ヨーロッパトップクラスのスペインの風力発電 ~成長拡大が期待される洋上風力発電には課題も

スペイン

スペインの総電力供給の約20%を占めている風力発電は、総容量でヨーロッパのトップクラスを誇り、2023年時点での世界風力発電ランキングでは5位と、スペインは国際的にも風力発電国として高く評価されている。一方で地中海・大西洋に面し大きなポテンシャルを持つ洋上風力発電の開発は、技術的・経済的・規制的ないくつかの問題が絡み合い、他のEU諸国と比較して発展が遅れているという課題もある。本記事では同国の再生可能エネルギーの主要な柱のひとつである風力発電の現状と問題点についてお伝えする。

ヨーロッパトップクラスのスペインの風力発電 ~成長拡大が期待される洋上風力発電には課題も

   著者:スペインgramフェロー 北田ミヤ
公開日:2024年12月2日

スペインの風力発電における歴史と現状

スペインは1990年代から風力発電の導入を積極的に進めてきた。気候変動の対策としてますます重要視される風力発電は、2020年代に入ってもなお拡大が続いている。
一方で、同国の主な風力発電所は、ガリシア州、アラゴン州、カスティーリャ・イ・レオン州、アンダルシア州などの風が強く最適な条件を備えている北部や内陸部に集中している。地域間での不均衡があり、送電網のインフラ問題、地域の環境影響評価や住民の合意を得るための長期に渡る複雑なプロセスや許認可手続きの問題など、様々な課題を抱えているという側面もある。
また、風が弱かった2021年夏期には電力危機に陥るなど、出力が天候に左右されるリスクの懸念もある。
とはいえ2023年のスペインにおける風力発電総容量は約28,000MWと、ヨーロッパ内では第2位に位置し、国内エネルギーの主要供給源となっている。
現在スペイン政府は風力発電のさらなる拡大を目指し、2030年までに総再生可能エネルギーの割合を74%に引き上げる計画を立てていて、国内エネルギーの受給率を高めるだけでなく、温室効果ガスの削減や環境保護にもますます寄与していく方向だ。

(大陸北上中にハイウェイより撮影)

世界的に成長が見込まれる風力発電市場

気候変動対策の重要性が高まる中で、風力発電市場は世界的にみても急速に成長を遂げている。特に風力発電は二酸化炭素排出が少ない再生可能エネルギーのひとつであり、多くの国で政策的支援を受け、拡大している分野だ。
2022年から2030年までの予測では、年平均成長率(CAGR)が8.6%前後まで推移するとされており、2030年までには1600億ドル(約22兆円)規模に達する見込みである。
特に急成長しているのがヨーロッパ・北米・アジアで、中でも2023年時点で1位の中国(約365,000MW)、2位のアメリカ(143,000MW)、3位のドイツ(67,000MW)、4位のインドに続き5位のスペインなどが主要プレーヤーとなっている。
ドイツ・スペインが市場を牽引するヨーロッパでは、特にオフショア(洋上)風力発電に対する投資が活発で、欧州・アジアでのプロジェクト増加に支えられて急成長中の市場規模は2020年時点で約約300億ドル(約4兆円)だったが、2030年までには約800億ドル(約11兆円)に達すると予測されている。

(アラゴン州の風力発電)

オフショア風力発電における課題と展望

広い海岸線を持ちながらもスペインは主に陸上風力発電を行っていて、急成長中のオフショア風力発電の開発が他のヨーロッパ諸国と比較して遅れているという課題がある。洋上風力が大きなポテンシャルを持っているにもかかわらず、その進展を妨げているものは何だろうか。
以下に主要な原因を詳しく見ていこう。

広い海岸線を持ちながらもスペインは主に陸上風力発電を行っていて、急成長中のオフショア風力発電の開発が他のヨーロッパ諸国と比較して遅れているという課題がある。洋上風力が大きなポテンシャルを持っているにもかかわらず、その進展を妨げている要因とは何だろうか。
以下に主要な原因を詳しく見ていこう。

1、水深と技術の問題
スペインの沿岸はすぐに深い海域に入ることが多く、浅瀬が広がる北海・バルト海と比較して従来の固定式洋上風力発電の設置が難しく、比較的新しい技術である浮体式風力タービンが必要となるケースが多い。技術の成熟度において固定式に劣り、開発にかける時間とコストが増加している。

2、規制・政策の課題
陸上の風力発電や太陽光発電と比較し、オフショア風力発電に関して、スペイン政府による政策やインセンティブが十分に整備されておらず、手続きが複雑で長期化したり、海洋保護政策や漁業組合との調整も進展を妨げる要因のひとつだ。

3、優先順位と環境影響評価の問題
すでに太陽光発電や陸上風力発電が大規模展開されている同国は、海上風力発電が後回しにされている傾向がある。
また、海上の建設には漁業活動・海洋生態系・海岸線の景観等、複数の環境要因が関わるため、一部の地域では観光業や漁業への影響を懸念する声もありプロジェクトに対する地域の合意を得ることが難しい。

以上のような課題を抱えながらも、スペイン政府は「再生可能エネルギーのロードマップ」の中で2030年までに3GWの洋上風力発電開発を目指すとしており、技術的に優れた浮体式風力発電の開発も進行中である。技術面・コスト面を含む様々な要因をクリアにしていくことや、政府の政策支援によって、今後スペインでもオフショア風力発電の導入が大幅に加速する可能性は十分あるといえる。

まとめ

風力発電は、世界的にも多くの国が気候変動対策として開発を優先しており、今後も成長が見込まれている分野である。例えば、国際エネルギー機関(IEA)は、2050年までに世界の風力発電への累積投資が5兆ドル(約700兆円)を超える可能性があると予測していて、引き続き再生可能エネルギーの中心的な存在となる見込みだ。
特にオフショア風力発電の成長が顕著なヨーロッパ諸国の中で洋上分野では遅れをとっているスペインも、技術革新とコストの低減が今後の拡大を後押ししていくことが期待される。

【参考】
◇ Global Forecast to 2030:Wind Power Generation Market by Location,Application, Technology,and Region
https://www.marketsandmarkets.com/Market-Reports/wind-power-generation-market-260637042.html

◇ Statista:Wind energy in Spain – statistics & facts
https://www.statista.com/topics/9046/wind-energy-in-spain/#topicOverview

◇ Asociación Empresarial Eólica:Wind energy in Spain
https://aeeolica.org/en/about-wind-energy/wind-energy-in-spain/#:~:text=With%20more%20than%2030%2C000%20MW,second%20in%20 Europe%20behind%20 Germany.

◇ Size, Share & Industry Analysis:Wind Power Market in Spain Size & Share Analysis – Growth Trends & Forecasts (2024 – 2029)
https://www.mordorintelligence.com/industry-reports/spain-wind-energy-market

◇ WindEurope:Spanish Government and wind industry sign Spanish Wind Charter at WindEurope 2024 in Bilbao
https://windeurope.org/newsroom/press-releases/spanish-government-and-wind-industry-sign-spanish-wind-charter-at-windeurope-2024-in-bilbao/

◇ Roadmap offshore wind and marine energy in Spain(PDF):
https://www.miteco.gob.es/content/dam/miteco/es/ministerio/planes-estrategias/desarrollo-eolica-marina-energias/enhreolicamarina-pdf_accesible_tcm30-538999.pdf

◇ Wind – IEA:
https://www.iea.org/energy-system/renewables/wind

北田ミヤ

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スペイン在住のgramフェロー 経済上から時事ネタ、現地のマナーまで幅広く執筆。

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