと思えるご飯になるが、やはり、「ふっくらとした炊きたてご飯」には程遠い。

これらのことから、ブダペストの人たちは、日本のコメをおいしく炊き上げたふっくらご飯を、おそらくは一度も経験したことがないだろうという仮説が出てくる。都心に日本食レストランはあるが、まだ特殊な位置づけ。日本人の感覚で炊いた日本のおいしいお米のおいしさを、ほとんどの人は知らない。そこにビジネスチャンスがあるはずだ。

トルコ料理に欠かせないライス

本稿を、2020年8月に見直している最中に思い出したが、ブダペストに多数あるトルコ料理レストランでは、トルコ料理に欠かせないアイテムとして「ライス」を提供していた。トマト風味が付いた「おかず」と一緒に食べる「ライス」である。
これが日本人の感覚から言えば「おいしいご飯」「炊きたてご飯」とは言えないものだった。日本米の感覚からすれば、砕けた米の比率が非常に多い(つまりふっくら感に欠ける)、ボロボロした感じの、食感もボソボソした感じがある、そういうライスだった。複数のトルコ料理レストランで同じようなライスに出会ったので、おそらくそれが同地の庶民派トルコ料理レストランの標準なのだろう。
こういうところに日本の「炊きたてご飯」を持っていくと、まったく別の世界から来た特別においしい食べ物として受け止められると思う。欧州では日本のコメを”Sushi rice”(寿司用のコメ)として売っているが、おそらく、「スシご飯」といった特別な食べ物として喜ばれると思う。

ブダペストのトルコ料理レストランの「おかず+ライス」。

※本稿は、ITmediaオルタナティブブログ インフラコモンズ今泉の多方面ブログ「日本のコメ・ご飯・おにぎりを欧州で売る」を改稿したものです。

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