環境対策と観光needs|スペインが見据える電動キックボードの行方

スペイン

2023年7月の道路交通法改正により、日本でも気軽に楽しめるようになった電動キックボード。フランスでは事故の多さから2023年9月にレンタルサービスが禁止され、世界的に安全性の問題が話題となった。しかし、ここスペイン・バレンシアで外を歩けば、通勤・通学での住民の足としてはもちろん、観光客がレンタルelectric scooter(e-scooter)で街を駆け抜けているところをよく見かけるし、環境に優しい移動手段として広く普及していることがわかる。

本記事では、スペイン人の生活に浸透している電動キックボードについてお伝えする。

環境対策と観光needs|スペインが見据える電動キックボードの行方

   著者:スペインgramフェロー 北田ミヤ
公開日:2024年3月26日

スペインでのe-scooterの歴史

スペインではPersonal Mobility Vehicles(VMP)や、Patinetes(パティネテ)とも呼ばれるe-scooter。

2018年にスペインに最初に参入した共有サービス会社は Limeだった。

主な都市であるマドリード、バルセロナ、マラガ、バレンシア、セビリアなどでは2018年の1年間で40万人以上がLimeの電動スクーターを利用したとも言われ、一気に人気となりスペイン全土で150万回以上のトリップがあった。1回のトリップの平均は約2㎞で、都市交通の一部として重要な役割を果たしている。更にスペインのLimeユーザーはわずか1年で約70,750キログラム(78トン)の二酸化炭素排出を防いだと推定されており、Limeの電動スクーター参入はスペイン都市部の環境改善にも良い影響を与えた。

またLimeに続き、スペインの自動車メーカーであるSEAT(セアト)がアーバンモビリティブランド「SEAT MÓ」を立ち上げ、2020年7月からスペイン・バルセロナでシェアリングサービスを開始。SEAT MÓは「SEAT MÓ eScooter 125」と「eKickScooter 65」を展開している。

これらの2大シェアサービス会社はスペインの都市移動性を促進し、効率的で持続可能なマイクロモビリティソリューションを提供している。

メリット・デメリット

2024年1月よりスペインで新しい規制が施行された。

すべてのe-scooterモデルはDGT(交通総局)が発行した最新の規制に従って承認されなければならず、車両は交通当局のウェブサイトwww.dgt.es/vmpに表示されている認定されたブランドとモデルでなければならない。

最大速度は6〜25km/h、電力はself-balancingでは無い場合≦1000w、self-balancingの場合≦2500W、重量は50kg未満、最長2Mまで。

2つの独立したブレーキとブレーキライトを含むライトの装備、車輪が3つ未満の車両には駐車中に使用するstabilisation systemが必要となる。

ドライバーの規則は以下の通り

 ・ヘルメット着用義務付け、違反者は200ユーロの罰金と車両没収の可能性
 ・走行禁止の歩道や車道で捕まったライダーは罰金
 ・高速道路、バイパス、トンネルでの走行禁止
 ・2人乗りは100ユーロの罰金
 ・走行中のイヤホン使用は200ユーロの罰金
 ・飲酒運転禁止、200ユーロの罰金

バレンシアの街にe-scooterが最適な理由

筆者の住むバレンシアはスペインの中でも観光地としてメジャーな都市のひとつであり、年間860万人の観光客が訪れる街だ。

現在、市内のほぼ全域をカバーする約200kmにわたる十分な幅を確保した自転車レーンが整備されているので、自転車レーンを走行するルールになっているe-scooterを運転することは市民にとっても観光客にとっても大変快適な環境であると言える。

また、バレンシアは年間300日以上雨が降らず冬も温暖な気候で、坂がほとんど無いことも、e-scooterが便利な移動手段として広く利用されている一因となっているのではないかと感じる。

バレンシアに訪れた観光客はレンタルe-scooterで街を観光することができる。

(平均レンタル価格は1時間あたり約10ユーロ)

e-scooterを利用することで、バレンシア市の世界遺産を含む主な観光名所やアートギャラリーなどを交通渋滞やバスの時間などを気にすることもなく、効率的に巡ることができ、人気となっている。

まとめ

スペインの電動キックボード市場は2024年には約10.3億ドルに達すると予測されており、特に若者を中心にその利用者が増加傾向にある。

都市部の持続可能なモビリティを促進し、交通渋滞や環境への負荷を軽減するのに重要な役割を果たしているe-scooterは、現在では環境に優しい交通手段としての地位を不動のものにしている。一方で交通違反の増加や重大な人身事故なども報告されており、電動キックボードの運用には適切な規制が必要不可欠である。日本では今回、時速6km以下での歩道走行許可やヘルメットも努力義務となるなどの法律の変更があったが、歩道や自転車専用レーンの利用・ヘルメットの着用・速度制限などについては世界的に議論されている課題だ。

安全で持続可能な都市環境を実現するために、都市計画や交通政策の改善等、継続的な取り組みが必要だ。

【参考】
◇Sur in English:
https://www.surinenglish.com/spain/new-rules-for-electric-scooters-come-into-20230719130631-nt.html

◇Inbound tourism in the Valencian Community, Spain 2022 | Statista:
https://www.statista.com/statistics/771942/annual-number-of-international-tourists-visiting-the-region-of-valencia-spain/

◇国土交通省:
https://www.mlit.go.jp/jidosha/jidosha_fr7_000058.html

◇Spain Has Taken 1.5 Million Lime E-Scooter Rides… | Lime Micromobility:
https://www.li.me/blog/spain-1-5-million-lime-scooter-rides-one-year

北田ミヤ

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スペイン在住のgramフェロー 経済上から時事ネタ、現地のマナーまで幅広く執筆。

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