ラトビアのロシア系住民問題|歴史的背景と現代の課題

エストニア

バルト三国の真ん中に位置する国、ラトビア。ソ連に組み込まれていた国に共通するトピックのひとつが、ロシア系住民。彼らに対する現地人の感情は複雑である。国としていくつか措置を取ってはいるが、既にできている大きなロシアンコミュニティをどうにかすることは難しい。ラトビアにおけるロシア系住民の分布や生活などについて見ていく。

多文化共生の挑戦:ラトビアのロシア系住民問題から学ぶビジネス戦略

著者:ラトビアgram fellow さえきあき
公開日:2024年7月10日

ラトビアとロシア(ソ連)の歴史的関係性

ラトビアは1918年に独立した後、1940年にソ連へと併合され、再度独立することになったのは1991年のことだった。この間にロシアからの人の往来があったのが、現在のロシア系住民のルーツにつながっている。

ソ連時代はロシア語を学習しなければいけなかったため、そして民族としての意識を抑えられていたため、様々な理由からラトビア人はロシアに良い感情を抱かない人が多い。ソ連時代に生きていた人はもちろん、若い世代にもその感情は受け継がれている。

ラトビアのロシア系住民の人口と分布

ラトビアのロシア系住民はバルト三国の中で最も多い。以下の画像はラトビア国内のロシア系住民の分布を示している。

(画像参照元: LSM.lv https://eng.lsm.lv/article/society/society/which-parts-of-latvia-have-most-russian-citizens.a497264/

中央統計局のデータによると、ダウガフピルス、リエパーヤ、レゼクネの3つの都市ではロシア系住民の数は人口の5%に達し、ユルマラと首都のリガでは全人口の3%がロシアパスポート保持者である。リガとその周辺にはロシアに限らず他国からの移住者が多くいるため、驚くことではない。目立つのは国の東側の地域だろう。南東をベラルーシ、東側をロシアと接していることから移住へのハードルが比較的低く、昔移り住んできてそのまま定住することになったのだ。

図はラトビアに住むロシア人の年齢別統計だ。

(画像参照元: LSM.lv https://eng.lsm.lv/article/society/society/which-parts-of-latvia-have-most-russian-citizens.a497264/

やはりソ連崩壊前に来ただろうと推測される60代が最も多く、若い世代になるにつれてぐんと人数は減ってきている。

ロシア系住民にとって生活はどうなのか?

「生活をする」という一点に絞っていうと、生活はしやすい。

ロシアと地理的に近いこと、そして歴史的な因果関係もあり、ロシア語を喋ることができればラトビアに限らずバルト三国で生きていくことができる。ただし、スーパーの品名等は基本的に現地語のみ、レストランでは現地語+英語での表記で少し不便なこともある。とはいえ、公的な書類は現地語+ロシア語+英語の3言語表記が当たり前であり、街中を歩くと時折ロシア語が聞こえてくる。加えて、ソ連崩壊前に生まれた人たちは、人種に関わらずロシア語の読み書きが少しできる。

そのため現地語のラトビア語は苦手でロシア語メインで生活しているという人は一定数存在している。そして、ほぼロシア語しか喋ることができない人も一定数存在しているため、その人たちを相手にするサービス業において、ロシア語話者に最適のポジションも同様に存在する。

生粋のラトビア人たちはこのことをよく思っていないらしい。その証拠かは定かではないが、ラトビアの永住権申請方法のひとつにラトビア語の読み書きが一定レベルできることが条件として加えられている。ちなみに、ソ連時代からラトビアにいたロシア系住民のうち、ソ連崩壊にともなって無国籍となった人たちが10万人以上いる。国籍取得には、永住権と同じくラトビア語のテストをパスしなければならない。彼らは既に年老いており、新たに言語を覚え始めるのは大変難しいため、無国籍のままラトビアで生活している。

国としては、ロシア語の使用をできるだけ少なくしていきたいという方針が垣間見えるが、ロシア語話者は大きなコミュニティを作り、そこで完結する生活を送っているため、完全な解決はまだまだ先のことだ。もしくは、解決には至らないまま国がつづくことになるだろう。

まとめ

ラトビアとロシア系住民の関係は、歴史的背景と現代の社会状況の複雑な交錯によって形作られている。ソ連時代の影響は未だに色濃く残り、ロシア語話者の存在とそれに対する政府の政策は、社会における大きな課題だ。ロシア語話者は大きなコミュニティを形成しており、完全な解決はまだ先のことかもしれない。未来に向けて、ラトビアがどのようにして多様な背景を持つ市民との共存を実現していくのかは注目すべきだろう。

【参考】
◇LSM.lv:
https://eng.lsm.lv/article/society/society/which-parts-of-latvia-have-most-russian-citizens.a497264/

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さえきあき

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エストニア在住のgramフェロー 経済上から時事ネタ、現地のマナーまで幅広く執筆。

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