バルト三国の経済状況の違い
1990年代の同時期に独立を回復したエストニア、ラトビア、リトアニア。この3国は2000年代に入って急激な経済成長を見せたため「バルトの虎」と呼ばれたが、成長が緩やかになった現在の経済状況は各国で異なるものとなっている。本記事では税収・生活費等の視点からみていく。
バルト三国の経済状況の違い
著者:エストニアgram fellow さえきあき
公開日:2024年6月8日
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独立回復から経済発展、現在に至るまで
バルトの国々は1991年のソ連崩壊に伴って次々に独立回復を宣言した。最初にリトアニア、それに続いてエストニア・ラトビアという順だ。ちなみにこのソ連回復後は「独立記念日」ではなく「独立回復記念日」である。独立記念日はロシアからの独立を、それ以後はソ連に併合されたためソ連からの解放は「回復」という言葉で表される。3国すべて独立は1918年となっているため、現地人と話すときは間違えないようにしたいポイントだ。
2000年以後の成長は安価かつ質の高い労働力に起因し、この時に外国からたくさんの投資が行われ経済的に成長した。バルトの虎とはこの時代のバルト諸国を指す単語で、現在は急激な成長を見せているわけではないので使われなくなった。
2024年時点でのバルト諸国の国民ひとり当たりの総所得は、欧州内では中間より少し下あたりといったところだろう。エストニア23.2k、ラトビア17.7k、リトアニア19k(全て€)となっている。ハンガリー(東欧)が16.5k、ドイツが47k、スペインが30.3kといえば、高いわけではないが目立つほど下に位置しているわけではないことがうかがえる。
各国の税収
画像の一番上が各国の税収をグラフ化して表したものである。2023年のものは見込みであり、2022年までのグラフは実際の数値を反映したものとなっている。グラフはほぼ横並びであるが、人口を考えると少し不思議な結果となっている。表の一番下が国別人口なのだが、一番多いリトアニアと一番少ないエストニアでダブルスコアとなっている。しかし、エストニアの税率が特別高いというわけではない。VAT(付加価値税)という日本でいうところの消費税はエストニアは22%、リトアニア・ラトビアでは20%だ。給料から引かれる税金が一番高いのもリトアニアである。エストニアがどこから税を集めているのかは、税収の内訳を見るとわかる。
2022年のラトビア予算全体における税収の大部分は、強制的な社会保険料と付加価値税によるものである。リトアニアでは付加価値税が最も多く、エストニアでは付加価値税と物品税が大半を占めている。この物品税 (exercise duties) がかかるのが、酒・たばこ・燃料・電気など。以前の記事でも触れたようにエストニアにはフィンランドから週末を利用して酒を買いに来る人が多い。そして箱単位で買っていく。これがエストニアが他2国とは違って物品税が税収の上位に位置する理由ではないだろうか。
生活にかかる費用
月の生活コストも国ごとに変わってくる。下の表は、バルト三国の首都における平均給与をもらっている両親に2人の子どもがいる想定の世帯収入だ。手取りが最も多いのはエストニアだ。税引き前はリトアニアが一番だが、約35%が引かれ手取りはエストニアよりも少なくなる。
そして、3つの主な固定費(食費、光熱費、公共交通費)を比較し、これらの費用を使える額から差し引いた後、どのくらいのお金を手元に残せるかを明らかにしたのが下の表だ。
食費が最もかかるのはエストニアで、手取り給与を考えると妥当な結果である。ラトビアはそもそもの給与も少ないため、一見食費があまりかかっていないように見えても食費・家賃・交通費が全体に占める割合が高くなっている。国間で大きな差があるようだが、2021年以降、平均給与は3つの首都すべてで大幅に上昇しているのだ。調査に使用された世帯の給与はリトアニアで最も伸びており、42%という驚異的な伸びを示している。同じ期間でラトビアでは29%、エストニアでは24%増加している。その分、過去3年間で食品の値段も倍近くになっている。食品価格の増加はエストニアで最も大きかったので、手元に残る金額はエストニアが一番多いとはいっても生活費が増加したことに変わりはない。
まとめ
バルト三国は独立回復のタイミング、経済成長が著しかった時期などが同じであったが、現在では成長率や経済構造に違いが見られる。しかし、過去数年間での所得の上昇や経済構造の改善などから、引き続き経済発展が期待される地域といえる。三国間をつなぐ鉄道の建設企画など、国間での協力を強化する動きもみられている。元ソ連の国は貧しいというイメージがつきがちだが、そのイメージを払拭できる日も近いかもしれない。